第二部
第11話
時は少し遡り、花澤とルシアが連れ去られた直後の事である。
「あら、こんにちは。」
マンションのオーナー、
「こんにちは。ちょっとお伺いしたいことがあるのですが。」
女は冨田に尋ねる。
「何かしら?」
「あの、私、大学の友達の
「あら、遠くからすまないねえ。花澤さん・・・そういえば今日は帰ってこないねえ。」
「本当ですか・・・」
「女の子とデートじゃないかしらねえ。」冨田さんがちょっとニヤニヤしながら言う。
「女の子?」
「いや、何でも無い。」
「それってひょっとして茶髪の綺麗な子ですか?」
「・・・知ってるのね。」
「あの子をよく知ってますけど、多分そういう仲じゃないです。」奈々子は言った。
「あら、そうなの。」
「まあ健二くんがいないのなら仕方ないんですけど、」奈々子はちょっと伏し目がちに言った。「あいつ私の教科書借りてまだ返してなくて、ワークシート付きの教科書なんでそろそろ回収しなきゃまずいから今連絡つかないというのが困ってるってのもあるんですけど。」
「あら、じゃあ、本当はいけないんだけど・・・」と言って冨田はごそごそと机の中を探す。「あれ?一個ない。でもスペアがあるからいっか。はいこれ、花澤さんの部屋の鍵。ちょっと私クロスワードで今いいところだから一緒にいけないのですぐに行って、返してね。もう一個も探さなきゃ。」
「ありがとうございます。」
杜撰な大家さんだなあと思いながら奈々子は二階に上がり、花澤の表札を確認してドアに鍵を差して回した。閉まっている。あれ?帰ってるのかな、と思って奈々子は再び鍵を回し、ドアを開けると、12歳ほどの金髪の少年が、がさごそと花澤健二の部屋の物を物色している。奈々子が呼びかける。
「何っ?何してるの?」
「!」
少年は奈々子に気づく。
「私は健二の友達、菜々子。」菜々子は扉を閉めて言う。「で、君は誰?何しに花澤健二くんの家をこそこそ荒らし回ってるの?」
「・・・・・・」何も言わない少年だが、立ち上がって何やら構えている。その気になれば奈々子をノックアウトでもさせるのだろうか。
「あててみようか。」奈々子はそう言いながら自分の教科書を見つけて回収する。「ただの泥棒、もしくは、」少年の金髪と茶色い目を見ながら言う。日本人ではない。つまり。「ルシアのことかしら?」
構えていた少年がふと力を抜く。そして言う。「知っているんですか・・・?」
「ええ。」奈々子は言う。「あなたは知っているの?」
少年は一度奈々子から目をそらし、そしてまた奈々子を直視して、言った。「はい。多くを知っています。健二さんはルシアと共に連れ去られました。」
「え・・・!」誰に、と言いそびれるほどに奈々子は息を飲んでしまった。
「そして僕はルシアを、沈黙させるためにここにきました。」
しばしの無音。
「ルシアを、沈黙?」奈々子は呟く。
「はい。」少年は言った。「僕は花澤くんとルシアと行動を共にしたあなたにいくつか情報を聞きたい。だけどその前に自己紹介しなきゃいけませんね。僕の名前はミト。ルシア王女の家臣の血筋を持つ者です。」
「え?」ルシア王女?
「太平洋の怪物は、僕の父が・・・」
「まだかしらー?」階下から大家の冨田恵子の呼びかける声。
「あ、見つけました!降ります!」奈々子はそう叫び返す。
「じゃあ、あとで、近くの公園へ。」ミトは奈々子にそう目配せし、奈々子もうなづく。共に部屋を出て、ミトは奈々子と違う方向へと逃げていく。太平洋の怪物の話まで出るとは。奈々子は整理しない頭で、冨田に鍵を返しながら、これからこのミトという不思議な少年からどんな物語を聞くのだろうと少し楽しみにもなる。
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