ep.1-5 ソカロの反撃
ソカロたち一団は森の中を進み、敵兵を
現在、ブレイ軍は三手に別れ、そこを目指し行動していた。
「思っていたよりも敵の数が多いですね。あまり気にはならない程度の力ですが」
隣を駆ける若い兵がソカロに話しかける。
「そーみたい。直前に仲間を増やしたのかもね。この調子だとちょっと時間がのびそうだな~。早いトコ帰ってのんびりしたいんだけど」
「はは、ソカロさんは相変わらずだなぁ」
戦場でも
この若い新米兵は最近登用されたばかりで、ソカロと実戦に出るのは今回が初めてだった。多少は腕に覚えのある流れ者であり、セレノへ立ち寄り日銭を稼ごうと職を探している最中にソカロに出会ったのがいまに至るきっかけだ。
その時のことは忘れられない光景として男の記憶に刻まれている。
セレノの街を歩いている時だった。たまたま目にした
酔った男が暴れ、喧嘩相手に酒瓶を投げつけたのだが、酔った手元のせいか、それが自分のすぐ近くにいた小さな子どもに向かい飛んできたのだ。
あ、と思った時には遅く、意識に反して足は根が生えたように動いてはくれず。気持ちだけが
上に目を向けると太陽を背にした男が、まるで翼でも生えているのかと思うような
その長身の男は浮かべていた険しい表情を消すと、人好きのする笑みをぱっと浮かべて「ダイジョブだった?」と明るい調子で子どもの頭をよしよしと撫でたのだった。
そんな場面に出くわしたこの新米兵は、以降ソカロに惚れ込み、主君であるブレイの許可を貰って国軍の一般兵としてセレノに落ち着いたのであった。
ソカロの
敵はあらかた片付いたようで、教会に近付いているというのに現れる者はいなかった。
こうなったら一気に
ソカロは足を止め、向きを変えると、自ら
「どうしたのそのケガ! ブレイのとこに行たひとだよね!?」
「っは、ブレイ様…の元、に
あの者の強さでは……と斥候の声が暗く沈む。
「先刻、掴んだ情報によりますと、ブレイ様が、ぅ、敵手中に落ちたと……! 味方軍には動揺をさせるなと――!」
「私の勝手な言い分ですが……っ、どうか、ブレイ様を……」
ソカロは色のない
それに慌てた新兵はソカロの背に叫ぶ。
「ソカロさん、どこに行くんですか!まだ後続の兵が追いついていないんですよ!? ここで作戦通り兵が揃うまでここで待ちましょう!」
こちらを振り向かない、背を向けたままのソカロに新兵は手のひらの汗ごと拳を握り込む。
「ブレイ様の伝言にもあったじゃないですか、他の兵に動揺を与えるなって。今ここでソカロさんが別行動したらみんな不審に思います!」
不安な表情でソカロの大きな背を見つめていた新兵だが、その背が振り返り、海色の目が己とかち合う。ホッとするような、不安が増すような気持ちの新兵に、ソカロはぽつりと言い放つ。
「ブレイがいなきゃ、俺がここにいる意味、なくなっちゃうから」
その言葉に、その表情に兵士は言葉を発することはできなかった。
それはいつぞやか見た以上に、真剣なソカロの表情だった。
◇
ソカロはそれから
視界が開けたと思ったらそこは恐らく森の中心であろう、切り開かれた
「ブレイ、無事かな…」
「くっくっく、さあな」
悲痛な面持ちで漏れた独り言に反応があり、続いて
ソカロは眉を
「ブレイを捕まえてどうする! ことによっちゃ手加減はないからな!」
その言葉に爆笑が巻き起こった。
笑い声の中、数人の男たちが
「いやいや、まったく面白い奴だよアンタ! この人数にたった一人で勝つつもりか?それも手加減して?」
「
「おお怖い!そんなおっかない顔で見るなよ。ちびっちまいそうだぜ!」
ぎゃはははは、と再び笑いが巻き起こるも、
男の、聞くも醜い苦痛の叫び声が上がったからだ。
「ああ!痛い! 痛いぃぃいぃ!!」
転げまわる男にはある筈の右腕がなかった。
「っドング!!」
ドングと呼ばれた今や
手にした大剣を静かに払い血糊を落すと、数を数え始めた。
「…五、六……」
俯いた彼の表情は窺い知れないが微かに口元が孤を描いているように見えた。ソカロが視線を地から眼前の敵へと移す。
「……ぜんぶで七人、よぉっしいい運動になるなぁ! ブレイをバカにする奴にはちょっと手荒くいっちゃうぞ!」
今までの静かな態度とは一変、ソカロは腹に響くような大声を
それからは一方的な戦闘だった。
一足で一人目の懐に飛び込んだソカロはその大剣で腹を打ち、そのまま
向かってくる二人の男の上を飛び越え様、体をひねり頭上に蹴りをかまし、体勢が傾いたまま着地するや否や、残るもう一人の背に太刀を浴びせる。脳天に蹴りを食らった男は起き上がらない。
その光景に残る三人は
着地の際に服についた土をぽんぽんと払い、ソカロはゆっくり振り向いた。
男たちの悲鳴とも雄叫びともつかぬ絶叫が森に響く。
恐怖と混乱の支配する悪夢のような数分間のはじまり、はじまり。
◇
その
教会の二階から見える戦況はすこぶる不味い。
目の前の手下たちは次々に地に
このままでは時間稼ぎにもならないだろうことは明白だった。
奴と対等に戦えるものをここに残し、俺はあの国王の息子を人質に体勢を立て直そう――。そう考えたダーインは一階へと急いだ。
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