第二話
第一章:あの日、あの時、あの場所で―――
*****
「おっす、おーっす!」
「.........」
「どうした恭佑。ほら元気に、おいーっす!」
無駄に
「…、あらあら。おはようございます、
「あら。おはようございます、四宮さん。ご機嫌麗しゅう?」
「大層賑やかなご様子でいらっしゃいますところ誠に恐縮でございますが、ご逝去あそばしていただければ幸甚に存じます」
「...? ご丁寧にどうも」
オホホホホと口を押さえて笑っているところを見る限り、みかん頭に詰まっているのは豊富なビタミンだけなのだろう。難しい漢字を並べ過ぎたのがいけなかったのだろうが、そもそも配慮して同じレベルで話す方が疲れる。ここは適度に流すのが最善であるとここ数ヶ月で俺は学んでいた。
日輪
「そんなことより」
今度はニヤニヤとした笑みを浮かべた雅輝が至近距離まで迫ってきては、何故かヘッドロックをかけられた。油断していたのでモロに決まる。野郎と密接など気持ち悪いことこの上ないが、香水だろうか本当に微かではあるがいい匂いがする。コイツ、やはりチャラい。
「昨日教室でちょこーっとやらかしたらしいじゃん?」
「………」
「何? カルシウム不足? 小魚食べる?」
「おい」
「冗談だってば! 離してやるからそんなに睨むなって」
ムカつく程にヘラヘラと笑いながら距離を取る雅輝。取り敢えず、俺は固められていた首の骨を鳴らした後、手櫛で髪を整える。これでも通学前に身だしなみは整えてきたのだが…。朝っぱらからとんだ災難でしかない。
「誰から聞いた?」
「だから、怖いってば。睨むな睨むな。誰からって言うより周囲多数から。お礼参りなんて考えても無駄だぜ」
「……ちっ」
「キャー、怖い。聞きました奥さん、この人隠しもせずに舌打ちを」
その先もおふざけの雅輝劇場が続くが、もう聞こうとも思えない。
忘れていた、
「まーったく、ストレス溜まってるねぇ。発散しなさいよ」
「うるさい」
「いいから聞けって。本当にここ数ヶ月でまたお前の評価がウナギ下がりなんだから、目立ちたくないのなら少しは自制しろよ」
「………」
そして、歌南同様お節介なことに俺のことを気にしてくれている。ズケズケと物申すのも、そうでないと俺には伝わないといことが分かっているからだ。その全てに感謝しなければならないのに、鬱陶しくて仕方なかった。
「職員会議にもリーチがかかってるような状況なんだからさ」
「………」
「せっかく、友達になれたんだから。勝手に消えんなよ」
雅輝はそれだけ言うと、また元のヘラヘラとした表情に戻って生徒で賑わう校門の方へ消えていった。一年生の時は同じクラスだったのだが、この四月から別のクラス。それでもこうやって気遣ってくれる存在が如何に尊いものなのか。そんなの自問するまでもないが、どうしても素直になれない自分がいる。その事実がまた苛立ちに火を注ぐようだった。
*****
チャイムが鳴る。生徒が動き出す。管理されているな、と思った。
仲のいい生徒同士で席を近付け昼食の準備をする者、そんな日常を横目に。部活動での集まりがあるのか他の場所で待つ者がいるのか、昼食を手に教室を後にする者に混じって教室を後にする。勿論、俺は一人で。
「あ、恭佑!」
しかし、昨日同様また呼び止められた。無視すればいいのだが、この声の主から逃げ切るのは困難を要する。様々な手段が思いつくものの、そのどれもがやはり幼稚であり、成すだけの気力もないので素直にその場で停止することにした。
「ちょっと、どこ行くのよ」
程なくして声の主―――歌南が目の前に現れる。その手にはお弁当が入っているいつもの手提げが見て取れた。周囲と変わらずこれから昼食であることに間違いはないのだが、であるなら、どうして俺は呼び止められたのだろうか。ついでに、どうして
「どこって…どこだろう」
「いきなりイカれないで」
おかしい、哲学的に呟いたつもりだったのに。
「アンタ、メッセージ見てないの?」
「見てない」
そもそもいつの、どのようなメッセージなのだろうか。必要な情報が余りにも欠如していた。
「さっき、チャイムが鳴ると同時に送ったのに」
「え…。いや、それは無理だろ」
「何よ、家じゃ携帯手放さないくせ」
「待て、ここ学校、なう。どぅーゆぅーあんだすたん?」
「ふぁ〇〇んぼーい」
「………」
神聖な教育の場であることなど度外視した発言に思わず耳を疑った。幼馴染ではあるが、
「で、何?」
「何じゃない。送ったって言ってるんだから見なさいよ」
「はい…」
高圧的な意見に渋々と携帯の画面を確認すれば、ああ確かにメッセージ着信のお報せが出ていた。しかも、そのお報せだけで内容が分かるほど簡潔に。
『お昼!』
「いや、分かるか」
「え? バカなの?」
「バカですみませんねぇ。サルでも分かるように事細かく説明して下さいませんか」
「ここは学校、廊下。OK?」
「そこじゃねぇよ」
「ただいま午後十二時三十二分。尚、二分ほどloss」
「そこでもないけど、ごめんなさい」
「…はぁ。めんどくさ」
そうため息交じりに呟いた歌南は、
「ほら、来なさいよ」
これまた昨日同様、半強制的に俺の手を握って歩き始める。
「ちょっ、待っ「たない!」」
強引なのはこの際もういい。慣れた。
しかし、だ。せめて、人で溢れ返っている廊下では配慮してくれないだろうか。視線、特に男子からのもので針の筵状態となったまま引きずられる。
*****
「お待たせ~」
道半ばで歌南がどこに連れて行こうとしているのか分かった。と同時に少しだけ足が重くなる。これは勿論表現的な話だが。何故なら、その先にはきっと―――
「ゴメンね、
「ううん。そんなことないよ」
「
「四宮君、ようこそ~」
そう、この芳村 悠姫がほぼ確実にいるのだから。
「おれもいるぞ~」
「あれ? 何か今聞こえた?」
「さぁ…」
「何なのその咄嗟の連携⁉ いつもだけどさ!」
「何か耳に不快な響きが…」
「俺も。病院行こっかな」
「あははは…」
今朝のひょうきんなみかん頭はさて置き、三人のやり取りに苦笑している芳村について少しだけ話さなければならない。
芳村 悠姫。同学年、別学級。雅輝同様、昨年度までは同じクラスだったのだが、今年度から別々。尚、悠姫と雅輝は同じクラス。また、この強引な
この屋上に集まった四人で過ごした一年は余りにも鮮明な記憶として残っていた。足が表現的に重くなった理由の一つが彼女である。あまり会いたくなかった、今の俺の状態のままで。
「さ、とりあえずご飯にしましょ。お腹空いちゃった」
「そうだな、ほら恭佑こっち座れよ」
「あ、おう…」
「はい、みんなウェットティッシュ使ってね」
「ありがとー! いや、さっすが悠姫。愛してるっ」
「もう、声大きいよ歌南ちゃん…」
「態度もな」
「だがしかし、胸のサイズは悠姫ちゃんの圧しょ「黙れ」」
「「ぐほぇっ⁉」」
理不尽な鈍痛に鳩尾を抑える男子が二人。
*****
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