第五話 つぎはぎの鎧となまくらな剣
エクス達と王子の四人と一体は、次に使う報酬をとるために王子像の前に来ていた。
王子像を前にすると、シェインがもう極めたと言っていいほどの早さで金を剥がす。そして今回は、剣の装飾に使われている真っ赤な大粒のルビーも持っていく。
「はぅ……キレイですね……」
タオは、うっとりとした表情のシェインの手からルビーを取り上げると、震える手でエクスに渡す。
「この中でお前が一番安全だ。だから……頼んだ」
自分も含めてそう言っているのが意外ではあったが、エクスは苦笑いしながらそれを受け取った。
『よし! では行こう! 次に向かうべきは東だ! さあ付いてこい!』
王子はそう言うが、誰も彼の後ろを付いていくことはなかった。
まだ体に慣れていないせいなのか、歩くのが遅い。たまに変な動きをする。いきなり奇声を上げる。等々のせいで、像の前までの道もエクス達よりも後ろを歩いていた。
『む……もうすぐ何か掴めそうなんだが……』
彼等はとりあえずエクス達四人が前を進み、後ろから飛んでくる声で案内をしてもらうことに決めて東へと向かった。
王子の案内で一行は街の東の端の方まで来ていた。
街の東には、外にゴミ捨て場があるらしく、今エクス達のいるところ辺りは、耐えがたいほどの悪臭が漂っていた。
「む、むり……臭すぎ……」
「なれちまえばきっと……き、きっと……」
「シェインはこれ以上先には行かないです……行きたくないです……」
三人はそう言って、一歩も動かない……どころか、避難を始めた。
『ふむ……そんなに臭いのか、私は臭いは分からないからな……それにこの先のゴミ捨て場は私の終着点だしな……』
王子の呟きを聞く余裕は、四人には無かった。
それから、エクスは何度も無理だと言ったのに、人形の体に慣れた王子に無理矢理引っ張られて、臭いの中へと連れ込まれた。
「王子……力強すぎ……も、もう大丈夫ですよ。鼻も臭いを感じなくなったし……はは……」
力ない言葉も笑いも王子には届かなかった。結局、遠慮なしに引っ張られて連れてこられたところは、鍛冶屋なのか看板に黒い金槌が描かれていた。
『ここだ、ここで私の鎧と剣を作ってもらおう』
王子は早速扉を叩く。
二、三度叩いたところで、中から声が聞こえた。
「なんかようかね? 言っとくがあたしゃ
何のことか分からないエクスは、なんとなく王子を見た。
『たしかこの辺は再開発のための立ち退きが求められていたらしい……最新のゴミ処理場とかを建てるとか……さすがにこの臭いをどうにかしたかったのかもな』
「それってここの人が邪魔をしてるんじゃ?」
王子は人形だから表情は変わらないはずだが、エクスには困ったような顔になったように見えた。
『それもそうなんだが、彼女が街に残る最後の実戦的なものを扱う鍛冶屋なんだ……他は平和すぎて美術的な方面に移ってしまってね』
いっこうに自分に返事が来なくてしびれを切らしたのか、扉が開くと中から顔が
「ん? なんだい? 見ない顔だね」
お婆さんは、王子とエクスをじろじろとしつこいくらいに見た。
「えっと……こちらの方にぴったりの鎧と剣を作って欲しいのですが……」
エクスが王子を指しながら遠慮がちに言う。
「あん? ……あんた妙な奴だね……まあ客なら歓迎するが……動きが人間っぽくないというか……」
鋭い指摘にドキッとしたが、お婆さんは「まあいい」と言ってそれ以上追及しなかった。
『申し訳ないが、出来るだけ急いでほしいのだが……』
王子の言葉でまた空気が張りつめる。
「なに!? 急げったって鍛冶仕事は時間がかかるもんだよ! わがまま言うな!」
そう怒鳴られると、二人は母のお叱りを受けたかのようにしょげかえる。
「あ、あの報酬はこのくらいなんですけど……」
エクスが話を変えようと金の詰まった袋を開けて見せる。
すると、お婆さんの様子が明らかに変わった。
「なんだいなんだい! それを先に見せなよ! いいよすぐに作ってやるよ! ……久々に本気だすかね……」
そう言って王子のサイズを測り始めた。
まさかの金効果にエクスはだめ押しとばかりにルビーも差し出した。
「やっていただけるんですね! あ、これも報酬の一つなんです!」
すると、お婆さんは急に顔をしかめて言った。
「貰いすぎは破滅への一歩……これは剣の装飾に使うよ……それよりも、出来上がるまでにそいつらの掃除しときなよ!」
その言葉にエクスが振り返ると、そこには大量のヴィランが湧いていた。
「これを一人で? ……まずいかも」
すると、王子が近くにあった木材を持って構える。
『あまり力になれないかもしれないが、私も手伝おう! 心配するな、器が壊れないように、危なくなったら逃げるから』
ヴィランは
エクスは、王子に心の底から感謝していた。
ヴィラン達との戦闘は、王子の強烈な馬鹿力によって、終始こちら有利で進んでいった。
結局ヴィランが全滅するまでに、王子は木材を五回持ち替えることになったが、ほぼ無傷で戦闘を終えたのは王子のお陰だった。
「王子、本当に助かったよありがとう!」
素直な感謝の言葉に、王子も嬉しそうにしている。エクスにはそれがなんとなく分かった。それは王子との間に絆のようなものが出来たからかもしれないと思っていた。
「騒がしいね、ったく……ほら出来たよ! ただ長いこと平和すぎて腕がなまっちまっててね、鎧はつぎはぎだし剣はなまくらだよ……これじゃ金は貰えないよ……」
お婆さんが持ってきた鎧はひび割れを繋いだりした跡が丸見えで、はっきり言ってボロボロにしか見えない。剣は力のある王子にぴったりの大剣で、柄のところに大粒のルビーが埋め込まれていて見た目は良いのだが、刃の部分は研がれていないのか丸みを帯びている。
だが、王子は予想外なことを言った。
『いいんだ。これで、いやこれがいい! ありがとう、報酬は受け取ってくれ』
それを聞くなりお婆さんは、王子の言葉に驚くエクスの脇から金の袋を引ったくるように取ると、目にも止まらぬ速さでその場から去っていった。
「えっと……それでいいんですか?」
『いいんだ、それに彼女の評判が悪いのは知っていたんだ。でもこの鎧、割れたところに板金を重ねてあってより頑丈になっているし、この剣は分厚くて簡単には折れないだろ?』
エクスは、普通の人間には扱えないという言葉を飲み下して、自分を見捨てた皆のところに戻るのだった。
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