第六話 翼を持つ者
残った三人の元へ戻った王子とエクスの見たものは、まるで恒例かのように繰り広げられているお茶会だった。
今回はさすがにエクスも一言言おうと思ったのだが、お茶会をじっと見ていた王子の突然の叫びにかき消されてしまった。
『そうか! 今回の黒幕が分かったぞ!』
思わず全員王子を見る。だが、王子はシェインをじっと見ている。正確にはシェインの動きを見ていた。
『シェインさん今視線を感じたのでは?』
その言葉にシェインは驚きながらも頷いた。
『やはりな……黒幕は……私の像が見る先にいる!』
エクス達は謎かけか何かかと思いながら王子に付いてきたのだが、何てことはない言葉通り王子像の視線の先にある建物に着いた。
そこは教会だった。
屋根の上には数十羽の鳥がこちらをじっと見ている。
「これは……結構怖いわね」
「圧倒されるっつーか生き物じゃねーみてーだな」
「えっと……」
「シェインの予想的中ですかね? 王子の話に出てきたツバメさんが怪しいと思ってたんですよね」
だがシェインの予想は、王子にバッサリと否定される。
『いや違う、ツバメは私を裏切るようなことはしないよ……君達にはまだちゃんと私の物語を話してなかったね? 語ろう、私とツバメがどうなるのか』
と、そこで教会の中から声が聞こえてきた。
『ツバメは寒いこの地域から暖かい南へと向かうところだった。でもツバメは王子と出会い、貧しいものを想う王子の優しさに彼を手伝うことを決めた。貧しいもの達に自分の身を削って助けようとする王子。ツバメは王子を慕っていた。だから南へ渡る最終期限が過ぎても王子を手伝い、遂に力尽きてしまう。最後の力を振り絞って王子像にキスをして……王子はその時やっとツバメの想いを知り、悲しみのあまり胸が砕けてしまう。……王子像の足元で力尽きたツバメは街の者に王子像に関心を持たせるきっかけとなる。街の者達は自慢だった豪華な王子像が、いつの間にかみすぼらしい姿に変わっていたことを知った。心無い街の者達は王子像の姿を恥じ、それを外し燃やしてしまった。王子像のお陰で危機を脱していたことも気付かずに……そして罪深き彼等は、燃え残った王子像の鉛の心臓とツバメを一緒に街の東のゴミ捨て場に捨ててしまった』
エクス達は黙って聞いていた。王子の物語にそんな悲劇が待っているとは思っていなかった。
まるで続きを促すように教会の中からの声は止まっている。
今度は王子が語りだした。
『この街で最も尊いものを二つ持ってこいと命じられたものがいた。その者の手によって私とツバメは天に迎えられる……やはりあなただったか“天使”よ』
教会の扉が開く。そこには翼を持つ者がいた。手には鳥籠を持ち、その中にはツバメが囚われていた。
『おお、ツバメよ! そこにいたか、大丈夫だ必ず助ける!』
「この声は王子? なぜそんな姿に? いえ、そんなことよりも逃げて! 天使様はおかしい……」
しかし、ツバメの警告は少し遅かった。
屋根の上の鳥達が次々にヴィランに変わり、教会の中からも大量のヴィランが出てくる。中にはメガヴィランも何体か混じっている。
王子はエクス達に向けて言う。
『露払いを頼みたい。天使は私が止める!』
「んーしょうがないわねここは譲ってあげるわ」
珍しく空気を読むレイナ。
「ここは任せな! いくぜタオファミリー!」
誰も答えてくれないが男らしいタオ。
「まさか予想が外れていたとは……シェインもまだまだでしたね……」
本気で悔しがっているシェイン。
「……王子!」
よくは分からないが目で語ろうとするエクス。
そんな四人のお陰で道が開ける。
道の先には天使。
『王子なぜですか? そもそも人間なんかがいなければ、彼等の貧しさを悲しむことも、彼等の愚かさに王子とツバメが傷つくことも無いのに……だからここまで静かにしてやったのに……』
王子は一歩ずつ確実に進む。
『あなたは分かっていないな……今の者達には面影がある。私と過ごした街の者達の面影が……それが見れないのはつらいよ……』
『そうは言っても王子の物語は、像に宿るところから始まるでしょう? それ以前の記憶なんてストーリーテラーが勝手に植え付けたものだって分からないわけではないでしょう?』
王子が天使の言葉に怯むことはない。
『偽物の記憶だろうと記憶は記憶。私は街の者達を我が子のように思っているのだ』
『裏切られても? 彼等はゴミ捨て場にあなた達を捨ててしまうのに? 不幸な最後なのに?』
王子は揺るがない。
『私は幸福だよ! 私の身で街は救われ、最後はツバメと一緒だ。十分幸福だよ』
天使は諦めたようにため息をついた。そして閉じていた翼を広げる。
『今のままでは駄目だ。一度壊して作り直そう』
その言葉にとうとう王子は激昂した。
『貴様のわがままに付き合ってなどいられん! 闇に落ちた天使よ! 私の光で浄化してやる!』
鉛の心臓が白い光を放ち全身を包む。鎧は光の鎧となり、剣には光の刃が現れる。
『私は馬鹿と言われるかもしれない……けれど私はこれからも、何度でもこの身を捧げるさ!』
王子の一撃は天使を光で包み込む……
「今だわ!」
今がチャンスだとレイナは“調律”始めた。
「混沌の渦に呑まれし語り部よ。我の言の葉によりて、ここに調律を開始せし……」
レイナの身体から調律の光があふれる……
「それにしても特殊な想区でしたね。まさか主役がずっと同じ魂で、記憶を引き継いでたなんて」
「そういえば、王子が妙に街に詳しかったわよね。そういうことだったのね」
「特殊って言えば、カオステラーも俺からしたらまともに感じたしな……」
レイナもシェインもタオの意見に同意を示す。
「……」
エクスは黙ったまま何も言わない。
「どうしたの? 王子と別れるのが寂しい?」
「……いや、あの……実はこれ」
そう言ってエクスが取り出したのは、芸術家に返された王冠だった。
「え?」
「は?」
「でかした!」
「って違うでしょ! え? 調律……王冠どうなって?」
混乱しているレイナにエクスが小声で言う。
「何か足りないと思ったんだよね……」
「思ったんだよね……じゃないわよ! 返してこい!」
何はともあれ、こうして“幸福な王子”の想区での物語は幕を閉じた。
結局エクスは王冠を返せたのか? 返せたとしてそれはちゃんと元通りだったのか? それは謎のままで……
それぞれの“幸福” むっくりっく @mukku
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