3. 集まる情報

第65話:協力 ~兄が適任かもしれない~

「つじまちゃんが、博実に話があるって」

 最近、三嶋になじんできたのか、亮成はそこそこ喋るようになった。二段ベッドの下から急に声をかけてくるので三嶋はいつも驚かされる。

「何かあったのかなぁ」

 三嶋は不安に気が重くなった。信者勧誘の件で呼び出されて叱られた弊害だ。


「教育部関係やろ。新規信者のことちゃう?」

 亮成がぼそりと言う。

「博実が入れた信者と最近入った信者の教育やろな」


「だといいんだけどな」

 二段ベッドの上で三嶋は目を閉じる。

「つじまちゃん、いつ行ったらいいって言ってた?」

「いつでも大丈夫やろ」

 案外雑なところのある亮成だ。早めに行っておいて損はない。三嶋は目をこすって起き上がり、梯子を下りた。


 急ぎの用事ではなかったようだが、時間のあったらしい辻は、がらんとした食堂の一角に三嶋を連れ出した。

「これは富士さんに頂いたお言葉やねんけど」

 つまり、絶対に従わなくてはならない言葉ということだ。


「単刀直入に言うと、滋賀県の県議会選挙まであと二年になってるわけ」

 本当に単刀直入だな。三嶋は呆れた。それは辻も理解しているところなのか、こちらと目が合わない。

 二年後の選挙戦に今から目を向けるとは、いささか早すぎるようにも見えるが、全くの新人団体が政治への参入を目指すとなると妥当だろう。本気で政治に興味を持っていることが伺える。


「博実に協力してほしいねん」

「県議会選挙に、ってこと?」

 辻は軽くうつむいたまま頷く。

「博実には教育部部長として、教団にしっかり寄与してもらいたいねんな」

「地方議会か……」


 三嶋は眉根を寄せる。父をネタにこの教団に入ったわけだが、実際に父が教団に協力してくれる確率は万に一つもない。ただでさえ縁切り状態なのに、怪しい宗教団体に手を貸すわけがない。どう切り抜けたものか。


「……兄だ」

「あに?」

「地方議会なら、僕の兄がいい人を紹介してくれると思う」

「博実にはお兄さんがいるん?」

「兄は父の秘書なんだ。いろんな人と実際に交流しているのは兄だから、どちらかというと、父本人よりも適任かもしれない」


 半分本当だが、三嶋に都合のいいように誘導しているのも事実だった。話す余地のない父よりも、普段は没交渉とはいえ、いくらかまともな兄の方が余程利用しやすい。


「じゃあ、さっそく富士さんに伝えてええ?」

 辻は嬉しそうだった。三嶋が案外あっさりと兄の紹介を受け入れたからだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る