第13話
下川に教えてもらった住所をナビに入力し、姉の運転する車で向かった。
僕の胸は不安でいっぱいだった。今から向かう公園が、彼女と出会ったあの公園だとはかぎらない。もしかしたら、ぜんぜん別の公園なのかもしれないのだ。彼女と会える保障なんか何もなかった。
悪い考えを捨てきれないまま、車は目的地に到着する。
「本当にひとりで大丈夫?」
姉は心配そうに運転席から顔を覗かせた。
「うん。携帯もあるし。大丈夫だよ。何かあったら連絡する」
「わかった。でも三十分だけよ。時間になったら戻ってきて。電話するわね」
誰に会いに行こうとしているのか、と問われることを覚悟していたが。ありがたいことに花束を抱える僕を見ても、姉は訊かなかった。バッグからスマホを取りだして、ゲームを始める。これで弱みを握られたことになる。
「ありがとう、姉さん。恩にきるよ」
駐車場から公園の中へ入っていく道を見つける。僕はゆっくり歩いた。
風が吹いて木々が揺れる。
僕の通ってきた道は、僕の知らない道だった。夢の中ではいつも、目覚めるとベンチの近くだったから。迷ったことはなかったのだ。迷路の中に突然、置いていかれたような気分になって。僕はいっそう不安になる。
何度も引き返そうと思った。彼女に会えなかったらと思うと、怖くてならなかった。それでも僕は先へすすんだ。
はるか。
はるか。
教えてくれ。
僕の住む世界は、君のいない世界なのか。
君と出会った世界とは決して交わることのない、さいはての地なのか。
お願いだ。僕に教えてくれ……――。
そのときだ。急にむせ返るほどの緑の匂いがして。彼女と出会った季節に時が戻ったような気がした。
瞬間、全身に力がみなぎるのがわかった。僕は思わず走り出す。力の限り、走り続ける。
そして、どのくらい走っただろうか。
いつのまにか。少し離れたところにベンチが見えて。
そこには。ひとりの女性がすわって、静かに本を読んでいた。
見覚えのある、なつかしい横顔。やわらかな眼差し。
はるか……。
君はそこにずっと、いてくれたんだね。
僕は立ち止まる。
「あの、唐突で申し訳ないけど。君に聞いてほしい話があるんだ……」
「え……?」
君のやさしい瞳がまっすぐに僕の目を覗きこんだ。
了
さいはてのヘブン このはな @konohana
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