第六話 ソイツはアタシの顔を見て
「そうか……予定通りに襲撃したら、あの女が現れたと――そういう事か」
玉座に座る『俺』は口を開き、『俺』の門前で右膝を立てて跪く黄色いローブを身に纏い、深くフードを被った人物……部下の1人であるナンダに口を開いた。
「はい――その結果、主命に背き戦ってしまいました。大変申し訳ありませぬ」
『俺』はナンダに左手の掌を見せた――。
「詮なき事だ――謝るまでもない。しかし……ふふ――何とも縁があるな。面白き事だ。下がれ。次の作戦に備え、その身を休めるがよい」
「は――失礼致します」
ナンダの姿が霧と化して消える――『俺』は愉快な気持ちでいっぱいだった。順調に〈
(使い道が増々増えるな――しかし……)
そんな事はどうでもいい――『俺』は胸の奥を虚しい思いで満たした。
ベッキーの行方が
(ああ……ベッキー。何故なんだ!? どうして……!?)
彼女は自由人だ――とても誇り高く、気高い。ああ……ベッキー! 何という事か! 君の素晴らしさを、『俺』はまだまだ理解出来ていなかった様だ!
ベッキー! 行方が分からないという事が大変素晴らしい! 想像を軽々と超える彼女……『俺』の恋慕は激しく燃え上がる。ああ……抑えるのが大変だ!
(素晴らしい、素晴らしい! ははは!
『俺』は拍手をしながら踊りたい強い衝動を必死になって抑えた――ああ……ベッキー! 麗しの君よ!!
予想を裏切り、『俺』の心を掴んで離さない――ああ……っ! おお……ああ! 最高だ! 最高だ!!
「ふふ……くくく……ふははは……!!」
『俺』は笑った――ああ、ベッキー! 君は『俺』の伴侶に相応しい! 大変に相応しいぞ!!
はははは! あははははははは!!
◆◇◆
「へーくしょいっ!!」
急にゾクゾクっとした寒気を感じたアタシはクシャミを一発かました――エゲリアは不思議そうな顔をコッチに向ける。
「まあ、どうなさいました? まさか……お風邪を召されました?」
「いや~……風邪引く〈
「まあ、とにかく、これどうぞ――」
ベティはアタシに手にしたポケットティッシュを見せた。お。こりゃ助かるぜ!
「おう、サンクス!」
アタシはベティからティッシュを一枚貰って鼻をチーンとした――そして顔を正面に向ける。
場所はジャック=フットレル町にあるオーガスタス城ってトコだ。ソコの駐艇場にホワイト・クローバー号は着陸した。
船から降りたアタシらの前に、アタシよりもちょっと背が低い、男っぽい雰囲気の上品な服を着てる、眼鏡を掛けた
「副団長殿! お久しゅうございます!!」
彼女は右手を胸の中心に当てて、エゲリアに深々とお辞儀をする――。
「半年振りですね、お元気そうで何よりです――」
「ええ、副団長もお変わりないご様子――おや、ベティも! んん……? そちらの方は?」
「え? アタシ? おう! ベッキー=バーバラ=バートランドってんだ。よろしくな!」
ソイツはアタシの顔を見て、キョトンとした表情になった――そして『あれあれあれ?』ってな感じの顔色になる。
「あの……ドコかでお逢いした事は?」
アタシはちょっとビックリした。何言ってんだ、コイツ?
