第三話 鉛の心臓
ヴィランとの戦闘を終えた四人は、タオがした約束通りカオステラーの事から自分達の目的まで王子に話をした。
『……ではカオステラーなるものを打ち倒し、そちらのレイナさんが“調律”をすれば私達の物語は、街は元に戻ると?』
王子の言葉にレイナは頷く。
それを見た王子は、先ほどの戦闘を思い出すと、何か決心したような声で言った。
『私も、私も戦う! よそ者である君達に全てを任せきるなんて私には出来ない!』
思わず四人は黙ってしまった。いつもならば、その想区の住人の申し出はありがたく受けるのだが……
「戦うって言っても、王子は像で動けないじゃないですか」
そんなシェインの言葉に他の三人も頷いている。
『そう! だから私の頼みを聞いて貰いたい! 実は私が最近見かけた住人の中に私の考えを実現出来る者達がいるのだ。どうにか彼等を探して欲しい』
タオは首を横に振っている。
「そんなこと言ったって、見かけたのいつだよ? もうカオステラーにやられてるんじゃ……」
王子の考えが何であろうが、あまり無駄な時間はかけられない。レイナもシェインも同じ考えのようだった。
タオがもう一度はっきり断ろうとすると、急に服を引っ張られた。
「ちょっといいかな」
じっと何か考えていたエクスが、王子に聞こえないように声を落として皆に自分の考えを話し出した。
「思ったんだけど、さっきの話を聞く限りじゃこの物語の主役って王子でしょ? この想区に来てヴィランに襲われたのは、王子のいる街に向かおうとした時と王子と話していた時の二回。ここは王子の頼みを聞いた方が……」
「カオステラーに近付ける?」
エクスのあまりに勿体ぶった物言いに、レイナが待ちきれずその言葉の先を引き継いだ。
「うん、僕はそう思った」
「……なるほど、確かに一理あるわね」
レイナのその言葉を聞くと、タオは少ししぶったが一応納得して、シェインは元々文句無いようで、一行は王子の頼みを聞くこととなった。
そしてそれを王子に伝えると、とても嬉しそうな声が返ってきた。
『そうか! やってくれるか! ではまずは芸術家を探してくれ。たしか……街の北の青い屋根の家に住んでいると聞いた』
「芸術家? なんでまた?」
タオの返しに、王子は一旦深呼吸する。
『……ふぅ……すまない。気が
そして、彼はまず自分の考えを詳しく説明することにした。
『私の本体はこの像に宿っている魂なのだ。その魂がこの像に宿っているから自由に動けない。それならば自由に動かせる体を用意すればいい! つまり君達には私の器となるものを集めてきて欲しいのだ』
王子は一旦言葉を切り、四人の様子を見る。タオとエクスは納得したようでしきりに頷いている。シェインは予想していたようで少し自慢気だ。レイナは……王子にはよく見えないが、他の三人の様子から、どうやら像の台座に寄りかかって居眠りを始めてしまったようだった。
『ゴ、ゴホン! 君達に集めて貰いたいのは、私の魂が宿るための“もう一つの鉛の心臓”。私が自由に動くための“この像と同じ大きさの関節のある胸に穴の空いた人形”。私が戦えるように、“人形にピッタリの鎧と剣”の三つ……四つか?』
自信なさげな王子にシェインが助け船を出す。
「つまり三ヵ所訪ねて欲しいわけですね?」
『そうそう! さすがシェインさん!』
「当然です」
そう言うシェインは自慢気に鼻を鳴らしている。
『人形の穴は心臓が入るようにしたいから、まずは心臓を芸術家に作ってもらってくれ。……報酬は頭に乗っている王冠と、両手を覆っている金を剥がして持っていってくれ』
それを聞いたエクスからは思わず声が出た。
「……え? 報酬って……事情を話せば協力してくれるんじゃ?」
王子はエクスの考えをはっきりと否定した。
『この世界に住む人間は、私が自我を持っているということを、本当に知らずに一生を終えるのだ。だから話を信じる者はいないだろう。それに仕事の依頼なのだから報酬はあるべきだろう?』
その説明に納得したシェインは、早速台座に飛び乗ると王冠を取ろうとする。
「う~、王子意外と背が高いですね……あ、取れた! 案外簡単に取れましたね……ああ、なんて大粒のダイヤ……」
タオはダイヤに見とれてうっとりとしているシェインを急かす。
「おーい見とれてないで早くしろー……盗るなよ?」
「失礼な! 盗りませんよ! まったく……あとは手の金を剥がすんでしたね」
タオを一睨みすると、シェインは王子像の手にナイフを突き立てる。
「よっと……王子……意外と厚化粧ですね……」
剥がした金をまとめておくように、急遽用意した布袋が、破れんばかりにパンパンに膨れている。
『ふー、なんだかスースーするような気がする』
そんな言葉を背に、シェインは皆のところに戻った。
「ふぅ、じゃあこれは新入りさんに持ってもらって……姉御! 起きてください行きますよ」
