第25話
「ルシア王女がどうしてあのように化けたかはもはや私しか分からないだろう。」ファールフォーケン卿はミトに言った。「人間に転生するのが始めてであったがそれだけが理由ではあるまい。おそらく私の行った永久に生きる術によって突然変異をしてしまった。」
「そうとは思えませんね。」ミトは言った。「突然変異なんてものじゃない。起こるべくして起きた。プロテーア・クレアトゥーラ・・・つまり"神"が、確かにルシアの遺志を受け取ったからですよきっと。」
「ふはははは。小僧、何を言っている。」
「ルシアは心からこの世界の破壊を願っていますよ。間違いなく。」ミトは頭が"健二"と融合しているルシアを見ながら言う。「あなたに心底恐怖し、そして裏切られた悲しみと怒りを抱いて死んだのですよ。」
「ルシア王女は死んでいない。そして王女は私を信頼していた。そして確かに蘇り、私のことを好きと言ってくれた。」
「・・・・。」ミトは一時言葉に詰まる。「言わせたんじゃなくて?」
「それは勿論そうだ。」ファールフォーケン卿は平然と答える。「私の言葉の真似ばかりしていたから、ちゃんと言わせなきゃ話せないだろう。」
「とりあえず、あなたが、事件の元凶と罵るのに相応しい人間である事まではわかりました。」ミトはため息をついた。「ルシアを殺し、その死体で怪物をこさえた狂人め。」
「私は殺していない!」
「いいえ、殺していますよ、あなたの話を聞く限り。あれはルシアの魂をかたどっただけの、プロテーア・クレアトゥーラです。」
「ほう、じゃあ何で名前を覚えているというのかね?小僧。」ファールフォーケン卿は言う。
「ルシアにとって重要だからでしょう。彼女がずっとあなたに怯えているのと同じようにね。」老人の責めに対しミトはペースを崩さない。「あなたはルシアを殺した。そして、ルシアは死ぬ前に思ったあらゆる強い気持ちを、プロテーア・クレアトゥーラに込めたのです。」
「ふ、ふはははは!」ファールフォーケン卿はせせら笑い、そして叫ぶ。「この、無知が!何を言っている?」
「無知が何ですか!この事態を早く収束させるためには、あなたがまず最初にルシアに対し贖罪をするべきだと思うんですよ!」ミトは叫んだ。「ハッシュヴィル家の僕の先祖に悪いけど、あんたなんか、助けなければよかったんだ!あんたの謝罪を真に受けたばかりに、こんなことに・・・!」
激しい地鳴りが響く。ミトもファールフォーケン卿も振り返ると、頭と腕を引きちぎられた"健二"が瓦礫の上に倒れていた。
一方顔にも胸にも大穴が開いているルシアは「えううううううううううう」と激しく吠えながら苦悶し、そして顔が光る。再び山のふもとが爆発する。
「あぁ、まずいぞ、暴走している。」ファールフォーケン卿は珍しく慌てた表情だ。「ペンダントも破壊されてしまったし、私も制御できない。」
ルシアはもだえ苦しみながら進み出す。
「その方向は」花笑は菜々子を抱えながらルシアを指差して叫ぶ。「私たちの街!」
その時、瓦礫の上の"健二"であった肉塊がごぼごぼと動き出す。それに気づいたミトは肉塊の様子を見るが、動きが収まり、そして何も起こらない。がらりがらりと音がする。ルシアが空中でのたうちまわる間、そこはなにも動きがない。だが、暫くして、一人の影がある。その影は、あまりに、懐かしい。
「花澤・・・健二・・・。」
「本当か!?」ファールフォーケン卿がミトの前に乗り出す。「・・・本当だ・・・ありえん・・・じゃあなぜルシア王女は生きてらっしゃる・・・」
「どういう事ですか?」ミトは言った。向こうで花笑も健二に気づいたらしく呼びかけているのが見える。服を着ているが、瓦礫から拾ったのだろうか。
「私が君の先祖に助けられた時、それはルシア王女の致命傷だった。」ファールフォーケン卿はミトの質問に答えている。「私は"神"は王女の胸の中に入れた。だからルシアの本体は胸の中。王女は、完全に蘇るために人を取り入れていた。その人を奪われた時、死ぬはずなのだ。南極の時だって・・・。」
「ネムリダは南極のルシアが死ぬのは想定外だと思ってた様子ですが、もしやあなたはわざと殺させたんですか?」
「そんな事はどうでもいい。とにかく花澤健二がルシアの胸から除かれたとなれば、死ぬはず。それなのに一体どうして・・・あ!」ファールフォーケン卿は息を飲む。「坂井って自衛隊のやつが取り込まれていた。やつの身体と魂を動力に生きてるんだ。だが、それは私が取り込ませたもので、ルシアはそのうち坂井を拒絶する。それゆえ寿命は残り少ないが、その間に力の限り破壊し続けるであろう。そしてまた蘇る。次どこに蘇るかを調べなければ・・・。」
「その必要はないですよ。」もう花澤健二がすぐ近くにいた。「僕らのすべきことは、ただ、一つです。」
ミトは花澤を見る。ファールフォーケン卿も見る。花笑も。そして菜々子は目を覚ます。そしてあたりを見回し、健二に気づき、言う。
「一体、どうなってるの・・・?」
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