第66話:興味 ~荷物はやっぱり返さない~

 三嶋は水を飲みながら頭が痛くなるのを感じていた。思ったよりも早く政治面での打診が来たからである。教団が政治に興味があるという情報はトップシークレットのはずなのに。教団は焦っているのだろうか?

 しかし実際に父や兄を教団に協力させるわけにはいかない以上、三嶋の化けの皮が剥がれるのは時間の問題だ。さっさと情報を集めてこの教団を後にするほかない。

 

「お兄さんに連絡とらなあかんのね」

 兄の連絡先を自分たちに教えるように、と辻は言う。だがそれでは困る三嶋は必死で頭を回転させた。直接連絡され、宗教法人大地の光と名乗られたら、怪しまれて着信拒否だ。それは困る。困る。困る。


「最初は、僕から連絡を取ることにしようよ。つじまちゃんがファーストタッチするよりも、兄と仲良しの僕の方が話は進みやすいと思うんだ」

 三嶋の理屈はもっともで、辻は一も二もなく頷いた。そうするのが普通だろ、と心の中で思う一方、産まれてこの方ずっとこの組織にいるせいで少々世間知らずなところのある彼女に同情心も湧く。


 辻は兄との連絡方法を決めておくように言い、三嶋はそれに頷く。

 が、兄に連絡を取れるといえば取れるが、三嶋をもってしても教団が思っているほど話がうまく進むとは思えない。難しいところだ。


「今のところは電話が正確で話も早いだろうけど、ある程度お金も必要だろうし、いろんなところに行かなきゃいけないかも」

 その段階でうまく情報を情報課に流せはしまいか、と三嶋は考える。

「お兄さんとは実際に会うってこと?」

「最初は必要ないけど、すぐに会うことになると思う」


「……となると、スーツが必要だね」

「弥恵さんに言うて、新しく買おうか?」

「いや、兄が大学の入学祝に買ってくれたスーツを持ってきてたんだけど」

 大切な私物を取り上げやがって、と三嶋は言外に主張する。


「あと、僕の携帯電話も必要だと思う。それ以外からかけても、怪しまれるかもしれない」

 事実である。いくら弟からの電話でも、そもそも電話を取ってもらえなければ肉親だと証明のしようがない。そして兄は見知らぬ営業から電話がかかってくることも多い立場だから、知っている番号以外の電話を取ることはないだろう。


 むしろ、三嶋本人よりも三嶋のスマートフォンの方が大事とすら言える。


 三嶋の説明に熱が入る。もしもこれで携帯を取り戻せれば、情報を送るうえでかなり有利になる。

「わかった、博実の私物から探しておくわ」

 あわよくば荷物を返してくれるか、と希望を持った三嶋だったが、残念ながら見立てが甘かったことは言うまでもない。

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