ep.7 Crossing

ep.7-1 荒れる海



 激しい雷雨。

 荒れる海面、水底から湧き上がってくるかのような強い力は大波をうねらせ、いくつもの波の山がぶつかりあう。その様はさながら共食いでもしているようだった。

 波と波の隙間。その山のような姿と比べてひどく小さな木の葉のようにしか見えぬ船影が、稲妻に照らされその輪郭をわずかながらに浮かばせる。

 天の瞬く間にごうと唸る波が飛沫をあげて弾けると、その船は暗い夜の中に消えてしまった。







 重く立ち込めた鈍い色の雲の隙間で時おり稲妻が走っては空を照らす。窓に叩きつけるように降る雨は激しさを増し、部屋の中は雨音でいっぱいになる。

 城内の一室、薄暗い執政室では誰もが沈黙を守り、紙を捲るささやかな音がわずかに耳に届くばかりだった。


 東極部を束ねる権『東極部総指揮官とうきょくぶそうしきかん』の任はブレイからケインリヒ大臣へと移ったばかり。

 執務室で筆を走らせる執務官たちは、暗い目つきのまま、黙々と書類を作成していた。

 ペン先から紡がれる文字を追えば、それは物資の輸送リストであることがわかる。穀物、食肉、それから鉄、銅、鉛。甲冑に槍の穂先、馬、投石機――。

 濃厚に漂う戦争の気配に、一同は口は開かずとも暗澹たる思いを胸に抱く。


 これは防衛用の資材ではない。これから海を渡った先の隣国を侵攻するための武力なのだと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る