第二話 静まりかえった街
森でヴィランを蹴散らしてやって来た街。南側の入り口から中に入り、とりあえずまっすぐ進む。
四人の第一印象は、この想区に来たときのものと変わらなかった。
「静かだね、これだけ大きな街なのに……」
エクスの言葉に頷きつつ歩く彼等の目には、壁が崩れていたり屋根に穴が空いたりしている荒れた街の姿が映った。だが、それも街の中心に近づくとほぼなくなり、中心にある広場の周りはとても綺麗なものだった。
ところが、四人がそこに至るまで街の住人の一人としてすれ違うことも見かけることもなかった。
「何かあったのかしら?」
「何かって?」
レイナがなんとなくこぼした言葉だったが、即座に反応してきたエクスになぜかシェインが答える。
「例えば……戦争で攻め滅ぼされたとか?」
『違う』
「え? ああ、確かに戦争にしては綺麗ですもんね……あるべきものも無いみたいだし……」
そう言って辺りを見渡すシェインを阻むようにタオが言った。
「おいおい無いもんを探しても意味無いだろ……どんな理由にしろ関係無いだろ? とにかく今は、なんとかして住人を探さないと手詰まりだぜ?」
『そうだな、私も住人を探してもらいたい』
「だろ? ほらこの人だって…………は?」
そこで四人は気付く、声が……一つ多い。誰からともなくサッと周りを見渡すが、やはり人影はなく、だからといって全員に聞こえる幻聴とは思えない。
そして声の主にとっても意外だったのか、こんな言葉が降ってきた。
『むむ? まさか私の言葉が聞こえるのか? そうならば是非返事を!』
「声は聞こえるけど、姿が……」
レイナはキョロキョロと落ち着きなく、遠慮がちに返事をすると。
『聞こえる!? なんと! 私の姿なんてどうでもいい! どうか頼みを聞いてくれないか?』
そんな言葉が降ってくる。
と、そこで四人はほぼ同時に気付いた。先ほどから言葉は降ってきているということに。
そもそも初めから気にはなっていた。
その広場には文字の刻まれた大きな記念碑があり、その上には派手すぎるくらいに豪華な像が立っていた。
物語の登場人物が人だけとは限らない。
改めてそれを思い出した彼等が上を見上げると、声は明らかにその像から聞こえてきている。
『頼む! 街のものを、住人を探してきてくれないか? 出来れば自分で行きたいが、私はここから動けない……だから……』
無いわけではない、でも滅多にない事態に声を失う他の三人を尻目に、すんなりとそれを受け入れたエクスは像に向かって答える。
「僕達も出来れば協力したいんですが、この広い街を何の情報もなくただ探すのは……まずはこの街で何が起きたのか聞かせてください! もしかしたら力になれるかもしれません……」
少しの無言の後、像からは先ほどよりもいくらか落ち着いた声が落ちてきた。
『すまない、まさかツバメ以外に私の声が届くものがいるとは思わなくて……冷静さを欠いていたようだ……そうだな、まずは私の運命から話させてくれ、そうすれば今がどれだけ異常か分かるはずだ』
そう言うと像は、自分の運命を語りだした。
その国はとても裕福で平和だった。
そこに暮らす人々は皆笑顔で、穏やかに過ぎる日々をゆったりと過ごしていた。
その国には変わった王子が一人。とにかく好奇心旺盛で、いつも城を抜け出しお気に入りの街へと遊びに行っていた。目的は特になく、その日その日で気になったことを調べたり、やってみたいと思ったことを実行に移したりして日々を過ごしていた。
なに不自由ない生活と長く続く平和のおかげか、国の人々も王もその事を咎めることはなかった。
しかし、ある時王子は不慮の事故で若くして亡くなってしまう。
それを悲しんだ王と国の人々は、彼のお気に入りだった街に彼の像をつくることにした。
まず少し小さめの像をつくり、胸に鉛で作った心臓を埋め込む。その上から全体に金を厚く塗って、目に青く輝くサファイア、王冠にはダイヤモンド、剣の装飾に真っ赤な大粒のルビーをはめ込んだ。最後に出来上がった像を先につくっておいた大きな石の台座にしっかりと固定すると、台座にはこう刻み込んだ。
“幸福な王子”
それは国の豊かさと幸福の象徴とされた。それを街の住人は誇らしく思っていた。
しかし住人達の中に気付くものはいなかった。王子像に亡くなった王子の魂が宿り、それに自我があるということに……
『……それが私だ。そしてこの限られた視界に映る住人達の中に貧しいものを見つけた私は、唯一声の届くツバメの力を借りながら貧しいもの達に体の宝石や金を分け与える運命のはずなのだが……いっこうにツバメが現れないどころか、日に日に街の住人が減っていって……この有り様だ』
黙って聞いていた四人の上に、ポタリポタリと水滴が落ちてくる。王子像は大粒の涙をこぼしていた。
「涙出るんだな……像なのに」
「はぁ……そんなことはどうだっていいでしょう?」
タオの場違いな言葉に呆れつつも、レイナは今後について話そうと言葉を続ける。
「それよりもこれだけ大きい街の人達を消してしまうなんて、早くカオステラーを何とかしないと!」
だが、それを聞いた王子は聞き慣れない単語に、話し出そうと口を開きかけたエクスを遮るように割って入ってきた。
『カオステラー? それが街をこんな風にしたのか? いったい君達は何を知っているんだ? 教えてくれ、頼む!』
そのあまりの必死さに思わずタオもレイナを見て一言。
「お嬢……」
「わかったわよ話すから……エクスあなたもそんな顔で見ないでよ」
そうしてレイナは説明を始めようとしたが、またしても王子の声に遮られることになる。だがそれは、とても緊迫したものだった。
『まてまて! な、なんだこの化け者どもは?』
王子像を中心にエクス達四人は、大量のヴィランに囲まれていた。
「な、いつの間に!? みんな!」
エクスが声をかけると、三人はもう戦闘体制に入っていた。
「あ、そうそう王子! 話はこいつらを片付けた後でな」
タオが言い終えたと同時に四人はヴィランとの戦闘に入る。
王子はそれをただ見守ることしか出来なかった。彼は自由に動かせる体ではないから。
『私はただ見ているだけ……悔しい……』
心の底から絞り出すような無念の声は、戦闘に集中していた四人には届かなかった。だからその後の王子の頼みを予想なんて出来なかった。
広場から少し離れた建物の屋根に、エクス達四人の戦闘をじっと見ているモノがいた。
そしてソレは、四人がヴィランを全滅させると、静かにその場を離れた。
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