十四冊目――七年目の記録最後――


 この間は全然まとめられなくって、そのまま書きっぱなしだったんでした。お姉さんとのこと、書こうと思います。でも少し長くなっちゃうかな? まあでも自分しか見ないので別に困らないですよね

 ぐちゃぐちゃで、いまだに整理がつかなくって、もしかしたら飛び飛びになっちゃいそうだけど、とりあえずうん、頭の中をまとめるためにも書こうかな

 最後のお別れをするつもりで、だけどそれ自体を伝えるつもりはもちろんなくって、ただ、最後にお姉さんに会いたかった。私の気持ちはただ本当にそれだけで、だから、本当に何を望んでるのかって、そんなこと分からなくって、ただ、お姉さんを見たときに気が付いたら涙が止まらなくなっちゃって、私だって自分で自分に何が起きたのかなんて全然わからなくって、訳も分からないのに、ただただ涙だけが出てくるなんて、そんなこと知らなかったから、ほら、もうぐちゃぐちゃ

 私はお姉さんと会って、何にも会話することもなくただ一目見ただけで泣いちゃいました

 なんで泣いちゃったのかとか、未だにわからないんです。ですけど、とにかく泣いちゃって、止まらなくって、かけ寄ってきてくれたお姉さんに無言で抱き着いた、ただ、泣いて。ずっと、結構ずっと、泣いてました

 普通にしてようって、いつも通りでいようって、ちゃんとあってそれでちょっと話していつも通りにお別れしようって、そうやって決めてたのに、私って、ほんとダメな子です。なんでこんな、涙があふれて、止まらなくなっちゃんたでしょうか?

 何分か経って、もしかしたら何十分だったかもですけど、とにかく私はずっとお姉さんに抱き着いて泣いてました。今から思うと、お姉さんのスーツダメにしちゃったんじゃないかなって、ちょっと心配です

 そのときずぅっと頭をなでてもらっていて、だから安心しちゃって、余計に涙が止まらなくなって、確かに私ってまだまだ子供なんですね

 それから手をつないでもらって一緒にコンビニに飲み物を買いに行きました。なんだか小さい子みたいでちょっとだけ、はずかしかったです

 でもやっぱりお姉さんの手は温かくって、はずかしいって思うのと同じくらい離したくないなって思っちゃいました。やっぱり私って子供です

 お茶を買ってもらって、それからまた公園に行ってベンチで座って暗くなった空を眺めてました

 雲があんまりなくって、だけど町は明るいから星なんか全然見えなくって、何にもない空がぽっかりと暗くって、それがなんだか無性に泣きたくって、それで私はまた泣きました

 なんでこんな私って泣き虫なんでしょうね

 知らなかったですよ。自分がこんなに泣き虫だったなんて

 色々考えて、こんなこと話そうって思ってたのに、いざあってみたら全然普通にしてられなくって、ずっと泣いちゃって、何にも言えなくなって、きっと私変な子です。わるい子です

 それから、もらったお茶を飲みながらぼーっとしてたんです。少したってから、お姉さんが一体どうしたのって聞いてくれて、私は何から話せばいいのか、どう話せばいいのか、本当は言ったらいけないって分かってるのに、だけどお姉さんに全部話してしまいたい、知ってもらいたいって、そんな風な自分勝手なことばっかり考えちゃって、またぐちゃぐちゃです

 いろんなこと考えながら、何か話したと思うんですけど、どんなことを口に出したのかってあんまり覚えてないんです

 ただ、グルグル頭の中でこんがらがったいろんなことをもうちゃんとまとめもせずに全部全部吐き出すみたいに口だけが動いていたのはなんとなく覚えてるんです

 もう何もかも言ってしまった気がして、隠してたこととか、話さないでいたこととか、どれがどれとか、全然判別がつけられなくなったくらいです

 それでもお姉さんは私のことをいやな顔もしないで聞いてくれて、それから色々話してくれました

 お姉さんも自殺しようとしたことがあるってこととか、人の価値は決してゼロじゃないってこととか、生きるのは時間が掛かるってこととか、ほかにもなんか色々難しいことも教えてくれました

 頭の中ぐちゃぐちゃで、内容もほとんど覚えていないんですけど、それでも一つだけ、たった一つだけ、ぐぅって私の心にしみ込んだ言葉があるんです


 例えば価値のない人がいたとして、だからと言ってその人が生きてちゃいけないなんてこと、あるはずないよ


 ってそう言ってくれて、それがなんだか訳も分からないけど、でも確かに私には大事なことなんだって、そう思えたんです

 私はずっと私には価値がないから、だから死なないといけないって、そうするのが価値のない私が唯一価値を持つことだって、そう思っていたから、だから価値がなくっても生きててもいいなんて、そんな風に考えたことがなかったから、ずっと死ななきゃいけない、ここにいちゃいけないって思ってたんです

 もしかして、私がいなくなる必要ってないのかな?



