三話 水音

 ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん、


 静かな放課後の女子トイレの中で、水の音だけが響いている。


 ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん、


 今、このトイレには、真ん中の個室に入っている私以外には誰もいない。


 ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん、


 トイレを流した後なのに、ずっと水の音が聞こえてくる。


 ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん、


 きっと誰かが、水道の蛇口をちゃんと閉めていないのだろう。もったいないと感じながら、個室から出た。


 ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん、


 目の前の、三つ並んだ洗面台。その全ての蛇口が閉まっていた。


 ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん、


 私一人だけのトイレの中、まだ水の音がしている。なんだか、薄ら寒くなってきた。


 ぴちょん、ぴちょん、がちゃ……


 使用禁止の出入口側の個室のドアが、ゆっくりと開くのが、鏡越しに見えた。


 ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん、


 その中から出てきたのは、頭の先から爪先まで、ぐっしょりと濡れた、旧制服の少女で、


 ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん、


 彼女は、長く濡れた髪で顔を隠したまま、私の方に手を伸ばし、


 ……ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん……

 

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燈台下語り 夢月七海 @yumetuki-773

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