「いや、知らねーよ。初対面じゃん」
「あ――……そ、そうですよね。大変失礼しました。私の名前はドルシッラ。ドルシッラ=フルウィア=ノーブル・オブ・ペディグリー=ドーター・オブ・カウント=エケエケヘンミイル=サー・ライオネス。ライオネス伯爵家が三女にして、末子。歳は一七。アゴラン王国第三正騎士団所属の
「おう、そうかい――よろしくな、ドルシッラ!」
アタシは彼女と握手をしようと、右手を差し出した――ドルシッラは不思議そうな顔になる。
「は……はい。よろしく……です」
彼女はぎこちなく笑うと、アタシの手をそっと静かに両手で包み込む――その手はどういう訳か微かに震え、手汗に濡れていたのだった。
◆◇◆
「この度は大変失礼しました、ライオネス卿――いきなり訪ねてしまって……」
オーガスタス城の廊下に四人の靴音が響く――。
エゲリアはドルシッラの傍らに立つと、申し訳なさに満ちた心中を言葉に表した――。
ドルシッラは笑みを浮かべながら、微かに振り返った――ベッキーがベティと談笑しながら歩いている姿が彼女の目に入る。
顔を正面に戻したドルシッラは、信じられない、という思いを胸に抱きながら軽く息を吐いた。その表情には、心中に生まれた緊張がそのまま表れている。
「いえ、お気遣いなく。副団長、大変申し訳ないのですが、あの――彼女は本当に、あの『
「わたくしも、よもや、と思いました――とにかく、その裏が取りたいのです。ライオネス卿、厚顔無恥な頼み事ではありますか、助力を賜われないでしょうか?」
ドルシッラは笑った――敬愛する人からの願いなのだ。断る理由がない。
「はい、喜んで――彼女のパーティーを調べるのですね」
「ええ――とにかく、もしもバー……いえ、ベッキーが仰る事が本当ならば、由々しき事です。密かに王命を受けて行動しているかも知れません。いえ……ひょっとしたら、知らずに動かされているのかも分かりませんね」
「え――知らずに、ですか?」
ドルシッラは耳を疑った――ベッキーという人物が、本人の自覚もないままに『
そんな馬鹿な――ドルシッラは怪訝そうな顔になる。
(……嘘。そんな事が出来るなんて……だけど――)
アゴラン王国の暗部を一手に担うアレンビー子爵家……『
(反政府主義者の暗殺? まさか……対外戦争の準備の為に、敵国のスパイを探しているとか……?)
「とにかく、もしそれが事実なら……」
「ええ――非常に大きな事になるでしょう。覚悟しておかないと」
非常に大きな事――それは国家的な問題の事だ。ベッキーはそれに非常に深く関わっているに違いない。
そう考えた二人は揃って緊張した息を吐き、拳を握る――そして瞳に険しい光を宿す。彼女達の喉は苦い唾を飲み込んだのだった。
◆◇◆
王都アゴランポリスの東南東一八三kmの場所にある都市ヘンリー=クリストファー=ベイリー市。人口は四〇万人を数える。
その郊外にある飛空艇港内。レストランのテーブルを前にセレスタンが座っている――彼の心は精神的な疲れに満たされていて、それが表情にも現れていた。
「はい、これ――新聞。ガリアヴェルサンジェトリクス語のがあったよ」
彼の目の前に新聞が置かれる――セレスタンは顔を上げた。チェスターの笑顔が見える。セレスタンは驚き、慌てて居住まいを正したのだった。
「あ――メ、
「いいよ、いいよ、ムッシュ・セレスタン――ああ、そうそう。何か飲み物はいるかい?」
「い、いえ、ただの
「おーい、チェスター、セレスタン!」
二人の目が、笑顔で右手を振るリネットを見る――彼女の後ろにはアーリーンの姿があった。
「ファーストクラスの席取れたぜ~! 出発は一八時だってさ」
「うん、分かったよ――さてと……ねえ、アーリーン、ベッキーから連絡は……?」
チェスターに言葉を掛けられたアーリーンは軽く息を吐き、腰に手を当てる。
「いいえ。私の実家からの情報待ちですが……恐らくはまだアゴラン王国の中にはいるでしょう。では、参りましょうか」
四人は連れ立って施設内を歩く――セレスタンは緊張した心持ちで行き交う人々を注視した。
先日の新聞……ベッキーが乗った護送車が襲撃されたという記事が載っていた。アーリーンの話だと刺客に襲われた可能性が高いそうだ……。
彼は唇を引き結び、眉間を寄せ、苦い味の唾を飲む――彼は左腰の剣の柄に右手を置く。そして刺客の殺気を捉えようと、身体中に気を張り巡らせたのだった。
「ムッシュ・セレスタン、大丈夫ですよ――ここに刺客はいません。それ以前にべッキーを襲った相手は、貴方なんて眼中にないと思いますよ」
アーリーンの言葉に、セレスタンは驚き、右手を緩めた――刺客達は自分なんて眼中にない? どういう事だろうか?
