第21話:指紋 ~僕は酔ってなんかない~
ほぼ上品な食事会と言っても差し支えない合コンにも二次会はあるらしい。しかし仕事は全て終わったと自信満々の章、そして章に付き従う多賀は一次会だけで抜けることにした。
裕は念のため、廣田が抜けるまでは合コンに参加するとのことである。
「俺は車で帰るから、章達はタクシーか電車で頼む」
酔っ払いは早く帰れ、と裕は不機嫌そうに言った。
「なんだよ、車じゃなかったら裕だって飲んでるくせに」
二十四時間営業のファミレスで酔いを覚ます章は困ったようにぼやく。
章はそんなに酒には強くないタイプなのだろうか。様子は普段と変わらないが少々顔が赤い。
「多賀は素面っぽいね。飲んでないの?」
「結構飲みましたけど、章さんのラインで酔いが覚めました」
そしてその後は色々気になりすぎてさけはすすまなかった。
「ああ、あれかぁ」
「どうやって、廣田さんのスマホを見たんですか?」
「ロックを開けたんだよ」
「そんなの、どうやって開けるんです?」
章はさっとあたりを見渡してから声を潜め、自分のスマートフォンを取り出した。紙ナプキンで丁寧に画面を拭き、章は電源を入れる。
「僕のスマホもパターンロックなんだ。だから僕ので再現してみせよう。
いいか? 多賀には、こうやって画面を綺麗に拭けと頼んだだろ?」
汚れの全くない画面を見ながら多賀は頷いた。
章はパターンを入力し、ロックを解除する。
「見ろ」
章は画面を斜めに向けながら光度を下げ、多賀に見せる。はっと息を飲んだ。
章が入力したパターンが、指紋の筋となって画面に残っている。
「答えが見えただろ?」
章が微笑むが、得意顔の割に顔が赤いせいで、いまいち迫力がない。
「ほんとだ……」
「廣田は合コン直前にスマホを触ってたから、あいつのロック方法がパターンロックだとは元からわかってたんだよね。まあ、スマホさえ綺麗になれば、あとは『お前携帯鳴ってたぞ』って耳打ちするだけですぐにロックを解除してくれるからさ。楽で良かったよ」
「でも、廣田さんのスマホの通知が切られてないってことは、どうやってわかったんですか?」
「そんなもん、わかるわけないだろ」
章は笑いながらオレンジジュースをすする。
飲み方が悪かったのか、章はむせて何度か咳き込んだ。
やはり、まともではあるように見えても素面ではなさそうだ。
「でも、合コン中にそんなこと言われたら不安になるだろ? 心当たりはなくても、音量を下げなおすかマナーモードを入れなおすのが普通だよ。
人間、警戒心は案外薄いんだ。それはスリのプロやってる多賀が一番知ってるはずだろ」
説得力があった。
残り少ないジュースをあおる章の顔から、赤みが少し引いたように見えた。
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