それぞれの“幸福”

むっくりっく

第一話 静かな森

 そこはとても静かだった。

 異様な静けさ。人も動物も虫でさえも音を立てるものがいない。耳鳴りがしそうになるほど静かな想区。

 そこにエクス、レイナ、シェイン、タオの四人がやって来た。

 彼らもやって来てすぐにその異様さに気付いた。

 そこは森の中、本来なら音を立てる存在は多くいるはずだった。

「ここ、なんだか静かすぎよね?」

 森を抜けようと歩きながら口にしたレイナの疑問に、他の三人も不安をまぎらわすように口を開く。

「こういう想区なんじゃないの?」

 エクスの言葉をタオはすぐに否定する。

「いやいやいくらなんでも静かすぎるだろ。鳥とか虫の声すらないなんておかしい」

「タオ兄の言うとおりです。……それに鳥はいるみたいですよ」

 そう言うシェインの視線の先には、木の枝にとまる一羽の小鳥。だが少し様子がおかしい、ピクリとも動かずこちらをじっと見ている。

「こいつ……ちゃんと生きてるよな?」

 タオが恐る恐る近寄ると、その小鳥は思ったよりもあっさりと音を立てて青空へと飛び立つ。

「おわ!?」

「……行っちゃいましたね」

 急に飛び立たれて驚いたタオは、誤魔化しながら呼吸を整える。

「でもちゃんと生きてたぜ!」

 分かりきっていたことを堂々と報告するタオを見て、シェインは呆れたように呟く。

「……それはそうですよね」

 そんな二人を見ながら、エクスはふと思ったことを口にした。

「これもカオステラーの仕業なのかな?」

 近くで聞いていたレイナは、少し考える素振りを見せ、そして答える。

「その可能性もあるけど……さっき否定してた二人には悪いけど、そもそも想区の住人が声を出せなくなる物語なのかもしれないし……」

 思わぬ言葉に全員の視線がレイナに集まる。

 エクスは予想外の賛同者に驚き言葉もでない。先ほど否定した二人は、確かに無いとは言い切れないと考えを改めて黙っている。

 レイナは注目されているというのに、マイペースにキョロキョロと周囲を見渡しながら進む。そして何かを見付けると、ビシッと指を指して言った。

「やっぱり! ここは想区の隅だから寂しいのよ! 中心はどう見たってあれね! ……あれ?」

 自信満々に彼女が指さす先は、木々の生い茂る深い森だった。

「姉御そっちじゃないです。あっちのことですよね?」

 シェインが指さす先には大きな街があった。

「あれ? ……そ、そうよあれがこの想区の中心に違いないわ!」

「お嬢はこれだから……っ!」

 レイナは何か言いたそうだったタオを一睨みで黙らせると、街に向かって歩き出す。すると……

 クルルル

 一行にとっては聞き慣れた唸り声。

「どうやらカオステラーは僕達を街に行かせたくないみたいだね」

 言いながらエクスはその手に“運命の書”と呼ばれる本と“導きの栞”と呼ばれる特殊な栞を持つ。他の三人も同じように彼等にとっての武器を用意する。

 もちろん武器とはいっても、本と栞を振り回すわけではない。彼等はその二つを使って様々な物語のヒーローになりきることが出来るのだ。そしてその力を使ってヴィランやカオステラーと戦ってきた。

「蹴散らすわよ!」

 レイナの掛け声と共に四人は、彼等を排除しようと現れたヴィランの群れに突っ込んでいった。

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