 あれからずっと考えてるんです

 なんで私はずっといなくならないといけないって、思ってたのか。考えてるんです

 答えなんかみつかりませんけど、でも考えてます

 どんなに無価値でも、どんなに無意味でも、死ななきゃいけない人はいないって、でも本当にそうなのかなって、良く分からないんです

 だって、時々テレビのニュースとかで暴力ふるって子供を死なせる親とかいるじゃないですか。一人の命をうばったなら一人分の命を返さないと不公平だって思うんです。そういう意味で死んだほうがいい人って絶対にいるって、そう思うんです。私がそういう人たちと同じかって言われたら、それは違うって思うんですけど、それでもやっぱり死んだほうがいい人間っているって思うんです



 この間三学期が始まったと思ったのに、もうそろそろ期末テストだって言われて、とまどってます。時間が経つのは早いです

 勉強もあんまり手につかないし、考えても答えは出ないしで、もうなんだかずっと寝てたいです



 どう死ぬか、じゃなくってどう生きるかなんて、そんなこと考えたこともなかったです

 学校の進路調査票を前にして困っています

 何も書けないです

 だって、私はずっと、もうずっと死ぬことばっかり考えていたから、だから生きることが何か、それがどういうことなのか、良く分からないんです

 どう生きたいか、どう生きればいいのか。そもそも生きるって何なんでしょうか? 私にはもうさっぱりわからないです

 未来を選ぶなんて、そんなこと私にできるのかな?



 結局白紙のままで提出してしまって、だから先生に呼び出されちゃいました

 なんで何にも書いてないのって、聞かれて。どうしようか少し迷って、それから生き方が分からないです。って正直に答えました

 先生はギョッとしてました

 そうですよね。だって周りのみんなは将来のことは分からなくっても一週間先、一か月先、一年先くらいはどうなっていたいかってことくらい少しは考えてますもんね。私は、勉強はするけどそれは目先のこと以外を考えないようにするためで、そんなの現実とうひ以外の何物でもありません

 だから私の勉強って、学校が目指す将来のための勉強とは全然違うんですよね

 そういう意味で私って、多分いろんなことをはき違えてるんじゃないかなって、今にして思うんです

 お姉さんに教えてもらったから、だからこれからどうすればいいのかって、そういうことを私は考えないといけないんですけど、でもやっぱりそういうのってすぐぱって浮かんだりしないじゃないですか

 だからどうすればいいの分からないんです

 それで、えぇとあぁそうです。先生にギョッとされて、それから何か好きなこととかやりたいこととかない? って聞かれたんです

 好きなこととかやりたいこととか、将来のこととか全部全部考えたこともなかったので、自分がどうしたくって、何すればいいのかなんて皆目見当もつきません。だから分からないですって、もう正直に答えるしかなかったんです

 先生は難しい顔をしてました

 難しい顔をして、それから


 もう一年だけゆっくり考えてみて、来年答えが出たら教えてくれる?


 って、優しく言ってくれました

 正直その瞬間はすごくほっとしました

 だって、私は今まで何にも持ってなくって、ほかの子みたいに何にも積み上げてきていなくって、大事なものも、必要なものの、好きなことも、興味のあることさえ、何にも持ってないんです

 そんな私のことを待ってくれるなんて、そんなことないって、おこられるってずっと思ってたから、だからすごくほっとしました


 一年かけて私は私のことを考えなくっちゃいけないんですね



 三年生が卒業式でした

 一年って早いですね

 一年生は卒業式には参加しないのでどんな様子だったのかは良く分からないですけど、でも新聞部の先輩も卒業だったので二年生の先輩は何やらいろいろしてました。私も手伝って、無事先輩に泣いてもらうことに成功したのでした

 私たち新入生の卒業式なんて、このくらいのもので、感動的だって思えるときはきっと当事者になってみたときなんだろうなって、思います

 小学校の時の卒業式も特になにもなかったですしね

 あ、でもクラスの男のたちは三年生は早く休みに入れてズルイって微妙に騒いでました。そんなもんなんですかね?



 でも、卒業式が終わったらもうすぐ私たちだって終業式で、春休みです

 春休みは宿題もなくって、やることが何にもなくなっちゃってちょっと退屈です

 ですけど、今年は考えないといけないことたくさんあるので、いつもの通りやっぱり図書館にこもっていようと思います


 来年はこれまでとは違う一年になりますように

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