第6作目は短篇集@1~2話/日 読了20160923

『水に眠る』(短篇集) 北村薫 著、文春文庫1997年刊 本文236P


1.音読了「恋愛小説」(巻頭短編)24分 約一万字弱と推定

 20160920 15:30 


 良書500冊の選書に当たり、「楽しむこと、好きな本・作家・文体を選ぶこと」とのアドバイスを頂戴した。その際、お勧めをいくつか挙げて頂いた中に北村薫氏の作品があった。


 それをAmazonで検索した時に、見つけた短篇集がこちらである。

 件の本より先に到着したので、本日早速読んでみた次第だ。

 しばらく古典の音読を続けようかとも考えていたが、逸る気持ちを抑える理由もない。「楽しむこと」を優先だ・笑


 読んでみると、言葉を操り、読者の心を自由空間に誘って遊ばせられる筆というのはこういうものなのか、と感嘆した。

 これまで、読んだことのない感触がそこにあった。


 大成功の前の小成功の設定は大事、とばかりに、当面は良書200冊読破を目指していることから、この薄さの文庫本なら今日一日で読めてしまう、と最初は思った。

 よしよし、と。

 しかし、思いとどまった。そんなにも性急にこの本を読み飛ばしてはいけない、と心が訴えてくる。

 一文ずつを、もっと味わいながら、ひとつひとつ心に落としていきたいとの思いが膨れてくる。


 音読後の感想としては、直接的な表現が少なく読者の想像を駆り立てる豊かな語彙と言い回しに溢れていること、男性作家の描く女性の心情はまるで薄いベールが掛かったような印象を受けるが違和感なく自然に感じられること、などが印象的だった。


 そして実は、「恋愛小説」を読んでいる内に、久保田弥代氏のこちらの短編が脳裏に蘇った。

「木曜はピアノの調べーoutside」(対になるinsideも掲載)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880335337/episodes/1177354054880645118

『みひらき物語 ~ 1400字掌編集』作者 久保田弥代


 具体的に重複する表現がある訳ではない、決して。その世界観というか、お話の鍵となる部分が私の中で勝手に重なったに過ぎない。

 しかし、これは今まであまりない読書経験だ。やはり、読むことに依って培うことができるお話への感性というものは存在するのだろうか。


 いや、正解をいますぐに出す必要もないだろう。

 頭で理屈を捏ね繰り回すよりも感じろ、感じて味わえ、とは、実は私の本業において長年世話になっているコーチから今年の課題として言い渡されているものなのだ。

  

 ということで、本日は敢えて、巻頭の「恋愛小説」と、表題にもなっている「水に眠る」の読破に留めることにする。


 明日以降また読み進めたら、下記に加筆する形で記していこうと思う。


2.読了「恋愛小説」「水に眠る」20160920 21:30 『水に眠る』より。


―――――――――


3.音読了「植物採集」20160921 21:08 『水に眠る』より。

  音読約21分、7~8千字程度?


 音読に関しては、これまでで一番スラスラと読めた。音読自体に慣れたのか、文体が読み易かったのかは分からないが、21分があっという間だった。


 内容は、上記の2話もそうなのだが、解説に「様々な愛の形を描く短篇集」とある通りなのだが、決してハッピーエンドではない、しかしバッドエンドでもない。この不思議な読後感をどう表現して良いのか、分からない。もしかすると人によって全く感想が異なる短篇なのかもしれない。


 ハッピーエンド好きを公言する私としては、なぜ最後がこれで終わりなのか? という思いがもたげる。私ならここをこうして、主人公にこれを言わせて、なんて思ってしまうが、そんな素人魂を抑えて、なぜ作者・北村薫氏はこう書いたのか、それによって何を伝えようとしたのかを考えてみた。


 これまでの3話はみな、主人公の女性は聡明で冷静で、職場の信頼を集めているが、しかしプライベートでは孤独と共にある。その女性たちの心をかすかに揺らす出来事や、気になる男性からのふとした言葉や仕草や働きかけが描かれるものの、それらは決して物語のメインには据えられない。最初から最後まで、一人の女性が描かれる。


 うーーん、これをどう味わったら良いのだろう。頭ではなく体で、心で感じるままに受け止めるとしたら? 


