第35話 DAY.61 エピローグ

 この舞台に上がるのは何度目だったか。

 今日はサラマンダー討伐の勲章の授与式が行われることになっている。今は式典開始の定刻数分前。シグルズと並んで舞台の脇に控えているところだ。

「未だに信じがたい。まさかサラマンダーまで打倒してしまうとは」

 そう言ったシグルズはやけに晴れやかな顔をしていた。

 聞いたところによれば、シグルズの父親もガルアドロフが戦死したサラマンダーとの戦いで命を落としたのだという。だからこそ、ガルアドロフだけが英雄と祭り上げられることに我慢がならなかった。

 だからそういう意味では、結果として俺はこいつの父親の仇を討ったことになるのだ。シグルズから感謝されたりしたわけではないが、この顔つきを見ればサラマンダーが倒れたことはやつにとって望外の喜びだということはわかる。

 今後の征伐部隊における俺の出撃機会を減らすよう求めたときに、あっさりと承諾したのはそのせいかもしれない。

 ナズナの言う通り無茶は控えるつもりだが、征伐任務そのものは続けていくことにした。そもそもシグルズとの「交渉」が成立している以上やめるのは困難なのだが、俺の方にもちゃんと戦うためのポジティブな理由がある。

 外敵に怯える人や、敗北した過去に悩んでいる人が、この街には少なからずいる。そういう人たちのために戦う者も、街のために必要なのだ。つまり、ナズナが医療魔術で人を助けるように、俺は戦うことで誰かの役に立つことにしたというわけだ。

 それが、俺の選んだナズナやみんなを笑顔にするための道だ。

 それにはナズナも賛成してくれている。ただし、これからも最低半分はナズナから魔力の供給を受けるという条件付きだ。

 そうなると、戦えば戦うほどナズナにも負担をかけることになる。だから出撃の回数は極力減らして、その中で精一杯自分の役割を果たすことにしたのである。

「――ただ今より、見事サラマンダーを討伐し生還した、ユウト・アサギリへの叙勲式を執り行います」

 そうこうしていううちに式が始まったようだ。

 先にシグルズが舞台に上がり、それに続いて名前を呼ばれた俺がシグルズの前に立つ。そこからはもう慣れたもので、今までと同じように勲章を受け取って一礼する。

 しかし、心持ちはこれまでとまるで違っていた。

 ぐるりと舞台の周りを見渡す。サラマンダーを討伐したとあって、敷地の外も含めて今までとはくらべものにならないくらいの人が集まっていた。

 でも、それが理由ではない。

 ――見つけた。

 無数の人の中に紛れても、容易に探しだすことができる。笑顔で拍手を送ってくれるユリ、カズラ、そしてナズナの姿。彼女たちこそが、俺を変えてくれた。

 ずっと渇望していたものを手に入れた。愛すべき人たちを、愛してくれる人たちを、ようやく得ることができた。

 俺はもう、何も持ってないなんて嘆かない。

 あの日客席の間をさまよった孤独な視線は、もうどこにもなかった。

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英雄志望の魔動格闘士 小林コリン @colin

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