十三冊目――七年目の記録冬――


 段々空気が乾燥してくるともう冬になるんだなって、しみじみ思います

 そういえば最近お姉さんと電話してないや

 でも、電話するときっと寂しくなっちゃうかな

 そろそろ、ちゃんと終わらなくっちゃいけないからね

 ロスタイムちょっと長かったかな

 ずぅっとずぅっと考えてたんだけど、やっぱりどう考えても私はこの世界には必要とされてないから、いらない存在だから、いるだけじゃまだから、だから私は、いなくならないといけない

 それが、一番いい方法だと思うんです

 初めから、生まれた最初の時から私は望まれてなんかいなかったから、だからあるべき方に戻らないとダメで、それっていうのはやっぱりここからいなくなることだと、そう思ってしまうんです

 何回考えても、何回思っても、何回否定しても、結局ここしか、これしか、私の選べるものってないって、そう思っちゃうんです



 そういえばそろそろ二学期終わりの期末テストの時期です

 最近あんまり勉強できてなかったから、少し心配って思ったんですけど、どっちにしろ私はもういなくならないとですから、あまり関係ないかなって思い返したりしました

 でも、折角だしテストはちゃんと受けようと思います

 それはそれ、これはこれの精神です



 テスト終わりました

 ここ最近はずっと頭の中で私の終わり方がグルグルしてて、テスト中もそうだったからちゃんと問題を解けたのかどうか、実はかなりあいまいです

 テストの内容も全然覚えてないですし、私テスト大丈夫だったんでしょうか? 果てしなく不安になってきました

 といっても不安になったところで別に何か変わるわけもないので、忘れることにします。平気ですどうせ私は悪い子ですから、テストの点が悪いくらいどうってこともないはずです

 でも、わるい子ノートはもうヤダな



 今日、初雪でした

 みんな雪は寒いからいやーって言ってました。男子ははしゃいでましたけど、私にはその両方が良く分からないです

 だって、雪も雨も、そういうものだから、だからしょうがないじゃないですか? どうにもならないことはさっさとあきらめるに限ると思うんです。これって変なのかな?

 無意味なことに体力を使うくらいならさっさとそれを捨ててしまったほうがずっと、ずっと楽です

 それでも捨てられなかったモノ、捨てたくなかったモノもありますけど、結局最後は捨てるんです

 余計なことは考えないほうが、消もうしなくってすむから、お得だと思います

 うーんもしかして、私はだから自分のことですら簡単に捨ててしまおうって思えちゃうんですかね?

 最近よくわからないんです

 ただ、私はいなくならないといけない。それは確かだと思うんです。でも、一体いつから、私はいらない子だったのかな? 物心ついたころには私はお母さんに愛されていなくって、だからそれは初めからなんだと思うけど、でもそれだってほんとのところは良く分からなくって、確かめてみたいって気持ちと、改めて突きつけられたくないって気持ちと、両方抱えてて、だからそれが、すごくつらいです

 長い時間、ずっとずぅっと素手で雪を抱えてた時みたいに痛くてつらいです

 最近の日記、こんなことばっかり書いちゃってますね

 誰に見せるでもないので、別にいいといえばいいんですけど、でもそういえばコレお母さんに見つかったら大変です。ちゃんと隠して置かないとですね



 テスト帰ってきました

 前回より平均点は少し落ちましたけど、それでもおおむね良好って言えるくらいの点数ではあったので一安心です

 それよりも、最近よくぼんやりしてるねって、言われてしまって、あぁ私ってぼんやりしてるんだって、ぼんやりしたまま思うんです

 いろんなこと、考えないようにしてて、だけどやっぱり考えちゃって、本当は考えちゃダメなのに、どうしても考えちゃうんです

 どうして私はこんなにも不必要な人間なんだろう、とか。どうして私には、みんなみたいに幸せになる権利がもらえなかったのかな? とか。そんなことです

 私別に自分が不幸で、可哀想な子だって、そういうふうには全然思えないんです。ただ、お母さんやお父さんに愛してもらえなかった、ってただそれだけで、それ自体は幸福とは確かに言い難いですけど、でもじゃあ幸福じゃないってことがそっくりそのまま不幸であるってことにはつながらないんじゃないかなって、そんな風に思ったりして