 そんな余韻と共に、続きを明日に譲ろうと思う。


――――――


4.音読了「矢が三つ」 20160922 22:30 約20分強 7千字程度

  読了「くらげ」「かとりせんこうはなび」「矢が三つ」 『水に眠る』より


 不思議な短篇集だ。同じ作者でここまで作風が異なる印象を受けるものなのだろうか。

 「くらげ」は物悲しくちょっとSFファンタジーめいたテイストで、子を持つ親としては涙腺刺激の多い場面に引きずられる。

 「かとりせんこうはなび」は、どこか悲哀に満ちたSF調にナンセンスギャグがばら撒かれている。男の人はこんな風に女性を好きになるものなのかな、としみじみ思わせる展開だった。

 「矢が三つ」はテンポの良い文章でふんふんと最初はコミカルな調子を楽しんで音読していたら、途中からあれ?と思わせるシニカルな色調に変わり、切ない場面ではつい涙が零れそうになるが、最後は花の中二女子にしてやられる。女性だけが二夫を許される一妻多夫制という想定が鋭い風刺にもなっていて、なかなかに痛快なお話だが、ラストには唸った。


 音読をどの話にするかは直感で選んでみたが、正解だった。

 「矢が三つ」は中二女子の一人称の語り口調で書かれており、言葉の選び方や韻の踏み方、時代背景を思わせる単語の遊ばせ方、そして一人称語りで4名以上の登場人物を描いて行く点など、物書きの視点からもとても興味深い。一度と言わず何度か音読しても良いかもしれないと思う。

 しかし、たぶん無理だろう。今回気付いたことの一つとして、感情を揺さぶられる場面を音読することが、どうやら私は苦手なようだ。そこだけどうしても黙読にしてしまいたくなる。声が上ずってしまうから、という理由だけではないようだ。喉の奥が痛くなって、声を出すなと命令する。それが何を意味するのか、まだ分からない。けれど、それもまた何かの本能的な合図と思って、無視せずに大事にしていこうと思う。前回も書いたが、自らの身体と誠実に対話していくこと、もまた、今年の私に課せられたことの一つなのだ。


 さて、明日でこの短篇集も終わりそうだ。全体を通して改めて何を感じ、得ることになるのか、楽しみにまた明日を迎えたいと思う。


――――――

5.音読了 「かすかに痛い」 20160923 22:30 約24分 8千字程度

  読了 「はるか」「弟」「ものがたり」「かすかに痛い」 『水に眠る』より

 =『水に眠る』読了 20160923 23:05


 裏表紙に「人の数だけ、愛がある――様々な愛の形を描く短篇集」とあるが、「弟」だけはちょっと異質な感じがした。

 「ものがたり」「かすかに痛い」は、女性主人公たちが悲しい影を背負っている姿に暗い気持ちになった。話自体はまとまりが良く仕上がっているのだが、なんというか読後が暗いというのは辛い。つまりは、私自身が読書に求める読後観がそのまま反映されてしまったということだ。


 読者としても、また書き手としても、『水に眠る』の中で最も気に入ったのは「はるか」である。このような清々しい読後感を得られるようなお話を自分は書きたいと強く思った。

 

 全編を通して、ハッピーエンドは一つもない。

 その後、愛を抱く人々がどうなったのか、主人公はその後の人生をどう選んで進んでいくのか、すべては読者に委ねられる。


 どこかの書評で、北村薫氏の作品は頭が良くなければ読み解けない、氏は知的挑戦を読者に挑む、と読んだ。

 確かにほとんどの女主人公たちは聡明で、「ものがたり」の受験生女子はとても高3とは思えない語彙と知能の持ち主であるし、OLはみな男性より仕事のできる賢過ぎる女性たちだったので、それが氏の想定する世の女性像であり、引いては聡明な読者層と重なるような気もした。

 しかし、氏が仕掛けているのはいま一歩、その奥にあるもの、「知」の奥に潜む何かではないかという気がした。それが何であるのかを詳らかに描写し切れる筆をまだ持たない自分がもどかしい。


 読後の世界は全て読者に委ねることは、書き手としてはとても勇気のいることだ。余程自信が無ければできない芸当だ。だが、それがプロと言うことなのだろう。


 思い返してみれば、短篇集を読んだことはあまりない。

 今回、一つ一つのテイストがあまりに異なることにまず驚いた。さらに、わずか6千から1万字程度の文字の中で様々な愛を巡る物語を展開できる作者の力量と創造(想像)力と語彙の豊かさに敬服する。


 この読む読む修行が無ければ読まなかったかもしれない短篇だ。いつの日にかまた読み返して、成長を感じられたら嬉しい。


 これにて『水に眠る』 読了。 20160923




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