第5話「トイレの○○さんの怪」

ようやく階段は三階へと上りきった。

なんだか随分と長い階段だったような気もしない・・・。

この先、屋上へいく階段は違う階段になっており、長いながーいろうかの端にある階段まで移動しなくてはならない。

廊下の手前で、はなこちゃんが急に足を止めた。

「こ、この先にいくの?」

突然、はなこちゃんが僕の手をとって、ぎゅっとにぎった。

何か良くないものがこの先にいるのだろう。

さっきみたいに手がかりになればと、僕は視線を彼女と合わせるようにしゃがんで、

「どうしたの?この先にも学校の怖い話があるのかな?」

こくこくと頷く彼女は恐怖に怯えきっていた。

「こ・・・この先の女子トイレ、幽霊が出るんだって」

ヴィランを散々倒している僕たちからしたら幽霊なんてそんなに大したことはない。

「へー。どんな幽霊なのかな?」

もしかしたら、また、違う世界から呼び出されたヒーローなのかもしれない。

そう思って、僕は何気なくはなこちゃんに言うと、彼女は重い口を開く。

「女の子の幽霊。トイレの一番奥の三番目にずっといるの」

「いるだけ?」

「お返事するの!遊びましょっていうと、誰もいないのに、はぁい・・・って」

「透明化するヴィランですかね?」

シェインがふと、思いついたように言った。

「そんなの居たらとっくにやられてるわよ!」

冗談じゃないと、言わんばかりに

「とにかく、行ってみるしかないわ」

「あ、でも、その幽霊さん、特殊な方法じゃないと、お返事しないの」

最初の頃とはうって変わって、タオが笑いながら言う。

「・・・特殊な方法ねー。呼び出すんだから礼節をわきまえろってか」

と、言ったあとでタオは困ったように頬をかいた。

「女子・・・トイレなんだよな・・・。じゃあ、俺達は無理だな」

その言葉に食らいつくようにレイナが言う。

「ちょっと!なに、逃げようとしてんのよ!自分だけ安全圏にいるとか!」

「いやいや、女子トイレに入るとか紳士としてだな・・・」

「タオ兄、幽霊が怖いからですか?」

幽霊が怖いとか今更過ぎる

「ちげーし!」

「じゃあ、問題ないわよね?」

ニンマリ顔のレイナがそう言って、一行は女子トイレへと向かう事になった。

うう。僕も紳士なのだから女性用トイレに失敬するなんて、ちょっと背徳感が・・・。

いつも、口数の少ないシェインが言葉を挟んだ。

「姉御、ここはとりあえず行きましょう」

確かに、トイレの前でダンゴムシになっている場合ではない。

「うう・・・」

そう言いながらも、先頭を歩くレイナ。情けない男がその後をついていく。

女子トイレの内部はいたって普通。男子用のものがないくらい。

しかし、不気味な闇は蠢くように僕らを包み込んだ。

思わず、誰彼かまわず、手をつなぐ。

レイナが三番目のトイレについたとき、奇妙な気配を感じたようだ。

表情から察するに、あまりよくないもの。

レイナは努めて冷静にそう言ったが、言葉の端々に不安が見え隠れしている。

「確かに何かいそうね・・・」

そう、ヴィラン以外の何かが、この中にいるような気がしてならない。

震える声ではなこちゃんは僕らの背後で声をだす。

「三回、こんこんってノックしてください」

レイナも心なしか手が震えてる。

幽霊ではないと分かっていても、この扉の向こうに何が潜んでいるのかわからない。

意を決して、レイナが控えめに扉をノックする。

「い、いくわよ・・・」

コン。

コン。

コン。

「そ、その後、こう言うのです」

『はーなこさん、あそびましょ?』

「え!?」

一斉にみんなが振り返ると、そこには元の愛らしさの欠片もない少女。

カオステラーと化した『トイレの花子さん』がいた。

「どうして!?はなこちゃんが!?」

はなこちゃんは悲しそうな声で叫んだ。

「だって、みんな、遊びましょって言うのに、遊んでくれないんだもん。だから、寂しくて・・・。みーんなとずーっと遊ぶの!お兄ちゃん達もずーっと花子と遊んでよ!トイレの花子さんと遊んでよ!!!」

その狂気に満ちた顔はまさしく・・・。

「まさか、花子ちゃんがカオステラーだったなんて」

愕然としている僕に叱咤するように、レイナが言った。

「こんなのよくある展開じゃない!もたもたしないで、行くわよ!」


{戦闘:偽カオステラー『トイレの花子さん』}


『カオステラー』と化したはなこちゃんを倒した僕たちは早速、この『想区』を元に戻すべく調律を始める。

しかし、『調律の巫女』であるレイナがはなこちゃんに手をかざした途端、弾かれたように周囲を見回し始めた。

「!?」

レイナの顔が急に強張り、調律の手をすっと下ろす。

何か問題でもあったのだろうか?

「レイナ、どうしたの?」

僕は慌てて、レイナに何があったのかと尋ねる。

レイナは青い顔で僕の問いかけに答えた。

「違う。この子じゃない・・・。カオステラーはこの子じゃない・・・」

僕たちは愕然とした。

先ほどの『カオステラー』は確かにはなこちゃんだった。

では、はなこちゃんは偽の『カオステラー』だったというのか。



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