第48話:摘発 ~新入生は採ってない~

 今から四年前になるだろうか、隆之はある方法で、スパイの存在に気づいた。

 その方法は今でも明らかになっていないが、優秀なスパイが二人同時に摘発されたことから、なにか斬新な方法ではないかと考えられている。


 隆之はスパイに『処分』を加えようとした。

 その具体的な内容は、『処分』が下される前に二人のスパイが脱走したため、明らかではない。

 公安警察の方のスパイは、運良く教団から逃げおおせることができたが、公安庁のスパイの方は、途中ではぐれ、消息はわかっていない。現在も行方不明だという。


 その後、隆之は幹部候補生制度を改革した。

 教団の真意を知るためには、表向きの教義ばかり教えられる一般の信者ではなく、幹部候補生になるしかない。スパイは必ず、幹部候補生として侵入してくる。

 それは、公安たちにとっても、隆之にとっても、自明の理だった。


 幹部候補生の採用数は大幅に減り、全く採用しない年も出てきた。

 しかし、それでも信用できない隆之は、幹部候補生にある制限をかけた。

 一般信者として情報を集める協力者によると、スパイ騒動の後、幹部候補生として採用されたのはわずか三名だという。


 高校を出てすぐの若い男性が一人、そして生まれつきの身体障害者である女性が一人、教団の当初からの加入者の娘で、完全に教団に染まった女性が一人だけだった。


 明らかに、公安警察及び公安庁の手先ではないと分かる者ばかりだ。

 警察の管理下ではない公安庁の動向は不明だが、公安警察は、大地の光の捜査を半ば諦めていた。


 そこに、一人の名前が挙がった。捜査が一向に実る気配を見せない不毛の大地にさした一筋の光、それが情報課の三嶋だった。


「ちょっと待ってください。どうしてそこに三嶋さんの名前が出るんですか」

 多賀が三嶋の話を遮った。裕も首をひねる。

「確かに変だよな。三嶋は大卒警察官として採用されてるわけだから、どうみても富士隆之に怪しまれるだろ。公安スパイの条件を満たしてるお前が、警察のスパイをめざしてどうするんだ」


「多少の危険を冒してでも、私を欲しがるだろうというのが上の予想です。……私も同意見です」

 三嶋はまた資料をめくる。

「見てください。公安警察の友人に無理を言って流してもらいました」

 三嶋が指さしたのは、公安警察側のスパイが残した調書である。


「『……以上より、教団・大地の光の幹部は、政界への進出を目指しているのは確実といえる』との記述があります。

 現在、大地の光は、十分な幹部候補生を確保できていません。調書を見る限り、候補生の一期生は、例のスパイたちに負けず劣らずの優秀な者ばかりです。

 新たに加入した三人を便宜上、二期生と呼びますが、二期生の方は、一期生と対等に渡り合うことは厳しいでしょう。

 事実、二期生で一期生並みの能力を持つのは、生まれつき下半身不随になった女性、坂上さかがみ弥恵やえだけのようです」


「そこに、つけこむってことっすか」

 諏訪の言葉に、三嶋は神妙な顔でうなずいた。

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