六冊目――六年目の記録 春夏
六年生
今日から六年生になりました
六年生は委員会のまとめ役をやらなくっちゃいけなくって大変です
その代わり修学旅行に行ったりできます
またお母さんにガチャと修学旅行のこと言われたりするのかな
思った通りだった
今日修学旅行の案内のプリントをわたしたらお母さんが このお金があったらお父さんと二人で一泊の温泉旅行に行けたのにね っていった
私は泣きたくなった
だけど、きっと泣いたりしたら捨てられる
一人で孤独になんて生きていけない
だからこらえて、ゴメンナサイっていった
お母さんはなんであやまるのって 不思議そうだった
わざとやってるのかなって思ったけど なんでもないって言っておいた
鏡の中の私をしかるのはもういやだ
そういえばこの日記ももう六年目だけど一回も運動会について書いたことがなかったことを思い出した
私は運動があんまり得意じゃないから、なるべく話題に出したくなくって書いてなかったの
それに、両親はいつも運動会を見にきてなんてくれないから
でもせっかくだし小学校最後の運動会までの間を書いてみようと思う
運動会の練習
組体操は痛いし重いしつらいしいやだ
でも男子のほうが高くて危なそうなのをやってるからそっちじゃなくってよかったって思う
人の上に三段も四段も乗ったら危ないよ
運動会の練習
すみっこでおとなしくしてたから応えん団に すいせん されなくって良かった
あんな風に大きな声を出すのは苦手だ
運動会の練習で服を汚して帰ったらお母さんに怒られた
りふじんだと思う
私は一生けん命がんばって練習してるのに、服が汚れたくらいでどうして怒られないといけないの?
おかしいよ
でも、私はお母さんに逆らっちゃいけないから、何も言えない
つらいよ
私って何なのかな
運動会の練習
足の速い子がちょっとだけうらやましい
あんな風に早く走れたら気持ちいいのかな
私には走るのはつらいだけだよ
明日は運動会本番
運動会の本番でした
疲れた
みんなで一丸になって一つのことをたっせいするのは すがすがしかった
でも、お昼は毎年のように一人ぼっちで食べて、ほかのみんながうらやましい
なんで私は一人でお昼ご飯を食べてるんだろう
だって私だってお母さんもお父さんもいるんだよ
両親ともいるのに、いつも誰も見に来ないのは私だけ
やっぱり二人とも私にはきょう味がないんだと思う
私って何のために生きてるんだろう
今日から夏休み
もうあんな海はいやなので今年の夏は図書館にろうじょうを決め込もうと思います
図書館はいいところです
ずっと本を読んでても誰にもおこられません
ただお手伝いをしないとお母さんがおこります
だから家でお手伝いをしたら宿題をもって図書館に行くことにします
私は良い子だから
私は良い子です だから私は悪くないです
毎日図書館で本を読もうと思ったのにピアノの合宿に行かないといけません
私はピアノがあんまり好きじゃない
でもお母さんは行けって言います
いやそうにすると、目に冷たい色を浮かべます
それを見るとあぁもうそろそろ私は捨てられるのかななんて思います
私は捨てられちゃったらどこへ行ったらいいのかな
眠いのにお母さんは私のことを夜遅くに起こします
私はまだ小さいからおいしいものも食べちゃダメだし、お母さんのいうことには従わないといけないんです。私はまだ小さいんだから、夜は遅くまで起きてちゃいけないって言ったのはお母さんです
なのにお母さんが夜中に私を起こすんです
私が眠そうにすると怒るんです
お母さんは変です
そんな変なお母さんに育てられた私はきっともっと変です
最近気づいたことがあります
私は一人でいるときが一番落ち着きます
ゴメンナサイ違います
嘘を吐きました。お父さんとお母さんがいない空っぽのおうちに一人でいるときが一番落ち着きます
図書館で一人で本を読んでいるときは、司書さんに声を掛けられても安心です
でもお母さんに声をかけられると私はこわくてたまりません
これってやっぱりおかしいんでしょうか
最近私はぼんやりしてることが多くなりました