シェインはズシッと重たい袋と王冠をエクスに渡すと、いまだに眠りこけているレイナを揺り起こす。
「ん? ふわぁぁぁ、なあに? どこ行くの?」
「大金持ってお仕事の依頼です」
それを聞いたレイナは目を見開く。
「大金!? ……説明して!」
彼女は、そもそも起きていればしなくていい説明を尊大な態度で求めたが、仲間の対応は慣れたものだった。
シェインはその場で王子の話の重要部分をかいつまんで話して、レイナに現状を把握させてしまったのだ。
「なるほど! じゃあすぐに行きましょう!」
そう言ってレイナはさっさと北へ向かっていく。
「じゃあまた後で来ますね」
エクスは王子にそう言って遅れないようについていった。
一行は道中、何度かヴィランの襲撃にあったものの、特に大きな損害もなく街の北側へとやって来た。
来てすぐに青い屋根を探すと、意外と近くに一軒だけあった。
「あれじゃないか? 早速行ってみようぜ!」
タオの言葉に、一行が青い屋根へと向くと……
クルルル
お馴染みの唸り声と共に、ヴィランの一団が現れた。
「もう! 目的地は目の前なのに邪魔ね!」
レイナは苛立ちを隠さずに、いやそれどころかそれをヴィランにぶつけてやろうと駆け出した。
今回現れたヴィラン達は、今までのもの達と比べると、明らかに数が少なかった。特別強いわけでもなく、難なく退けた四人は一気に家の前へと進む。
家の周りにはヴィランはいないようだったが、レイナは慎重に家の扉を叩いた。
この街に来て初の住人に会えると、一行がドキドキしていると……
ガタン! と、中から音がして、慌てた様子の人物が一人。彼は出てくるなりこう言った。
「私の作品を買っていただけるのですか?」
四人は思わず彼のことをまじまじと見てしまった。彼は身体中汚れていて服は穴だらけだったからだ。気まずい空気の中、レイナが口を開いた。
「そうなる……のかしら?」
自信なさげにそう言う彼女に代わって、今度はエクスが前に出た。
「鉛で出来た心臓を作って貰いたいのですが? 報酬は十分に出しますよ?」
そう言って金の入った袋を開けて見せる。中で金が動いてガチャガチャと音を立てた。
「鉛の心臓? なんだってそんなもの……いや、聞きくまい……」
そう言うと、彼は一度家の中へと消えた。
次に出てきたときには、確かにその手に鉛で出来た心臓を持っていた。
「え? 早い!」
エクスはそのあまりの早さに声に出して驚いた。他の三人は声こそ出さなかったものの目を丸くしている。
それを見た芸術家は頭を掻きながら種明かしをしてくれた。
「今作ってきたわけじゃない。うちは代々芸術家なんだが、なぜか一人前の証しに鉛の心臓を作るのが慣わしなんだ」
それを手の中で転がしながらさらに続ける。
「いや、変な決まりだと思ってたけど……まさかこれを欲しがる人が現れるとは……あれ? でもそんなこと運命の書には……まあいいか」
芸術家はそう言うと手を差し出してきた。そして、何のことか分からないといった顔をしているエクスに言う。
「ただじゃないんだよ! それにちゃんと報酬は払うってそっちが言ったんだからな!」
その言葉にハッとしたエクスはすぐに頭を下げた。
「あ、ごめんなさい……これが約束の報酬です」
エクスは慌てて袋を渡す。
「お、おう……結構あるな……」
全部渡されるとは思ってなかったのか、彼はちょっと動揺する。
「あ、これもでした……どうぞ」
エクスは鞄から布に包んだ王冠を差し出す。
ところが芸術家はいっこうにそれを受け取ろうとしなかった。それどころか、差し出す手を押し返してきた。
「正直この金だけでも多いくらいだ。それなのにこれ以上は貰えない……それは持ち帰ってくれ」
彼は作品が売れなくて貧乏ではあるが、自分の作ったものの価値はしっかりと分かっていた。彼のプライドが、王冠は受け取れないと言っていた。
エクス達は、それから芸術家と二言三言言葉を交わすと、彼と別れて一旦王子のところへ戻ることにした。
……だが、そううまくはいかなかった。
「うわぁ! なんだこいつら!」
今別れたばかりの芸術家の悲鳴に反応して振り返る四人の前で家の扉が勢いよく開く。
「おいおいマジかよ……」
家の中からはヴィランの群れが後から後から際限なく出てきていた。
「後ろ! こっちはメガヴィランよ!」
レイナの声に振り向くと、そこには普通のヴィランよりも遥かに大きな個体が、十数体のヴィランを伴って陣取っていた。
「よそ見なんかしてんなエクス! 奴ら突っ込んでくるぞ!」
タオの叫びにエクスがまた家の方を見ると、視界を埋め尽くすヴィランの大群が突っ込んできた。
「姉御! こっちも来るです!」
挟み撃ちにあった四人は、否応なくタオとエクスがヴィランの大群を、レイナとシェインがメガヴィランの相手をすることになった。
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