精霊使いの剣舞IF もしかしたらの可能性
@sindou1010
第1話
「……う、ううん……?」
窓から覗く太陽の眩しさにカミトは思わず目を開いていた。
「そういえば、
起き上がったカミトは今自分がいる部屋を見回して呟く。ここはアレイシア精霊学院の寮でありクレアの部屋。クレアはすでに起きているらしく部屋に姿はない。時計を確認すればまだ七時半を過ぎたところ。精霊剣舞祭の癖で早く目が覚めてしまったらしい。
ごそごそ。
そこで布団の中が急に動き出した。
「ふぁぁ……おはようございます、カミト」
カミトの隣からむくりと起き上がってきたのは、カミトの契約精霊であるエスト。相変わらず一糸纏わぬ姿でニーソだけを穿いているのだが。
「おはようエスト。まだ眠そうだな。もう少し寝てていいぞ」
「いえ……」
起きようとして目を擦っているエストの頭を優しく撫でる。
「……ではもう少しだけ」
エストはそれだけ言って再びベッドに横になるとすぐに寝息を立て始めた。
(まだ昨日の今日だしな。エストにはしっかり休んでもらわないとな)
精霊剣舞祭が終わったのはつい昨日のこと。最後の戦いで力を出し切って倒れこんだカミトをエストが部屋に運んでくれたと目が覚めてから聞かされたのだ。
「エストには本当に世話になったからな……これから少しずつ返していこう」
そう呟きながらベットから立ち上がったそのとき。
ガチャ。
部屋の扉がゆっくりと開いていく。
「カ、カミト、起きてる……?」
扉の向こうから顔を出したのは当の本人であるクレアだった。
「クレア? どうしたんだ?」
カミトが聞き返すとクレアは何やら顔を赤らめてもじもじしながら口を開く。
「えと、その……朝ごはん、作ってくれない……?」
最後の方は消え入りそうな声になっている。そんなクレアにカミトは苦笑して。
「分かった。今行く」
それだけ答えてベッドから立ち上がると着替えるためにシャツに手をかける。
「ばっ、バカ! いきなり脱がないでよ!」
が、まだドアを開けていたクレアが慌てて引っ込んでいったのを見て再び苦笑したのだった。
途中で起きてきたエストも交えて三人で朝食を取った後、クレアの提案により街へ出かけることになった。クレアは最初こそ「カミトを誘ったんだから……」と不満を呟いていたがカミトとエストの説得により三人で行動をすることに。
「結局こうなるのね……」
前を歩くカミトの隣をちょこちょこ付いていくエストを見ながらクレアは溜息をつく。
「クレア、何か言ったか?」
「え、な、なんでもない」
カミトに振り向かれてビクッとしたクレアは慌てて誤魔化した。
「カミト」
エストがくいくいとカミトの袖を引っ張る。
「どうした?」
「あそこにオトーフのお店があります」
そう言いながらエストが指差す先には看板に大きく書かれたトーフの文字。
「こんな店もあるのか。専門店みたいだが……」
そう言いながらエストに聞こうと表情を窺うと。
「……ふあ……!」
もの凄くキラキラした目で看板を見つめていた。
「……入ってみるか?」
「……っ! いいんでしょうか……?」
カミトの提案に反応したエストだがすぐに後ろにいるクレアに視線を向けていた。
「別にいいんじゃない? あたしも少し気になるし」
当のクレアは店先に出ている看板を見ながら答えた。
「さっき朝食食べたばっかだがいいのか?」
さっきから気になっていたことを聞いてみた。
「オトーフは別腹です」
「トーフくらいじゃ太らないわよ」
案の定それぞれの返答が返ってきた。
「そうか、なら入ってみるか」
カミトは二人を連れて早速店の中へ。
「うわあ……」
「……すごいです」
続けて入ってきたクレアとエストは店に入るなり感嘆の声をもらす。
「……これは思ってたより本格的だな」
カミトも店の内装を見て思わず感心してしまった。店内では和服を着ている女性たちが忙しなく動き回っていた。