「……え? な、何故ですか、マダム・アーリーン?」
「実家からの情報によると、今現在、我がアゴラン王国には三二振りの〈
「えっ!? そう……なのですか?」
「ええ――とにかく、急いでベッキーを見付けないと。まあ、きっと無事でしょうが……問題は、彼女は行く先々で、不思議と酷いトラブルに巻き込まれるタイプなのですよ。はてさて、今頃はどんな風になっているやら……」
アーリーンは疲れた風な溜め息を吐き、リネットは楽しげに笑い、チェスターは苦笑の体になる――セレスタンは不安と困惑を心に満たしたのだった。
彼の脳裏に、歯を見せて明るく笑うベッキーの顔が浮かぶ――。
(マドモアゼル・ベッキー――貴方を本当に……信頼しても大丈夫なのですか!?)
セレスタンは俯き、大きな溜め息を吐く――。
前途は真っ暗な闇の中。その現実が彼の心を苦く、そして重くさせたのだった。
◆◇◆
「へーくしょいっ!」
アタシはクシャミを一発かました――そしてベティから貰ったティッシュで鼻を噛む。そしてそれを丸めると、一〇m離れたゴミ箱に向けて投げた。ソイツは見事にその中に入る。へへっ! 何か気分いいぜ~♪
今、アタシはアルトを腰に下げて、オーガスタス城の応接間にいる。
偉いお貴族様の城だから、金ピカな飾り物が沢山あって、ちょっと眩しいぜ。
「ベッキーさん、お茶が入りましたよ~」
派手な装飾のドアが開き、そこからスゲー立派なティーセットを載せたワゴンを押すベティが現れる。そして彼女はテキパキした動作で、スゲー細かい細工がされてる、うっかり持ったら割れそうな感じのティーカップに紅茶を淹れる。そしてホタテ貝の形をした皿の上に、花の形をしたクッキーを盛り付ける。
「おう、あんがとさん。へへっ、美味そうなクッキーじゃん、どれどれ……」
アタシはクッキーを齧った――薔薇の香りがフワ~っと匂ってきて、何か女の子って感じの風味だ。う~ん……ちょっと鼻がムズムズするかも。苦手だぜ~……でも、味は結構いい感じで好きだ。匂いを我慢すりゃ、ドンドンいけるぜ!
「ふぁふぉふぁ、ひつはでほほにいなふひゃふぁんふえーんふぁ?」
「……あの、何いってるのか分かんないんですけど……?」
いけね! アタシは口いっぱいに頬張ったクッキーを、急いで紅茶を口にして腹ん中に流し込んだ。
「悪い! 『あのさ、いつまでここにいなきゃなんねーんだ?』っていいたかったんだよ。ベティ、移動の話はどうなってんだ?」
「ここに来て、まだ半日ちょっとですからね――その話は明日以降になるかも知れないですね」
「そうなんだ! じゃあ、ここ探検しようぜ、探検! きっと楽しいぜ~♡」
するとベティは『はぁ!?』な感じの顔になると、すっごく呆れた感じの溜め息を吐いた。何でだよ!?
「……あのですね、私は男の子じゃないんですよ――まあ、先程、お嬢様から、貴方の面倒を頼まれましたし、一緒に行きますけどね。好き好んでは……ちょっと」
「大丈夫だって、きっと楽しいから! よし! じゃあ早速行くぜ~!! 探検、探検~♡」
アタシは駆け足で応接間を後にした! よーし! アチコチ探検するぞ~♪
その時、立派な壺が見えた――高さ二mちょいある感じ。太さは三〇cmくらいだな。よーし、何か気になるし、この中を調べてみるか!
アタシはその壺を逆さまにした――すると古い鍵がポトンと床に落ちる。長さは一八cmぐらいだ。んん? 何だ、これ!?
「あ、ちょ、ちょっと、ベッキーさん!? 何してるんです!?」
「おう、ベティ、こんなのが見付かったんだけどさ、これに見憶えない?」
アタシは壺を元の場所に戻すと、鍵を拾って彼女に見せる――ベティは眉間を寄せ、ちょっと腕を組んだのだった。
「うーん……そうですね。まあ、なくはないですが――」
えええ!? マジか!?
