オーム 二人で叶える夢②

※前回のあらすじ※

ひかるは病院で出会った加多来奏に

妹の詩織のことを聞く。

詩織は免疫力に関わる遺伝子の難病で、学校にも通えない。ひかるは奏に詩織の病室に案内された。

※あらすじ 終※



「姉さん、そちらの方はどなたですか? もしかして彼氏とか?」



「ちょっと! 詩織? 誤解しないでよ!

だれがこんな変態キモメンスケベなよなよ男を

好きになんてなるもんですか!」


「そこまで僕の事をこてんぱんにけなさなくてもいいんじゃない?」


「あんたは黙ってて!

コレはさっきたまたまロビーにボケ~とつっ立ってたから暇潰しに拾ってきただけよ!」


「僕は人ですら無くモノ扱いかよ~!」

僕はすぐにツッコミを入れると、落胆して肩を落した。


「まあまあ、お姉ちゃん落ち着いて!」


「だって……」

奏ちゃんはしおらしくなった。


「姉は昔から男性と話すのが苦手なんです。

特にとしの近い男性の前では素直になれないところがあるんです……。

姉の失礼な態度、本当にごめんなさい」


「いい? 詩織の半径2メートル以内に入ったら、

おじさん殺すよ!」


「も~! お姉ちゃん!」


「詩織……ごめん」

僕を泥棒だと認識した番犬のような姉も、どうやら飼い主には従順なようだ。



「そうそう!

私の自己紹介がまだでしたね。私は、姉 奏の妹、加多来かたらい詩織しおりっていいます。 今日はお姉ちゃんと一緒にお見舞いに来てくださってありがとうございます」


「詩織ちゃんだね。 こちらこそよろしく」

姉に比べてなんて礼儀正しい妹さんなんだ! 僕は驚きを隠せなかった。


「それで、お兄さんの事も伺っても大丈夫ですか?」


「僕の自己紹介遅れてごめんね。 僕は五色ひかる。

よろしくね」


「ひかるさんですか。 五色ごしきって珍しい苗字ですね。

私は読書が好きで物理科学の本とかもたまに読むんですが、

もしかして物理学者の五色博士の事をご存じだったりしませんか?」


「実は僕の父さんなんだ。 その人。 アハハ」


「すごいじゃないですか!」


僕は妹さんともすぐに打ち解ける事が出来た。



「うっ!」

「お姉ちゃんどうしたの?

大丈夫?

しっかりして?」

突然、奏ちゃんが苦しみ出した。


「ひかるさんすみません。 看護士さんに頼んで水を持ってきてもらっていいですか?」


「ああ、わかった!」

僕は急いで水を貰い、 戻って奏ちゃんに飲ませた。


「ゲホ、ゲホ、ゲホ。 もう大丈夫だから」


「お姉ちゃん……」

詩織ちゃんは心配そうに姉を見つめていた。

奏ちゃんは中腰でかがみ口を押えたまま僕の腰あたりをつねると、

一緒に部屋の外に出るように身振りでジェスチャーした。


「詩織ちゃんごめんね。 ちょっとお姉さんと外の空気吸ってくるね」


「え?……あのぅ」

私も一緒に行きたいと手を前に出して不安そうに見つめる詩織ちゃんを尻目に、 僕は奏ちゃんと病室を出て、 声の聞こえないロビーまで移動した。


「大丈夫?」


「もう平気。 さっきは腰つねったりしてごめんなさい」


「気にしてないよ。

ところで、 さっき妹さんに何か隠してるように感じたんだけど、 聞かせてもらってもいい?」

そう自分で言った後、僕はまた空気を読まずデリカシーのない事を言ってしまった自分にすごく後悔して奏ちゃんの顔色を伺った。


「いいわ。 まず詩織に知られたくないって言うのは本当よ。

うちは昔から歌を歌うのが好きでね。 実はプロを目指してインデーズのシンガーソングライターの仕事をしているのよ」


「そうだったんだ、すごいじゃん!」


「話はここからなんだけど、

うちが歌う歌の曲の歌詞は全て詩織が考えたものなの。

あの子には病気がわかるずっと前から童話作家になる夢があってね。

それでうちはずっと病室から出られないあの子の作った童話の歌詞を大勢の人に聴かせたいって思っているわけ。

つまりね、うちが詩織の歌詞でプロになって大勢の前で歌うことはうちら二人の夢なのよ。

うちらは今それに向かって頑張っているところなの。

だからね、うちの体調の事であの子に心配かけたくないの」


「そうなんだ。 デリカシーが無いこと聞くようで申し訳ないんだけど……」


「うちの体の不調の理由わけよね?」

僕が聞こうと質問しようとしたのを奏ちゃんは察してくれたらしい。


「うちは……」


「五色さ~ん! 五色さんいませんか~?」

どうやら愛理栖の事で僕が呼ばれたらしい。


「ごめん。 連れの事で呼ばれたみたいなんで」


「いいわ。 はい、 5000円貸しとく。

診察代とかこれで足りる?」


「本当になにからなにまでごめんね」


「必ず後で返しなさいよ。

それと、 うちの実家この病院のすぐ近くだから。

ほら地図書いたから。いくら頼りないおじさんでもさすがにこれみたら場所わかるでしょ?」


「あそこだね! 了解。 お金を下したらすぐに返しに行くよ」

頼りないおじさんの烙印を押されたことには、

とりあえず今は目をつむることにした。


「じゃあうち先に実家に帰ってるから。 じゃ~ね!」

彼女は元気を取り戻し病院を後にした。

僕は愛理栖の元へ急いだ。


※ 今回のあらすじ※

ひかるは詩織と出会う。奏は歌手で詩織は病気の妹。

奏と詩織の夢を知ったひかるは感動する。

奏は体調不良の理由をひかるに伝えようとするが、

愛理栖のいる病院から知らせが入る。


——————————————————————

↑【登場人物】

•ひかる

愛理栖ありす

かなで

詩織しおり

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