「いらっしゃいませー。店内でお召し上がりですか? お持ち帰りですか?」
カミトたちに気付いた女性が近づきながら声をかけてきた。
「あー、二人はどうする?」
そう聞かれて持ち帰りのことを考えていなかったカミトは思わず振り返った。
「あたしはせっかくだから店がいい」
クレアの発言にエストも頷いている。
「じゃあ店内で」
特にこだわりもなかったカミトは二人の決定に従って案内されたテーブルへ座りメニューを開くとカミトは少し後悔することになる。
「……本当にトーフしかないのか……」
メニューを覗いたカミトは思わず溜息をついてしまった。まさかここまでトーフ尽くしだとは。
「あ、あたしこれがいい!」
楽しそうにメニューを見ていたクレアが言った。
「……」
一方で未だにメニュー表とにらめっこをしているエスト。困った様子で商品を見比べている。どうやら決めかねているようだ。
「エスト、決められないなら気になるやつ全部頼んでいいぞ」
その様子を見ていたカミトはエストに声をかけた。
「え、いいのですか……!? いや、でも……」
普段無表情なくせにやたらと輝いた表情はすぐに消えてしまった。そんなエストの頭に手を置いて。
「遠慮するな。というかしないでくれ。今までエストには散々世話になってるからその礼とでも受け取ってくれると助かるよ」
髪をわしゃわしゃしながら笑って見せる。カミトはすぐに店員を呼ぶと全員分の料理をまとめて注文した。
「今まで、じゃないですよ」
「ん?」
カミトを見上げていたエストの表情は欠片の不安もない笑み。
「これからも、です」
「……そうだったな、これからもよろしく頼むよ、相棒」
「はい」
嬉しそうに頷く。そしてタイミングを計ったように店員が注文した料理を運んできた。
「……じー」
ふと視線を感じて振り向くとクレアがじーっとこちらを見ていた。
「クレア、どうしたんだ?」
「別に。エストと仲良くしてればいいじゃない」
それだけ言うとクレアはふいっとそっぽを向いてしまった。
「どうしたんだよ」
「だからなんでもないってば」
こちらの言葉に聞く耳を持たないクレアにカミトは。
「……クレア」
「……なによ」
ぶっきらぼうに答えながら向けられた表情は訝しんだような目をしている。
「これうまいぞ、食ってみろ」
そう言いながらスプーンですくったトーフをクレアの口に運んだ。
「むぐっ……!」
クレアは一瞬驚いた表情をしてから口に入れたものをゆっくりと飲み込む。
「……おいしいわね、これ」
「だよな。酸味がちょうどよく口に広がる感じが」
「そうね。……っ!」
クレアは突然頬を赤くしたかと思うと急におどおどし始める。
「クレア?」
気になって声をかけてみるがこちらの声は聞こえていない。
「……ス」
「え?」
「……間接、キス」
「……あー」
クレアの発言にカミトは顔が赤くなるのを感じた。
「いや、まあ……気にするな、たいしたことじゃないだろ」
そう言いながら顔を逸らしてしまうカミト。逸らした先にはエストが無表情でこちらを見ていた。
「カミト、私のも食べてください」
ずいっと唐突に差し出されたスプーン。その上には小さなトーフの欠片。
「あ、ああ、ありがとうエスト」
カミトはそれになんの躊躇いもなくパクつく。
「あっ……」
なぜかクレアが残念そうな声を漏らす。
「うん、これもうまいな」
トーフを味わいながらエストの頭を撫でる。
「ふぁ……これで私も間接キスです」
「ごほっ、ごほっ!」
エストが呟いた言葉に思いっきりむせてしまった。
「エ、エスト!」
「クレアだけずるいです。カミトは私のご主人様なんですから」
エストはスプーンですくったトーフを自分の口に運んだ。その頬は少し赤みを帯びている。
「いや、でもな……」
カミトはぽりぽりと頬を掻く。どう対応しようかと困っていると。
ズシン……!