アタシはスッゲー嬉しくなった!
「へー!! じゃあさ、教えてくんない? ねえねえ!」
するとベティは腰に手を当てると、首をガクッとさせて、重い感じの溜め息を吐いた。何で?
「……はいはい、分かりました。ですが邸内の探検は一時間だけですよ? 一時間を越えたら応接間に戻りましょう。いいですね?」
ベティは急にキツイ感じの口調になり、鋭い視線になった。
うわ、何か知らねーけど、怒ってるし!
てか、アタシ、ベティを怒らせる様な事……したのかなぁ? 全っ然心当たりねーんだけど。まあ、いっか。
ベティは「コッチですよ」と、アタシに背中を向けて歩き出す――その後ろを、アタシはすっごくワクワクしながら追ったのだった。
◆◇◆
屋敷の外に出て、ちょっと大きめの倉庫っぽい建物の前にアタシとベティは立った。アタシは金属製の重厚な感じの扉の鍵穴に鍵を突っ込んで回す。鍵が開いた音がして、アタシは楽しくなって口笛を吹いたのだった。よっしゃあ、ビンゴ!!
「へへ、やったぁ♡ てか、ベティ、何でこの鍵で、この扉が開くって分かったんだよ?」
「よく似た作りの鍵を知ってるんですよ――その鍵も、こういう場所の扉を開ける感じでしたし」
アタシは扉を開いて中に入る――。
中は明かりがなくって薄暗い感じだ――壁の左右には全長一二mぐらいの
そして建物の1番奥――ソコに全長一八mぐらいの、逆光の影に沈んでる
そん時である――ソイツの目ん玉が、ほのかに白く光った。
<<貴公、何者だ……?>>
ソイツは渋めの男っぽい声を出す――コイツ、喋ったし!
「アタシの名前はベッキー! ベッキー=バーバラ=バートランドってんだ! よろしくな!! アンタ、何て名前なんだ?」
<<私の名は
へー、コイツそんな名前なんだ~。
アタシは何だか楽しくなって笑ったのだった。
<<我が友よ、久しぶりですね。まさかこんな場所にいたとは……>>
アルトの言葉にアタシはちょっと驚いた――。
「え――コイツの事、知ってんの!? マジ!?」
<<ええ――これは運命ですね。ふふふ……♪>>
アルトは何だか楽しそうだ――まあ、古いダチに逢えたんだ。そりゃ嬉しいだろう。あ――そうだ! だったら宴会しないと駄目じゃん?
アタシは腰に手を当て、色々と考えを巡らせたのだった――さーて、どんな宴会にしようかな!? ふふふ~♡ ワクワクするぜ!!
◆◇◆
翌日――アタシは外を散歩したいってベティに頼んだ。そして濃い緑色をした晴空の下、ジャック=フットレル町の中を、アルトとベティと一緒に歩く。町ん中は賑やかに皆が行き交って、露店商の掛け声も威勢がいい。結構いい町だぜ!
ちなみにアタシはベティから『外に出る時は顔を隠して下さいねっ!』と念押しされてフードをすっぽり被ってる。まあ、アタシ、お尋ね者だし、まあ、しょうがないか。だけど……
(……そろそろ今月の保険の掛け金、支払い期限だよな? アタシ、お尋ね者になったって事は、基本給の支給も止められちまってるだろうし……。宴会の事もあるけど、その為の金稼がないと駄目じゃん? てか、多分、お尋ね者になったから、お袋の所にもポリ公来てるって感じになってる!? ヤッベ……!!)
アタシの頭の中に、警察署に呼ばれてポリ公の奴らに取り調べされるお袋の姿が浮かぶ――うーわーっ! ヤベエ! 超ヤベエ!! くっそ~!
(お袋、ごめんな~っ!! ちっくしょ~! もう、こうなったら、ガチでやってやるぜ!)
