第49話:父親 ~情報が手に入らない~
一般信者の協力者によると、隆之は坂上をいたく気に入っており、教団施設をユニバーサルデザインに建て替え、現在は、福祉に強い宗教団体として新たな方面での布教を開拓しているという。富士隆之、実に強かな男である。
しかし、いくら坂上が優秀で、教団施設がユニバーサルデザインでも、彼女の日常生活にはそれなりの制限があるらしく、富士は一期生のように彼女を酷使することはできない。
外面こそ平等主義・反学歴主義者の富士だが、内心では一期生のような優秀な健常者が欲しい、そして政界に進出するきっかけも欲しいと考えているだろうというのが、公安警察の見立てである。
「最低の男っすねぇ」
交通事故をきっかけに、スポーツ選手を引退した諏訪が顔をしかめる。
「最低だからカルト宗教団体を運営できるんだよ。サイコさ、サイコ」
裕が無表情に返した。
「私のプロフィールを見て、私のことを警察や公安庁を管理する総務省と繋がりは薄いと判断するのは自然です」
「え、警察と繋がりが薄いんですか? 濃すぎでしょう」
国家公務員・準キャリアとして順調に出世コースを歩む三嶋の言葉は、多賀たちにとっては説得力に欠けていた。
「外見は薄く見えるんですよ。私の父は、大の警察嫌いですから。私はそれに反抗して警察官になりました。私が警察官であることは実家の者すら知らないんです。就活の時に内定が出た、某広告代理店に勤めてるって思ってるみたいですよ。
知っているのは、一部の警察関係者と官庁関係者のみ。その者たちは、大地の光と繋がりは一切ありません。なにせ、大地の光側がシャットアウトしてるんですから」
「あ、そういえばそうですね」
「富士のミスは、諜報員を警戒してエリートを排除した結果、エリートの動向が読めなくなったことだな」
「それに、私の父は、以前総務省と大げんかしてるんです。自分の息子が総務省に入って公安庁に入ろうものなら大騒ぎですよ。しかも、諜報は卑怯だとか平気で言いますからね、あの人は」
三嶋は眉間にしわを寄せ、缶コーヒーをすすった。
その表情には今までの確執が全て詰め込まれている気がして、裕は言葉が出なかった。
「……すごいんですね、三嶋さんのお父様は」
三嶋の父親は教団にとって都合がいい。
いや、そうではない。
警察官の身分を堂々と使う場合も、それを悟られてはならない場合もある情報課に都合がいいのである。
「あの親に散々な目に遭わされたんですから、こういう場合恩恵の一つや二つ、受けても罰は当たらないと思うんですよ」
三嶋は缶コーヒーを飲み干して、缶をゴミ箱に投げ入れる。
缶は、ゴミ箱の縁に当たって転がり落ち、ゴミ箱から外れた。
仕方なく三嶋は缶を拾いにいき、そっと缶を撫でる。
「ひねくれ者ですね、この子は」
三嶋の完璧なはずの愛想笑いに、隙があるように見えた。
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