突然の大きな地響き。テーブルに置かれていたものが全て宙を舞い、人間たちはバランスを崩して倒れ込む。
「な、何!」
すんでのところで踏み止まったクレアは動揺を隠しきれずに焦る表情。
「……エスト、大丈夫か?」
そんなクレアをよそにカミトは転びそうになったエストを支えていた。エストはエストで持っていたトーフの皿をしっかりと握っていた。
「危ないところでした。私のおトーフは無事です、カミト」
エストはカミトに支えられたまま言う。
「……これは精霊の仕業か?」
唐突に走る緊張に誰に言うでもなく呟いたカミト。
「はい、狂精霊の気配がします」
体勢を立て直したエストは表情を変えることなく答える。
「これ狂精霊の仕業なの?」
話を聞いていたクレアはカミトの横に立っていた。
「みたいだな」
「なら早く止めに行くわよ」
クレアはすでに表情を引き締めてドアの方へ視線を送っている。足元にはすでに召喚されていたスカーレットがすり寄っている。
「……ま、しょうがないか」
カミトはそこで考えるのをやめてドアに向き直る。
「ちょっと、何がしょうがないのよ」
その言葉が気に入らないのかクレアは何やら突っかかってきた。そんなクレアの頭にカミトは黙って手を置くとわしゃわしゃする。
「な、何すんのよ!」
クレアは顔を赤くしながらもその手をどけようとはしなかった。
「せっかくの休日なのにこうも時間を潰されてたらかなわないと思っただけだ。この埋め合わせはまた今度な」
カミトはドアの方に視線を向けながら言った。
「……別に、あんたが悪いわけじゃないでしょ」
クレアはふいっとそっぽを向くと視線はドアの方へ。
「エストもごめんな。急用だ、手伝ってくれ」
「気にしないでください。そこがカミトのいいところです」
エストはそう言いながらカミトの手を握る。
――冷徹なる鋼の女王、魔を滅する聖剣よ!
――いまここに鋼の剣となりて、我が手に力を!
エストの手を握り返したカミトが
「準備はいい?」
クレアの足元にはいつの間にか呼び出されていたスカーレット。
「ああ、いくぞ!」
カミトの言葉と同時に二人は店を飛び出した。しかし、二人は思いもよらない光景を目にする。
「まさか先客がいるなんてね……」
地響きの正体は店を出てすぐに分かった。全長十五メートル弱はありそうな巨体の狂精霊。だが問題はそこではない。その狂精霊と先に戦っている人間がいたのだ。
「あの人かなりやるわね。動きに無駄がないわ」
「ああ。でも、どこかで見たような……」
カミトが記憶の断片を思い出そうとしたとき。狂精霊と剣舞を舞っていた人間はこちらに気付いた。そしてそのときはっきりと見えた顔の輪郭がカミトの記憶と一致した。
「ルビア……!」
「え、お姉様!」
クレアも気付いてようで驚きの声を上げる。それに気付き狂精霊と距離を取るとこちらに振り返った。
「カミト、クレア、ここで会えるとは思ってなかったぞ」
――時間は少し戻る――
「……まだ、慣れないわね」
風に揺れる長い黒髪を手で押さえながらレスティアはぽつりと言った。
「おい、レスティア。あまり一人で先行するな」
気分よく歩いていたのに後ろからかけられた声に思わず足を止めて嫌々振り向いてしまった。
「……どうして付いてくるのかしら?」
レスティアからの怪訝そうな目を何事もなく受け流すのは赤い髪を風になびかせながら歩いているルビア・エルステイン。
「抜け駆けは許さないから。兄様は私のものよ」
その横に並んでいるのは、髪を両端で結んでいる髪をぴこぴこ跳ねかせながら歩くミュア・アレンスタール。
二人ともレスティアが精霊剣舞祭に出場する際にチームを組んでいた人間だ。精霊剣舞祭で負けた時点で協力関係は終わったはずなのにどうしてなのか。
「とても納得など出来ないという表情だな。まあ、信用出来るようなことはしていないが」
ルビアは肩をすくめただけで特に気にした様子はない。
「気にするな。私はただカミトに改めて礼が言いたいだけだ」
「あんたの納得なんて求めてないわ。私はただ兄様に会いに行くだけよ」
ミュアは相変わらず己の道を突き進んでいるようだ。
「……好きにしなさい」
「もちろんそうさせてもらうさ」
レスティアの言う言葉が分かっていたかのようにルビアの答えには迷いがなかった。
「……」
レスティアはそれ以上追及せずに再び歩き出す。
「あ、ルビア、あれ買いなさい」
「ん、どれだ?」
「あれよ、白くてふわふわしたやつ」
「ああ、わたあめか」
「私、今手持ちがないの。だから買いなさい」
「……しょうがないな」
ルビアは屋台に並びミュアに言われた通りわたあめを買ってくる。
「これ、どうやって食べるの?」
「千切って口に入れてみろ」
ミュアは言われた通りに口に運んでみる。
「……甘いわね」
「砂糖で出来てるからな」
後ろで繰り返される会話にレスティアは足を止めていた。
「……あなたたち」
「ん、どうした? ……お前もわたあめ欲しいのか?」
「そんなわけないでしょう。早くしないと日が暮れてしまうわよ」
まだアレイシア精霊学院までは距離があるためあまり時間は無駄に出来ない。
「そう焦るな、もしかしたら街にいる可能性もある」
ルビアはいたって冷静でいた。
「……確かにゼロではないけど急ぐに越したことはないわ」
「それもそうか」
ルビアはわたあめでテンションが上がっているミュアを促し歩き始めた。
しかし。
ズシン……!
