第3話
殺されてからいつまでも目の前が暗い。
死ねば無になるものと思っていた。
だけど、俺の意識はいつまでも存在し続けていて、無くなる事はなかった。
だが、それでも、いつまでも何も感じられない時間は苦痛でしかなかった。
どれだけ時間がたったのだろう。
何時間なのか何ヶ月なのか区別がつかない。
だけど、それは唐突に再開した。
「・・・・・・」
俺が自我に目覚めた日に。
「どうなってんだよ」
やはり手に鎌を持っている。
牧草を切り取るためのものだ。
「ステータスオープン」
その言葉の後に確認できる事項は変わらない。
結局俺達は死ぬのだ。
だけど、少し気になることがあった。
ステータスを開いた時、俺のグラフゲージがほんの少しだけ伸びていた。
もちろん、文字なんて俺にはわからない。数字だって同様だ。
なのに略歴だけは読める。
なんだよこの矛盾と思ったけど、グラフの伸び方だけは理解できた。
ちなみにグラフなんて言葉は今知った。
「なんでまき戻ってるのに変ってるんだ?」
無論答えなどない。
俺は狂っているのだろうか?
それどころか死んだ記憶を持ったまま繰り返している。
「なら」
今度こそ正解に辿り着けるのではないか?
誰一人死ぬことなく生き抜くことができるのではないか?
俺は歓喜した。
俺がうまく動けば何も失われないのだから。
そして、失敗した。
また、目の前にリザードマンがいる。
振り下ろされた一撃は回避できた。
鎌を斜めに構え斬撃を受け流す。
「よし!」
それだけだった。
続く尻尾の殴打を受けて、防具を身につけていなかった俺の内臓は容易く破裂した。
そこで即死できれば良かった。
だけど俺の肉体はそれでも生きようとしていて、足掻いた身体に突き刺さった牙に俺は絶叫した。
暗い世界がまた続き、俺はまたあの世界に覚醒する。
「………嘘だろ」
牧歌的な世界。
いつまでも続いて欲しい世界。
でもそれは、俺にとって死ぬことすら許されない拷問の続きだった。
「ステータスオープン………」
三回目だ。
もう許して欲しい。
こんなことが続くなら、あの暗闇が続くなら終わらせて欲しい。そう思った。
だけど、何だこれ?
ステータスがまた横に伸びていた。
数字は理解できない。だけど、グラフの幅が増えていた。
一部に関しては倍以上に伸びていた。
どういうことだ?
わからない。
今まで勉強なんて必要ないと思っていた自分が呪わしい。
だからこそ、欲が生まれた。
この変化がわかれば俺は何とかなるのではないか?
そう思った。
ちなみに二回失敗した。
自分でどうにかするのではなく村人に危機意識を生ませてみた。
一回目から成功。
だけど、村人がどんなに警戒しようと村を囲まれた時点で全滅した。
二回目。村から打って出た。だけど、暗い霧に包まれた沼地で俺達は囲まれて生きたまま食い殺された。
六回目の世界だ。
いい加減死ぬのもにも慣れてくる。
とはいえ、毎回あの激痛に襲われるのは慣れたくないものだ。
その上で理解する。
俺の死亡はともかく、行動した結果は経験として蓄積されているということだ。
例えば決戦をするまでに歩くとしよう。
それはもちろん経験だ。
だけど、歩いただけだ。
しかし、決戦を挑んだ後に死ぬのと突如殺されるのとではグラフの伸び方が違う。
戦えばグラフが伸びるのは経験を得たからだろう。
つまり俺は、死にたくないが死ねば死ぬほど強くなるということか。
「ふざけるなよ」
生物というものは基本的に死ねば後がない。蘇ることができない。
だけど、俺は生死の概念をシカトしているようだ。
しかし、それは当たり前のことなのだ。
何度も自分の生死を乗り越えられる人間がいるだろうか?
答えは否だ。
俺は最近になって自我を得た。
だからこそ、耐えられるのだ。
今まで自分が無かったから。
今までの自分が常に否定され続けたら、行き続けた証が踏み続けられたら正気でいられない。
だから、俺は無事でいられるのだ。
踏みつけられてもそれは俺の人生じゃないと思えるから。
俺の人生はこの前から始まったと思えるか。
NPCが自我を持ちまして @touyafubuki
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