ある罪を背負った作家の物語。芥川龍之介『地獄変』をモチーフとしてるため、この罪とは作家の業に関わるものである。誰かを犠牲にしても、良い作品を生み出せるのなら、その罪は相殺されるのか?世の人が絶賛するものを生み出せたとしても、犠牲になった側からすればそれは関係のないことではないか?など、多くのことを考えさせられる。ずっしりとした読後感のある物語だった。
極貧時代、彼は愛娘に非業の仕打ちを働いた。その苦悩を、罪悪を、懊悩を、ありありと作中に描いた。芥川龍之介の『地獄変』が、この物語の核となっている。愛娘の命を業火にくべた絵師の、愚かしくも凄絶な創作欲。天使と堕天使は語り合う。相容れない慈愛と憎悪を突き付け合って、一方が愛を説けば、一方は罪を晒し、文豪と少女の真実と未来に、彼らは答えを出さない。正しいものは何なのか、その嘘は過ちだったのか。多くを語らないそのリアリティが、すごく好き。