突然の大きな地響き。地面に足を置いているためとても大きな振動が足を伝わってくる。
「……嫌な予感しかしないわ」
「……奇遇だな、私も同じことを思っていた」
思わず足を止めてしまったレスティアたち。しかし、その揺れの正体はすぐに理解出来た。
「……狂精霊か?」
「……そのようね、凄い落ち着いているように見えるけど」
すぐ近くの建物の陰に見えているもの。それが正体だった。十五メートルはありそうな建物より少し小さいくらいの体をした精霊が。
「なんでここで精霊が暴れてるの?」
全員が思っていたことをミュアが代弁してくれる。しかし残念ながらその答えは誰も持ち合わせていない。
「さすがに放っておくのはまずいか」
「……まあそうなるわよね」
レスティアは溜息を一つ吐くと黙ってルビアに手を差し出した。
「……どういうつもりだ?」
予想していなかった行動にルビアは戸惑う。
「勘違いしないで。早く終わらせたいだけよ」
そういうレスティアの行動にルビアは苦笑。
「分かった。そういうことにしておこう」
そう言いながら差し出された手を握り返す。すると次の瞬間にはルビアの手に漆黒の剣が握られていた。
「私も戦った方がいいの?」
いまだにわたあめを頬張っていたミュアが聞いてくる。
「いや、お前はここにいろ。私一人で十分だ」
それだけ言うとルビアはその剣先を狂精霊に突きつける。
「悪いが通らせてもらうぞ」
その言葉とともに駆け出した。
――現在――
「お姉様、なんでここに!」
姉の顔を認識した瞬間、クレアの頭は疑問で埋め尽くされた。
「そんなに驚かれることか? 私はただお前たちに会いに来ただけだぞ」
そんなことを言うルビアの手に握られているのは見覚えのある漆黒の剣。
「レスティアもいるのか……」
カミトは思わず呟いていた。
「お姉様、体は大丈夫なの?」
クレアは心配そうな声で気にかける。
「心配するな。ほぼ完治に近い」
「暴れてたら傷が広がるかもしれないだろ」
カミトはあきれた声で言う。
「そこも心配はない。君の相棒が上手くやってくれているさ」
そう言いながら漆黒の剣をかかえたルビア。
「だがやはり私には似合わないようだ」
それだけ言うと柄を持ち替えてカミトに差し出した。
「いいのか?」
「あとは任せたい。私はサポートに回るとしよう」
そしてクレアを見て。
「頼んだぞ、クレア」
「……っ、はい!」
尊敬する姉に頼られてクレアの機嫌が一気によくなる。
「カミト、行くわよ!」
「急に元気になりやがって」
そして精霊に向き直った。さっきから歩きながら腕を振り回すモーションを繰り返す狂精霊はこちらを気にすることなく進み続けている。
「二人とも、やつの腕に気をつけろ。
「ドレインか。厄介だな」
カミトは思わず呻いた。
「腕に触れずに
「分かってる。行ってくるよ」
そしてカミトは駆け出す。
ただ振り下ろされる腕。しかし上から下への加速がついた巨体の上を避け続けるのも楽ではない。
(ルビアのやつ、これをずっと避けてたのか)
相変わらず聖女の力は凄まじい。カミトも負けてはいられない。
「喰らいなさいっ、
「こちらもだ、灼熱の劫火球!」
放たれた二人分の精霊魔術。火球はカミトの横を通り抜けて狂精霊に着弾する。それと同時に狂精霊の動きが鈍くなった。
(今だ!)
