第4話「こっくりさんの怪」

とにかく、この建物から脱出することが優先となり、僕たちはこの建物で脱出できそうな場所を探すことにした。

そこで、はなこちゃんに、この建物の見取り図を書いてもらったのだが・・・。

「うーん、なんでこんなに同じ部屋ばかり作ったのかしら?」

お姫様育ちのレイナにはガッコウのキョウシツが同じつくりなのが、些か不満らしい。

そんなことは気にしない、タオはとにかく屋上へと上がり、ヒーローの力で着地なり離脱を提案してきた。

「とにかく、この屋上から出られそうなんじゃねーのか?一階は鉄板みてーな硬さだった。なら、逆に上はガラ空きなんじゃねーの?」

と言うのが、タオの言葉だ。

その言葉を念押しするように、はなこちゃんが

「確かに、屋上はいつでもあいてるよ」

と言ったのが決定打だった。

僕たちは屋上を目指して階段を上り始めた。

そんな僕たちの傍らには、小さな少女、はなこちゃんが楽しそうについてくる。

「はなこちゃん、ガッコウにも怖い話ってあるの?」

別になにか意図があったわけじゃなくて、階段を登るのが面倒になってきたので、僕は世間話のついでとばかりに、彼女に聞いた。

「んー、がっこうには七つの怪談っていうのがあってー」

得意げにはなこちゃんはガッコウの怪談について教えてくれた。

でも、彼女はまだ、そんなに多くは知らないらしく、どちらかと言うと、ガッコウの外で起きる『トシデンセツ』の方が詳しいようだった。

「へー。トシデンセツか・・・」

まあ、トシデンセツなるものがあるのなら、とんでもなく厄介だ。

この先、どんなトシデンセツが待ち構えているのか・・・。

そう思うと、僕の胃はキリキリと痛んだ。

そんな僕の思いなどつゆ知らず、次の怪談が僕らの目の前に現れたのだった。


何回目の階段を上りきった後、唐突にタオが休息を提案してきた。

「ちょっと、休憩にしないか?」

階段に登る事が面倒になったのではなく、レイナの疲労具合を考えての休息だ。

レイナは元々、お姫様でひーこらひーこら登っていたからだ。

「そうだね」

僕もその意見に従い、手近なキョウシツでの休息を受け入れた。

はなこちゃんにも疲れが見えるし、先ほどの戦闘でもかなりの体力を消耗していた。

階段にほど近いキョウシツを開き、僕たちは滑りこむようにキョウシツへと入り込んだ。

教室は特に異常はなく、真ん中の机に小さな紙切れと、コインが一枚ぽつんと置かれていた。

ヴィランの気配なども感じられず、僕たちはその部屋でしばしの休憩をすることにした。

しかし、はなこちゃんだけが机に置かれた紙切れとコインに異様なまでの恐怖を覚えているようだった。

僕は心配になり、はなこちゃんに声をかけた。

「はなこちゃん、大丈夫?」

はなこちゃんは慌てた様子で、

「この教室、やめようよ」

外はヴィランたちが無秩序に徘徊している。疲労困憊のレイナをつれて屋上まで登りきる自信はなかった。

「どうしたのか?また、なにか怪談でもあるのか?」

茶化したようにタオが笑いながら言った。

はなこちゃんはいたって真面目に答えた。

「この教室・・・、こっくりさんの幽霊がいるかも・・・」

こっくりさんとは一体何者なのか・・・。

僕の思考を読んだかのように、彼女は続けた。

「こっくりさんって、有名な降霊術なんだよ。ちゃんと、紙を燃やして、コインを処理すれば問題ないんだけど・・・、もし、きちんと儀式を終わらせないと『こっくり』さんが取り付いて大変なことになるの」

タオが急に及び腰になる。

「大変なことになるってどういうことだ・・・」

「呪い殺されちゃう・・・」

「じゃ、じゃあ、いまのうちに紙を燃やして、そのコインをなんとかすりゃいいんだろ!?」


『そんなの遅いよ』


どこからともなく、声が響いた。

それは、教室のどこあらひびいているのか不明な声だった。

けれど、僕たちには、その声の主が誰なのか検討がついていた。

タオが頭を抱えて、「驚かすなよ・・・」と呟いた。

そう、声の主は・・・。


「こんばんわー!うちらのティーパーティにようこそ」


彼は『アリスの想区』でであった三月ウサギだった。若干、違和感を覚えるが、確かに姿は、あの三月ウサギの姿をしていた。

タオが不機嫌そうに三月ウサギに答えた。

「パーティに呼ばれた覚えがねーんだけど」

「あらら、冷たいんだねぇ」

とても残念そうとは思えない口ぶりで、三月ウサギは答えた。

その言葉に多少おっかなびっくりだった、タオがキレた。

「っていうか、こっくりさんはお前か!」

三月ウサギさも当然のように、肩をすくめて、答えた。

「ティーパーティに誘っただけなんだけどねぇ」

そして、付け加えた。

「まあ、問答無用でなんだけど」

レイナが三月ウサギを睨みつけながら、口を開いた。

「気をつけて、彼は『カオステラー』に操られているわ」

実に楽しそうにタオは拳をごきりぼきりと鳴らした。

それは、(この俺を脅かしやがって許さねー)と言わんばかりだった。

「んじゃま、不可抗力ってやつだよな」

と確認しながら、『導きの栞』を手に構えた。明らかに一切に手心を加えるつもりはないようだ。

タオはやる気満々。相手が幽霊でないと分かった以上、タオにとって、怖いものはないようだった。


{戦闘:三月ウサギ&三蔵の想区にいた狐型の敵}


「ふう。まともに休憩すらできないってのか」

三月ウサギを打倒し、ご満悦のタオは清々しいほどだった。

後ろにぼこぼこにされた三月ウサギがいなければ、もっと素敵だったに違いない。

そう言ったタオの傍らで、先ぼどの紙とコインが消滅していく。

どうやら、この紙とコインが媒介となって三月ウサギを召喚したらしい。

とにかく、ここにいても安全とは思えない。

「レイナ、大丈夫?」

レイナは気丈に振舞って、少しの笑みを浮かべて答えた。

「大丈夫よ。さあ、行きましょう」

その顔色は真っ青で、今にも倒れてしまいそうだった。

「もし、よかったら、僕の肩をかそうか?」

「大丈夫!一人で歩けるわ!」

そうやって、レイナは一人で歩いていってしまった。

何度、一人で歩いてくじけて、それでも歩いて、彼女の強さを僕はまだ知らない。

いや、僕はレイナの正しさすら本当に正しいのかすら分からない。

『混沌の巫女』彼女たちが真にもたらすストーリーこそが、本当の物語なのだとしたら、僕らは一体、なにと戦っているのだろう?

レイナの強さはどこにあるのだろう?

揺るぎない正義心は本当に正義なのだろうか?

そんな事を思っていると、唐突にはなこちゃんが僕の手を握った。

「おいていかれちゃうよ」

そう。おいていかれないように、今は何が真実なのか、何が間違いなのか問いただすべきより、僕はみんなと並んで歩む必要がある。

例え、それが道を違えるとしても・・・。




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