第7話エピローグ

調律が無事に終わり、今まで本から出現していたヒーローたちは消えて、元の『想区』へと帰っていったようだった。

それでも、この『想区』の夜は明けることはなく、ただ不気味な闇だけが支配していた。

レイナが、げんなりした顔で口を開いた。

「って・・・調律してもこんな感じなのね・・・」

「まあ、怪談の想区だし、当然なんじゃ・・・」

そう言って、振り返った僕たちの背後で悲鳴が上がった。

「きゃー!!」

レイナの背中がビクリと跳ね上がる。

そんなに怖がらなくても・・・、僕たちはずっと、その怪談の大元とずっといたのに・・・。

悲鳴を上げた女の子達は僕たちとは反対方向へと向かって逃げていく。

やがて、その背後姿も不気味な闇に消えて見えなくなった頃、クスクスと笑い声が聞こえた。

「花子は死んじゃったけど、花子にはドッペルゲンガーちゃん!あなたというお友達がいて、私は感謝しているの。だって、人間に一緒にいたずらできる友達なんて、あなたしかいないもん!さあ、今日もがんばって、驚かすぞー!」

控えめな声が続いて聞こえる。

「あんまり、怖がらせちゃだめだよ」

調律したのだから、僕の言葉は覚えてはいないはずだ。

なのに、はなこちゃんは自分の運命を受け入れた。


『都市伝説の想区』から離れた後、霧の中でレイナは不思議そうにポツリと呟いた。

「でも、どうして異世界の怪談の花子さんがヒーローに?」

僕はその言葉を拾って、答えた。

「僕はわかるよ。彼女がどうして、ヒーローなのか」

小首をかしげて、レイナは質問してきた。

「どうして?」

「彼女は小さな子を家に帰すための御伽噺。小さな子達が親に心配をかけさせないための。いわば、心配症なお母さん達の小さなヒーローなんだよ」

僕は小さな頃にいわれた事を思い出した。

『夜遅くまで遊んでいると化物が出てきてさらわれてしまうよ』

一体、誰に言われたのか、もう覚えはないけれど、子供の頃、とても怖くて、誰ひとりとして、夜遅くまで遊ぶ子供はいなかった。

そんな昔話を思い出していた。

レイナにも思い当たるフシがあるらしく、

「確かに、子供の頃にいわれた気がするわ。夜更かししていると、怖いお化けがくるって」

「異世界では、そのお化けっていうのが『はなこちゃん』なんだと思うよ」

「そうね。お化けとか怪物っていわれてもピンとこないけど、あんなに具体的なお化けだったら、確かに恐怖倍増ね」

「そういうこと」


次はどんな手腕で驚かせてくれるのか。僕は楽しみになりつつ、『都市伝説の想区』を後にしたのだった。






 

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グリムノーツ 『都市伝説の想区』 やなちゃん@がんばるんば! @nyankonosirusi

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