カミトはタイミングを逃すことなく狂精霊の体を駆け上がる。そして。
「こいつで終わりだ。絶剣技破の型〈烈華螺旋剣舞・三十六連〉!」
カミトが振り抜いた二本の剣が狂精霊を打ち砕いた。
――戦いが終わり――
「お姉様、なんでここにいるんですか?」
戦いが終わるとすぐにルビアのもとに駆けつけるクレア。答えてもらっていない質問を繰り返している。
「さっきも言っただろう。お前たちに会いに来たと」
「……本当ですか?」
「信用無いな……ま、当たり前か」
今までやってきたことを考えればクレアの疑問も頷ける。
「信じてくれ。本当に会いに来ただけだ」
ルビアはクレアを安心させるように頭に手を置くと軽く撫でていく。
「……ふふ」
「クレア?」
突然笑ったクレアにルビアの疑問。
「いえ、本物のお姉様だなと思って」
そして下を向いていたクレアが顔を上げるとそこには満面の笑み。
「……辛い思いをさせたな、本当にすまなかった」
思わずクレアを抱きしめたルビア。その行動で笑っていたクレアの表情が一気に崩れてしまった。
「うっ、うう~……」
泣き出してしまった妹をルビアはさらに強く抱きしめていた。その光景を見ていて。
「よかったな、クレア」
カミトは思わず呟いていた。
「何にやにやしてるのよ」
その横でレスティアの冷たい一言が突き刺さる。
「しょうがないだろ、微笑ましいシーンなん――」
「兄様!」
言葉を遮ってミュアはカミトの胸に飛び込んだ。
「ミュア、怪我してないか?」
狂精霊との戦いの最中、端の方で動かずにいたミュアを視界に抑えていたカミトはミュアが無事であることに安堵する。
「兄様、私の心配してくれてたの?」
「当たり前だろ、お前は家族みたいなもんなんだから」
「うん!」
カミトに心配してもらったことが余程嬉しかったらしくミュアは抱きつく力を込める。
「ミュア、くっつきすぎよ」
レスティアはあくまで冷静にミュアを引き剥がす。
「……ねぇ、何するの? 兄様との時間を邪魔しないで。壊すよ?」
レスティアに邪魔をされたミュアは態度が急変する。
「やれるものならやってみなさい。ただ壊すことしか能のない人間が」
「やめろよ二人とも。空気が異常だ」
慌てて二人を止めに入る。そこでカミトは一つ閃いた。
「そうだ、この後みんなでトーフを食べに行かないか? さっきいい店を見つけたんだが」
カミトの提案に一番に反応したのは今まで疲れでうとうとしていたエストである。
「いいです。行きましょう」
「体は平気か?」
「はい、オトーフを食べれば元気になります」
「そうか、丁度腹も減ってるしな。みんなは?」
「トーフ? それはおいしいの?」
知識のないレスティアは少しだけ警戒。
「食べやすくて美味いものだ」
「そう、カミトが行くなら行ってみるわ」
レスティアは興味を惹かれたらしい。
「お姉様も行きましょう?」
クレアの言葉に
「……まあせっかくだし行ってみるか」
ルビアが答える。
「兄様、私が食べさせてあげるから私にも食べさせてね」
ミュアは危ない念を押してくる。
「全員行くみたいだな。エスト」
カミトが手を差し出すとエストがそれを握り返す。
「はい、カミト」
こうして六人は先ほど見つけたトーフの専門店に再び足を運ぶことになった。
(……こいつらがいなかったら俺は精霊剣舞祭に勝ててなかっただろう。感謝してもしきれないな……これから少しずつみんなに感謝を返して行ければ俺はそれでいい)
カミトは内心で決心すると先を歩いていたみんなと並んで歩いて行くのだった。
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