 なんだか良く分からない思考が良く分からない感じでグルグルぐるぐる流れていくんです

 大体テストだって、もういなくなるつもりの私に一体何の関係があるんだって話なのに、こうやって点数を気にしてるっておかしな話です

 それが私に染み付いたいい子の真似っこなのか、それとも何か別のもっと違うものなのか、私はそんな自分のことだって全然わからないんです

 唯一私が分かってることなんて、いなくならないといけない、ってただそれだけなんですから



 気が付けば冬休みです

 季節が過ぎるのって、結構あっという間です

 みんなはやっと休みだー、なんて言ってましたけど私はもう冬休みなんだって、気分です

 今年一年はいろんなことがあった気がします

 楽しいこともありました

 うれしいこともありました

 もちろんつらいことも苦しいことも、いやなことも、痛いこともありました

 私にとってはとてもいいロスタイムだったんじゃないかなって、そう思えます

 だから、私も私のやることをちゃんとやらないと、です






 今年は田舎には行かないそうです。残念

 別にお年玉が欲しいとかそういうことじゃないです。大体、結局去年のお年玉も全部お母さんに渡しちゃってそのあとそれがどうなったのか私は全然知りませんし、だから当然使ってもいません

 使わないお年玉なんて貰ってもしょうがないのです

 そうじゃなくって、私はおばあちゃんのお家に行きたかったなって、そう思ったんです。ただそれだけだったんです

 なのに、そういうふうに思うことの何が悪いことなんでしょうか?

 お母さんは一体何が気に入らなかったんだろう

 私がお母さん優先じゃなかったからかな?

 でも、わがまま言ったわけじゃないと思う。だって、私は行かないの? って聞いただけなんですよ。それなのに、たったそれだけで、どうしてお母さんの機嫌が悪くなるんでしょう? だって、少なくともおばあちゃんはお母さんよりも生きる意味のある人だと思うんです

 私やお母さんよりもおばあちゃんはきっと価値のある人だと思うんです。それなのに、どうしてお母さんは、おばあちゃんが好きじゃないのかな?



 知るって、分かるって、ざんこくなことなんじゃないかなって、私は思うんです

 私が望まれて生まれてきた子じゃないって、そんなこと知らなければ私はもしかしたらもっと幸せで、ともすれば私自身で私の無価値さを認めなくってすんだかもしれないのに

 こんなこと、本当は知りたくなかったし、本当は認めたくなんかないよ

 でも、お母さんを見てると、一緒にいると、話をすると、目を合わせると、否が応でもわかっちゃうんだ

 お母さんは私と同じ目をしてるんだ

 鏡の向こうの私を私がしかってるときの、あのどろみたいによどんでにごった目

 生きる意味をもたない私の目。じゃあ、お母さんはなんでそんな私と同じ目をしてるんだろうね

 去年あったおばあちゃんとは全然違う目で、お姉さんとももちろん違う目

 きっと、心の奥底であくまが眠ってるんだ

 それが目のおくからのぞいてる。だから私とお母さんは同じ目をしてるんだ



 何も考えないで、ただ終わりを選べればそれでいいよ

 でも、折角だし最後にお姉さんに会っておきたいな。いつなら都合がいいんだろう?



 電話で待ち合わせの約束をしました

 夕方に公園で待ち合わせです。あの公園です。私が失敗したときに一緒にお話をした公園です

 あぁ、でも何を話したらいいんだろう?

 正直に私死にますなんて言えないし、黙りこくってても不自然だよね

 なるべく楽しいお話できるように考えてみないと



 うーん、楽しいことって難しいですね

 最近は暗いことばっかり日記に書いているし、楽しいっていうのは悪いことだって、私はそう思ってたからだから、ぱっとそういうお話しって出てきません

 それともいつも通りでいいのかな? いつも通りの私で、そのほうがいいのかな?

 でも、そうすると今度は別の問題があるんです。最近はずっとねばってするみたいなどろみたいなことばっかりを考えてるから、お姉さんが知ってるいつもの私みたいになれるか、すごく不安なんです

 でも、あんまり悩んでいても仕方ないかもですから、最後にはちゃんとあきらめます


 私はあきらめるのだけは得意ですから



 一月三日。三が日の最終日です

 お姉さんに会ってきました

 なんかもう、ぐちゃぐちゃです

 そういえば、記憶にある中で私が最後に泣いたのってアーノルドとお別れしたときだったと思うんです。だから、ずいぶん振りに泣いたってことになりますね。私すごい、全然泣いてないです

 泣かない子って不気味なんでしょうか?


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