アタシは決意した。お袋にも迷惑掛けてるし、その埋め合わせをするにはあれをやるしかない! アタシはベティに顔を向けた。
「おい、ベティ。ちょっと力貸してくれねーか!?」
「はぁ? 何ですか……? あ、いっておきますけど、無茶な事は出来ませんよ! いいですね!?」
「いや、そんな大した事じゃねーよ。ただ、アソコに行って欲しいんだよ」
アタシは右手の人差し指を、とある建物に向ける――ソコには、ローランティア語で〈五羽の山鳩亭〉って記された看板を掲げてる冒険者酒場があったのだった。
◆◇◆
それから一五分くらい経った――〈五羽の山鳩亭〉の中から、ベティが姿を見せて、外でつっ立ってたアタシに駆け寄ってきた。その表情は『おいおい、マジかよ!?』って感じになってる……て、事は!
「おい、やっぱりあった!?」
「ええ……あの、ありましたけど……ほ、本気でするんですか!?」
「おう! 宴会しないといけねーし、お袋の保険金払わないといけねーし! それにベティ、アタシに付き合ってくれたお礼に、アンタに何かプレゼントしたいし!」
その時、ベティは頬を染めて、驚いた顔になった――。
「え……!? い、いいですよ! 結構です! 私、ちゃんとお給金を貰ってますし、欲しい物は自分で……」
「水臭い事いうなよ~! ダチじゃねえか! よっしゃ、燃えてきた~! 行くぜ、
アタシは右の拳を、天に輝く三つのピンク色をした太陽に向けたのだった――アタシって、ガチで幸運だっ!!
◆◇◆
「ベッキー?
場所はオーガスタ城――。
わたくしは彼女と話をしようと思い、部屋を訪れたのですが……誰もいません。それにベティの姿も……どうしたのでしょうか?
「副団長、どうなさいました?」
わたくしは振り返りました――ライオネス卿の姿が見えます。
「すみません、ライオネス卿――ベッキーとベティがいらっしゃらないのです。居場所を存じてはおりませんか?」
ライオネス卿は驚きに目を丸くします――そして首を傾げました。
「いえ、皆目。何の見当も……」
「そうですか……どうしたのでしょうか?」
私の胸中に言い知れぬ不安の影が生まれます――。
(まさか……秘密任務を行なう為に、姿を……はっ!?)
ベティもいない――…………ああ、いけない!!
私は己の不明を恥じました! そして慌てて部屋を飛び出します。
「ふ、副団長!? どうなさいました!?」
わたくしの背を追い、ライオネス卿も走ります――。
「いけません――このままではベティが!」
「ベティがどうしたのですか!?」
「ベッキーに殺されてしまいます! ああ……っ! わたくしの愚か者! どうして考えが至らなかったのですか!」
ベッキー……彼女は『
そして彼女は……考えたくもないですが、お父様が犯した不正の証拠を見付け、そしてその現場をベティに目撃されてしまったのです!
そして口封じをする為にベティを……古くからの友の命を!
(ああ……っ! ひょっとして今頃、ベティの亡骸は土に埋められているかも知れません。あるいは証拠隠滅の為に、燃やされて灰に……っ!!)
わたくしの心は深い絶望と悲しみに覆われました――。
視界は熱い雫に満たされ、ぼやけてしまいます。
でも、諦めてはいけません! まだ
「ベティ! 必ず貴方を守ります! どうか無事でいて下さいっ!!」
わたくしは走る速度を上げ、廊下を駆け抜けたのでした――。
◆◇◆
北の空に三つの太陽が沈もうとしています――濃い緑色の空を背景に、青い色の夕焼けが美しく映えています。
「はっくしょんっ!!」
私の名前はベティ。ベティ=コンチュチュ=ブルー。グッドウィン男爵家に仕える、エゲリア様付きのメイドです。急に鼻がムズムズした私は、両手を覆ってクシャミをしたのでした。
「おう、どうした?」
「いえ、何か埃でも吸い込んだんでしょうね……はぁ――」
……確か強いストレスを感じると、クシャミって出やすくなるという話を聞いた事があります。という事は……原因はベッキーさん、貴方ですっ!!