どうしてもいしきが薄れてしまいます
なんだか私はここにいないんじゃないかって気がしてきます
本当はこんなつらいお母さんは全部夢ならいいのになって思います
気持ちの整理がつきません
少し落ち着いたので書きます
お母さんと一緒に動物の映画を見ていたら、懐かしくなってしまって私はついワンワン飼いたいって言ってしまったんです
そんなこと言ったらいけないって分かってるのに言ってしまったんです
それでやっぱりお母さんに非なんされました
私がちゃんとお世話できなかったからお別れしたんだよねって、私がちゃんと生き物の命に責任持てなくって適当なことしたからお別れしたんだよねって、そういうんです
やっぱりお母さんは私がきらいなんです
お母さんは味方だからねって時々いうんですけど、そんなのぜったい うそです
だって、おかしいです
一日、たった朝ごはん一回分私が忘れちゃったからってあんな風にアーノルドとお別れする必要はなかったと思うんです
でも私はお母さんの言いつけを守らないときっとあの時アーノルドといっしょに捨てられちゃったから、アーノルドはもしかしたら一人で生きていけるかもしれないけど、私といっしょだときっと生きていけません
私はアーノルドにとってさえ足手まといでしかないんです
だから、
ほんとは知ってます
きっとアーノルドはもう死んでしまったんだろうって、知ってます
たしかに私が悪かったかもしれないです
約束守れなかったのは私です
でも、アーノルドはそんなに簡単に捨てたりしたらダメだと思うんです
私が納得しないと今度は私の番なんです
納得できなくても、お母さんに従わないとダメなんです
それなのにお母さんは私が納得して自分で進んでアーノルドを捨てたっていうんです
違うのに、アーノルドを捨てさせたのも、私にアーノルドをあきらめさせたのもお母さんです
それなのに悪いのは全部私だってお母さんはいうんです
お母さんは家族を簡単に捨てちゃう人なんです
だから、私もいつかきっと捨てられちゃうんです
お母さんは時々私に鏡の私をしからせた後に、愛してるとか お母さんは味方だよとか言うんです
でもそれはおかしいと思うんです
だってお母さんは私とガチャを比べるし、私と温泉旅行を比べます
私のこと大事だったらそんなことしないと思うんです
ジャンバルジャンの神父さんは銀のしょくだいをジャンバルジャンにわたしてしまいました
きっとガチャより高かったと思います
せめてお母さんと同じように人間として扱ってほしいです
最近学校で、どうしたの? 顔こわいよ? って言われます
私には良く分かりませんでした
変かなって聞いたらちっとも楽しそうじゃないって言われちゃいました
そんなことないよ、って言ったけどあんまり信じてもらえなかった気がします
少なくとも 家にいる時よりは学校のほうがずっと楽しい
今、日記を書きながらお顔のマッサージをしています
一行書いたら目元をグニュグニュ動かします
結こうかたいです
なんでそんなことをしてるかというとですね
担任の先生に呼び出されて、何かあったのかって聞かれちゃったからです
私そんなに変な顔してるんでしょうか
おうちでよく鏡を見ますけど、特にいつもの通りだと思うんですよ
それともいつも通りの私が変ってことなのかな
私は、私です私です、私、私、私なんです
また私が悪いんです
学校の先生にお母さんがこわいなんていうんじゃなかったです
捨てられる 今度こそは捨てられてしまう
こわいです
こわい
お母さんがのっぺらぼうみたいな顔で私に言うんです
お母さんを悲しませるために生まれてきたんだねっていうんです
変ですおかしいです
私です
私は、私は、私は、
私はお母さんに生んでほしいなんてお願いしたことは一度もないです
お母さんは私のことを生みたくなかったのにどうして生んだんですか
おかしいです
私は生きてちゃいけないんですね
分かりました
お母さんなんか、キライです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます