第13話
「南極!」奈々子はミトとブランコに乗りながらそれまでの物語を聞いて、驚いた。「南極で大爆発があったじゃない。」
「・・・そうです。」ミト少年の暗い声。奈々子は少し不安になって声をかける。
「・・・大丈夫?」
「・・・あの日、父は死にました。」
奈々子は息を飲んだ。
「南極で爆発が起きる前、何も言わずに出ていった。きっと何かあったんです。そのあとに父の訃報を聞きました。亡骸は残されていなかった。しかしそのあと、破壊ノ姫の亡骸が太平洋を浮上していたというニュースを来て、父は立派に仕事をされたのだな、と思い・・・泣きました。だけど、次がある。あの爆発事件の時、チームの人たちはほとんど死んでしまった・・・。また破壊ノ姫はどこかに転生するに違いない。だから僕は数人がかりで探し求めたのです。」
「どうやってここを見つけたの?」
「我々は何度かルシア王女を死なせ、蘇生先を発見する内に、次にどこに転生するのかをパターン化をすることに成功しました。だから次の転生先も大体の目測はついた。そして選ばれたのはここ、日本。そして、いろいろインターネットをリサーチしたら、
「ABYSS娘!」奈々子は思わず叫ぶ。
「やはり有名なのですね。」
「あのね。」奈々子はすこし笑い気味に言う。「私からも一つ、秘密を打ち明けてもいい?」
「何でしょう?」
「ABYSS娘はね。私の友達がやってる。」
「えっ!」
思わずブランコから立ち上がるミト。「本当ですか!」
「ええ、でも、こんな事、今までは恥ずかしかった。」奈々子はブランコの地面を蹴る。「だって、今まで多くの人に、変に崇められたり、インチキって言われたりしたから。」
「ABYSS娘の予言はムラがあるものの、その才能は本物です。」
「不思議な旅人さんがそう言ってくれて、私はとても安心してる。」ブランコの地面をさらに蹴りながら、奈々子は少年を見て言った。「ありがとう。ミト。」
ミトは隣でブランコを漕ぐ奈々子を不思議そうに見つめる。「奈々子さんは、その、」
「なあに?」ブランコに揺れながら奈々子は訊ねる。
「・・・いえ。」ミトは前方の砂を見つめる。「僕の事、信じてくれるんだなぁって、そう思ったんです。普通は信じてくれませんから。」
「そうね。確かに、摩訶不思議な話ばかり。ルシアだってミトだって、そんな存在だなんて証明もないけれど、なぜか、信じられるの。ABYSS娘と同じように。」
「あなたがABYSS娘と友達になれる方だからでしょうかね。きっと何か気づく力があるんでしょう。」
「ふふ、そうだといいね。」ブランコの砂を踏んで、奈々子は揺れる動きを止める。「でも、私になにができるだろう。」
「どうしたのです?」
「これから、健二くんのために、そして、人類のために、ミトは行くんでしょう。」奈々子も前方の砂を見つめる。「私は何もできない・・・。」
ミトはフッと鼻息を
「え?」奈々子はミトを見た。「私なんか、足手まといだよ。」
「そんなことはありません。それに。」ミトは奈々子を見て言う。「あなたは、もしかしたら、今のルシアを知っている数少ない人。ファールフォーレン卿がもしあなたの事を知ったら、あなたの身に危険が迫ります。だから私たちで保護しなきゃいけないかもしれない。」
「・・・。」
「それに、ABYSS娘に会わせて欲しいのです。」ミトは切り出す。「もしかしたら他の予感も掴んでいるかもしれない。できるだけ私は多くの情報が欲しいのです。」
「それならお安い御用よ。連絡して、会わせてあげる。」
「・・・ありがとうございます。」
「連絡といえば。」菜々子はふと思い出す。「健二と連絡がとれない。」
「彼は電波の届かないところにいますよ。」ミトは言った。「海上自衛隊の、おそらく秘密の基地にいます。」
「自衛隊?」奈々子は思わず大声をあげる。「健二が、どうして・・・?」
「僕がこの目で、二人とも連れ去られるのを見たからです。」ミトは目を伏せる。「だけど、何もできなかった・・・だから、その責任を取らなくちゃいけない。」
夕日は沈み、鳥と虫が鳴いている。奈々子とミトはお互い見つめ合い、そして、これからすべきことをわかり合ったかのようにうなづき合う。
「明日の朝、ここの公園で。」ミトは言った。
「大丈夫。ABYSS娘に会わせてあげる。」菜々子は言う。
そして二人は別々の道へ帰っていった。
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