諏訪慎太郎、浪人生
「慎太郎、お前浪人したんだってな」
「推薦使えば良かったのに」
文明は強豪大への推薦が決まり、先日入学式をしてきたところだ。一方の諏訪は予備校に入学が決まった。
「……受験の世界は厳しかったよ」
大会のシーズンと受験のシーズンがモロかぶりするのが全ての原因である。なんとか両立させようと思ったが不可能だった。スキーに振りすぎた。
「推薦はなんか気が乗らなくてなぁ」
「それで大学落ちてたら世話ねぇや」
文明はまた笑う。だが、気を使われるよりは笑い飛ばされた方がよほどいい。
「……今年は、大会と練習はそこそこにして勉強しなきゃなぁ」
「そんなこと言って、絶対大会いっぱい出るだろお前。予言しとく」
「…………」
否定できないのが辛いところだ。
「インカレで待ってるぞ」
「おう……」
なんだかんだで文明に励まされて電話を切ると、待っていたかのように妹が声をかけてきた。
「兄ちゃん、推薦のことなんだけど」
こっちもそれか。諏訪は苦い気持ちを抑えて妹が持ってきた資料を見る。スポーツ一家の諏訪家は、三兄弟が三兄弟とも何かしらのスポーツで全国トップクラスの実力を誇る。長兄の諏訪はスキー、妹は水泳、弟はサッカーだ。
「高校の推薦?」
「うん、コーチに言われたんだよね」
「俺は勧めないけどなぁ」
「だよねぇ、推薦行ってたら今頃浪人してないもんね」
手厳しい妹である。
「名前、慎太郎じゃなくて慎太浪にしたら?」
恐ろしい妹である。
「なんで推薦にしなかったの?」
「なんか推薦って怖いだろ」
「いや、別に」
根本で妹とは心が通じ合わない。
「推薦で大学入った後で、環境が合わなくても部活はやめられないし、怪我して選手生命が終わったりしたら立つ瀬もなくなるし、そういうところが怖くないかと思って」
「でもスキーと違って、水泳はそんなにヤバい怪我なんてしないよ」
「
「兄ちゃんみたいに浪人したくないもん」
「だって陽菜乃、俺より成績良くないもんな。俺より浪人する確率高いもんな」
「…………」
じわりと妹の目が潤う。成績がコンプレックスであるのは知っていた。言いすぎた、と思った時にはもう遅い。
「あーあ、泣かせた」
小学生の弟が横からからかうように口を挟んできて事態は泥沼になる。
「泣いてないもん」
どう見ても泣いている妹は事実を認めない。事態はさらにややこしくなる。
結局、妹はあっさり推薦を使った。
「じゃあ相談するなよ」
「は? 私は相談するって言っただけで、兄ちゃんの言う通りにするとは一言も言ってないんだけど?」
諏訪も背が高けりゃ当然妹も背が高い。もちろん、こちらの方が十数センチは背が高いが、それでも恵体で気が強い妹には威厳がありすぎる。諏訪は反論を諦めた。諏訪家は女が強いのである。
三年後、弟の
「……相談するならちょっとは俺の言うことを聞いてくれ」
「やだ」
「慎太郎の話を聞いた結果だよ」
諏訪家は自立心が強いのである。
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