私はベッキーさんを睨みました。彼女はキョトンとして、純朴な表情です。何の悪意も感じられません……。そして私はガクッと俯くと、重い溜め息を吐いたのでした。
ああ、もう! どうしてこの顔を見ると、怒ろうって気持ちが消えてしまうんだろう? 不思議でしょうがない……。
「何だよ、ベティ……あ、何か怒ってる?」
「いーえっ! 怒ってませんよ! 何も怒ってませんったらっ!」
何だか気恥ずかしくなった私は、目の前にある焚き火の中に、小枝を思い切り突っ込んだのでした――宙に小さな火の粉が、勢いよく舞い上がります。
私達は今、ジャック=フットレル町から北東に約16kmぐらい離れた森の中にいます――どうしてこんな場所にいるかというと、ここの周辺に
ちなみに討伐賞金は二万五〇〇〇キングスポンド――結構な大金です。
と、いう事は、それなりに強い
ああ……お父さん、お母さん、姉さん達、妹の皆、下手をしたら、私、ここで死んじゃうかもしれない……家族皆の顔が頭の中に浮かび、私は何だか泣きたい気持ちになりました。ああ、もう……どうしてこうなった!?
(全部はベッキーさん! 貴方のせいです!)
私は怒りを込めて、彼女を睨みます――しかし彼女は手にしたアルトさん相手にお喋りしてて、コッチに顔なんて向けません。それを見た私はとてもガッカリした気分になり、彼女を睨むのを止めたのでした……。
<<ええ、倒した事はありますよ――こう見えても私、生前は
「へぇ~、マジかよ!? どんな感じだったんだ!?」
<<私が生身だった頃は、〈
ベッキーさんはアルトさんと楽しげにお喋りをしています――私は溜め息を吐くと、草叢の上に寝転びました。何だか、気持ちが酷く疲れて、このまま眠ってしまいたい気分です。すると、その時――頭の上に小さな足音が響きました。
私は驚いて身体を起こし、振り返りました――。
ソコには背の高い、黒髪の上品そうな青年の方がいらっしゃいました。
彼は穏やかな笑みを浮かべると、私達に会釈をしたのでした。
◆◇◆
「
アタシの目の前に、お上品な感じの男が現れた――ソイツは古そうな青い鎧を着て、腰には一mぐらいの長さをした剣を下げてる。背はソコソコで、一九〇cmぐらいだ。黒い髪に、穏やかな感じをした飴色の瞳。二枚目俳優みたいな顔立ちをしてて、結構カッコイイ奴だぜ。
「おう! そうだけど。アンタ、誰だい?」
「申し遅れました。私の名はジェームス=ジョン=ポンドと申します。見ての通り、〈
「アタシの名前はベッキー=バーバラ=バートランド! 王立自由騎士団所属の
「私の名前はベティ=コンチュチュ=ブルー。グッドウィン男爵家に仕えるメイドです。よろしくお願いします」
「ほう――左様ですか。成る程……では、失礼します」
ジェームスは感心した風な感じで呟いた――そして焚き火の前に腰を降ろしたのだった。座る所作が綺麗だ――無駄や隙がない。この感じ……コイツ、結構、剣の腕が立つ奴だな。
「ここでキャンプをなさっているという事は、見当がおありなのですか?」
「いや、全然――でもさ、ここって結構開けてるだろ?
その時、ベティがウンザリした風な溜め息を吐いた――。
「そうですか……まったく、当てずっぽうだなんて。
その時、急に近付く殺気を感じたアタシは、ベティの身体を抱えてジャンプする――その瞬間、アタシらが座ってた場所に巨大な青白い炎が当たって、ドッカーンってデカイ爆発が起こった!
アタシは振り返った――ソコには全長八mぐらいの
アタシとジェームスは着地すると剣を抜く――ベティはベルドポーチから、小さな模型っぽい鎧兜とハンマーを取り出すと、ソレに息を吹き掛けた。すると鎧兜とハンマーは光って大きくなり、そして彼女の身体に装着され、ハンマーが両手に握られる。へ~! カッコイイじゃん!!
「よっしゃあ! ベティ、ジェームス、やってやろうぜっ!!」
「ええ、ベッキー殿!」
「は、はい! ベッキーさん!!」
怒り狂った感じで
アタシ、アイツに会いたいからさ♪ 親指立ててヒッチハイクだ!! 湊風紳 煌騎 @amida897
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