八冊目――六年目の記録 最後
変な人に会いました
私がぼぅっとしてぼう走ぞくのお兄さんを待っていたらだばだば涙を流したお姉さんと目が合いました
なんだかびっくりしたみたいで、むしろ私がびっくりしました
お姉さんは涙を流しながらなんだかうれしそうに私にだきついてきて、わんわん泣きました。大人なのにみっともないです
私がこんらんしてる間にぼう走ぞくの人たちはどっかに通り過ぎちゃいました
失敗です
私は死ぬのにさえ失敗しました
満足に死ねも出来なかったんです
なのにお姉さんはぎゅぅって抱き着いて来て温かくて、わんわん泣いてて、もう良く分かりません
しかもお姉さんが中々離してくれないからお家に帰るのが朝の六時を過ぎちゃいました
お母さんにはバレませんでしたけど、学校は眠くて仕方がなかったです
でも、変なお姉さんは、温かくて、やわらかくって、なんだか、久しぶりに人間に触れた気がしました
なんだか、気が抜けちゃったので、死ぬのは延期しました
どうしてか最近色々あります
卒業シーズンだからでしょうか?
ついこの間あったお姉さんに公園で会いました
ブンブン手を振られて、大きな声で声を掛けられて恥ずかしかったです
お姉さんはなぜか突然私に泣きながらぐちをはいてきました
いいめいわくです
なんでも、彼氏さんにふられたそうです。うわきされてたんだって。どうでもいいです
ひとしきり私にぐちをぶつけて満足したのか、ちょっと待っててって言ってどこかへ行ったスキに帰ってしまおうと思ったんですけど、待ってました。それがいい子だと思ったので
そしたらお姉さんはコンビニでジュースとかんビールを買って戻ってきました
オレンジジュースを私にくれて、かんビールを立ったまま開けてそのままごくごく飲んでました
そのあと気分よさそうなお姉さんに名前を聞かれたので答えたら、名前を連呼されて頭をぐちゃぐちゃになでまわされました。なんだっていうんですか、もう!
それからいろんなことを聞かれました
なんでこの間は夜中に一人であんな所にいたの? だの、今日も一人? だのって、よけいな おせわです
でも、なんだか温かった気がします
最近変なお姉さんによく会います
なんだか偶然にしては会いすぎる気がしますけど、私はあのお姉さん嫌いじゃないです
お姉さんはいろんな話を私にしてくれます
それで、私のことをたくさん聞いてくれます
きっともうお母さんよりも私のことを知ってるかもしれません
色々しゃべっちゃいました
最近、お姉さんと会うのを楽しんでいる自分がいる気がします
死のうとしてたのに、変ですね
でも、それもそろそろ終わりにしないと。だってもう卒業式間近だから
折角だから、ずっと書き続けてきた日記を読み返してみました
書いてあることがぐちゃぐちゃで、自分で書いたはずなのに全然記憶に残ってなくってびっくりしました
いや記憶に残っていないっていうのは多分違いますね
私は、多分覚えていたくなかったんだと思います。昔のことをずっと覚えていてもそれは私にとってはただただ辛いだけのことですからね
例えば、犬のアーノルドいっしょに過ごした時間はそんなに長くなかったですけど、それでももっといろいろあったと思うんです
思い出せると、思うんです。だけど、だめでした
思い出ににカギがかかってるみたいに思い出せません
わたしはこう見えてむかしからけっこうマメなところがあるし、多分アーノルドのことも好きだったから、すごくかまっていたと思うんです
だけれど、全然思い出せませんでした
ほんとうはもっといっぱい思い出があったはずなのに、全然思い出せない
アーノルドのことだけじゃない
日記に書いたこと、けっこう色々あったけれど、今の私は本当に全然覚えていない
覚えていられない
なんでだろう
過去って大事なはずだよね?
私ってなんでこんなに忘れっぽいんだろう?
いい子じゃないからかな?
もっともっといい子だったら、思い出忘れなくてもすんだのかな?
すこしこわいです
全部終わらせる前に少しでも私のことを整理しなおしておきたくて、またしょうこりもなく昔のことを思い出してみようと思います
二回目です、二回目、ツー
でも前にも書いた通り、私はずいぶん忘れっぽいみたいです
何度も何度も日記を読み返してみてたんです
でもどれだけがんばって思い出そうとしても、わたしのなかはからっぽです
からっぽ
からっぽ
思い出なんて本当は何にもないのかもしれません
日記に書いてあることはほんとうにあったはずのことなのに自分がそれを体験したっていう実感が全然ない
本当にこの日記ちょうはわたしのものなんでしょうか?
実はこっそり誰か別の人のものとすりかえられていたりしませんか?
こわくなります
それとも私が悪い子だから、そうなのか?
だれかに気持ちを伝えることってどうすればいいのでしょうか?
わたしにはわかりません
だって、私のお母さんは私が気持ちを伝えようとしても取り合ってくれないから
でもお姉さんは話を聞いてくれます
愛してるって何なんでしょうか?
そういえば、こういう時何か書き残したほうがいいんでしょうか
ほら、い書とか、そういうのを
まぁでもいらないかな。だって、この日記が残れば、それで十分な気がします
それともこの世界への恨みつらみとか何かそういうのを一生けんめい書き連ねておいたらいいんでしょうか?
でも別に、うらみなんて言ったって、必要のないのに私を生んじゃったことと、それから、私を生んだのがお母さんだったこと、そんなくらいですし、特に書くこともないです
ただ、私はこの世界にはいらない人間だから、だから死ぬ
それだけです
それじゃあ、こんどこそ、いってきます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます