オーム 二人で叶える夢②
「姉さん、そちらの方はどなたですか? もしかして彼氏とか?」
詩織ちゃんの突然の質問に、僕は思わず顔を赤らめた。
「ちょっと! 詩織、誤解しないでよ!誰がこんな…」
奏ちゃんや詩織ちゃんとの出会いは、どこか運命を感じさせるものがあった。
愛理栖との関係も、この出会いをきっかけに新たな章を迎えるような気がした。
詩織ちゃんは物静かで優しい雰囲気の女性だった。
詩織ちゃんの病室で、二人が互いを大切に思っている様子を見て、
僕は温かい気持ちになった。
「ひかるさんですか。五色って珍しい苗字ですね。もしかして物理学者の五色博士のことをご存じだったりしませんか?」
詩織ちゃんの質問に、僕は自分の父親のことを話した。
「実は僕の父さんなんだ」
彼女は目を輝かせて、僕のことを尊敬のまなざしで見つめてきた。
二人の姉妹との会話の中で、
僕は自分の無力さを感じると同時に、何か力になりたいという気持ちが芽生えてきた。
「うっ!」
「お姉ちゃん、どうしたの?
大丈夫?しっかりして!」
突然、奏ちゃんが苦しみ出した。
「ひかるさん、すみません。
看護士さんに頼んで水を持ってきてもらえますか?」
「ああ、わかった!」
奏ちゃんの体調が思わしくないことを知り、
僕は複雑な気持ちになった。
急いで水を運び、彼女に飲ませた。
彼女の蒼白な顔色を見つめながら、心が締め付けられるような思いがした。
「ゲホ、ゲホ、ゲホ。
もう大丈夫だから」
「お姉ちゃん……」
詩織ちゃんは心配そうに姉を見つめていた。
奏ちゃんは中腰でかがみ口を押えたまま僕の腰あたりをつねると、一緒に部屋の外に出るように身振りでジェスチャーした。
「詩織ちゃん、ごめんね。ちょっとお姉さんと外の空気吸ってくるね」
「え?……あのぅ」
私も一緒に行きたいと手を前に出して不安そうに見つめる詩織ちゃんを尻目に、僕は病室を出て、声の聞こえないロビーまで移動した。
「大丈夫?」
「もう平気。さっきは腰つねったりしてごめんなさい」
「気にしてないよ。
ところで、さっき妹さんに何か隠してるように感じたんだけど、
聞かせてもらってもいい?」
そう自分で言った後、僕はまた空気を読まずデリカシーのない事を言ってしまった自分にすごく後悔して奏ちゃんの顔色を伺った。
「いいわ。 まず詩織に知られたくないって言うのは本当よ。
うちは昔から歌を歌うのが好きでね。
実はプロを目指してインデーズのシンガーソングライターの仕事をしているのよ」
奏ちゃんは、自分の夢と妹の夢を叶えるために頑張っていることを僕に打ち明けた。
「そうだったんだ、すごいじゃん!」
僕は、彼女の言葉に心を打たれ、
心から応援したいと思った。
「話はここからなんだけど」
彼女は続けた。
「うちが歌う歌の曲の歌詞は全て詩織が考えたものなの。
あの子には病気がわかるずっと前から童話作家になる夢があってね。
それでうちはずっと病室から出られないあの子の作った童話の歌詞を大勢の人に聴かせたいって思っているわけ。
つまりね、うちが詩織の歌詞でプロになって大勢の前で歌うことはうちら二人の夢なのよ。
うちらは今それに向かって頑張っているところなの。
だからね、うちの体調の事であの子に心配かけたくないの」
「そうなんだ。
デリカシーが無いこと聞くようで申し訳ないんだけど……」
「うちの体の不調の
僕が聞こうと質問しようとしたのを奏ちゃんは察してくれたらしい。
「うちは……」
「五色さ~ん!
五色さんいませんか~?」
どうやら愛理栖の事で僕が呼ばれたらしい。
「ごめん。 連れの事で呼ばれたみたいなんで」
「これ、お金。必ず後で返しなさいよ。
それと、うちの家は病院のすぐ近くだから。
ほら地図書いたから」
「あそこだね! 了解。
本当になにからなにまでごめんね」
「じゃあうち先に実家に帰ってるから。
じゃ~ね」
奏ちゃんは、にこやかにそう言って、病院を後にした。
奏ちゃんと詩織ちゃん、二人の夢が叶うことを僕は心から願う。
僕は愛理栖の元へと急いだ。
※ 今回の要約※
ひかるは病室で奏の妹 詩織と出会う。奏は歌手で詩織は病気の妹。
奏と詩織の夢を知ったひかるは感動する。
奏は体調不良の理由をひかるに伝えようとするが。
その時、愛理栖のいる病院から知らせが入る。
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