オーム 二人で叶える夢①

※前回のあらすじ※

愛理栖の母の家は更地だった。 高熱で倒れた彼女を病院へ運ぶひかる。 現金が無くて困っていると、 高飛車な女の子が声をかけてきた。

※あらすじ 終※


「お嬢ちゃんの気持ちは嬉しいけどさ、 気持ちだけ受け取っておくね。」

僕は彼女の高飛車たかびしゃ台詞せりふがちょっと気になったが、 相手が中学生くらいの少女という事で目をつむることにした。


「あー! おじさん今うちの事子供扱いしたでしょ!」

彼女はムスッとしながらそう答えた。


「え? お嬢ちゃん中学生でしょ? まあ落ち着いて。

ご両親も一緒に来てるんだよね?」


「またうちの事子供扱いしたー! 取り消せ~!

コノ、コノ~!」

彼女はゲンコツで僕の胸のあたりを叩きながらそう主張した。

「うちはこれでも今年で二十歳のレディーですよ!

全く失礼しちゃいますよー!」


「えぇぇー!?

それホ、ホントに?」

僕は自分の目を疑った。


「疑ってんですか? ホントにホントです!!」


「成る程、合法ロリね。これはこれであり!」


「あんたバカ?

何さっきから一人でぶつぶつ言ってガッツポーズしてんのよ」


「あ、ごめんごめん」


「もー!!

二度とうちを子供扱いしないでよね。

約束破ったら死刑でも許さないから!」

その後、なんとか彼女は気持ち抑えてくれた。


「ところで君はどうして病院に来てるの?」

僕は気になったので彼女に質問した。


「うちには加多来かたらいかなでっていう名前があるから

今後はちゃんと名前で呼んでよね。いい?」


「かしこまりました。奏お嬢様」


「よろしい」

そう言って彼女は機嫌を取り戻してくれたのか、病院に来ている理由を僕に話してくれた。


「実はね、うちの妹がここの総合病院で入院してて、仕事が休みの日はいつも妹に会いに来てるのよ」


「そうだったんだ。 妹さんはどうして入院してるの?」


「それは………」

しまった。僕は空気を読まず彼女に無神経な質問をしてしまったことにひどく後悔した。

僕はなんてデリカシーがない男だろう。僕は奏ちゃんに怒られる事を覚悟し身をひそめた。

しかし意外なことに、彼女は冷静に妹さんの病気の事を僕に語ってくれた。

「うちの妹ね、詩織しおりっていうんだけど、 免疫力に関わる遺伝子の難病でね。 詩織が小学生の時に病気がわかったの。

本当なら今は中学生なはずなんだけど、 詩織は今学校にも通えないのよ。

医者からは画期的な治療法が見つからない限り、 この先も退院は無理だろうって」


「…………」

僕はしばらく返す言葉が思い付かなかった。

「わ、悪い。 なんか辛いこと言わせてごめんな」


「いいのよ。 うちも詩織もこれを現実として受け止めているんだから」


「加多来さんおられますか?」

看護師の女性から声がかかったみたいだ。

「詩織さんの点滴が終わりました。 お待たせしました。

病室に入られていいですよ」


「ねえ、 おじさんまだ時間ある?」


「あ、ああ。 まだ呼ばれて無いから大丈夫だけど」

僕は彼女のいきなりの質問に応えにとまどってしまった。


「じゃあ特別に詩織に会わせてあげる。 感謝しなさい」


「え? 僕部外者だけどいいの?」



「も~! おじさんは詩織に会ってみたいんの?

みたくないの? どっちなの?」

彼女は煮え切れない僕の態度に不機嫌そうだった。


「会いたいです。 お願いします」

僕は奏ちゃんの妹さんの病室に同行させてもらった。

 



それは潮の香りをどこまでも運びながら、

ゆりかごのように優しく部屋のカーテンをはためかせていた。


空を駆けどこまでも旅をするものたちの合唱。

長旅への出発を伝える長く低い音。

心を研ぎ澄ますと、 それは一面を宝石のようにキラキラと輝かせながら、 たくさんの感動を風に乗せて届けてくれる。


窓際のベッドに目を向けると、

真綿のようにふんわりとした黒く長い髪がそよ風になびいていた。

そして、少女は海に反射するお日様の光のようにキラキラと瞳を輝かせ、

まるで吸い込まれるように本を読んでいた。


まさに聖女だった。


※今回のあらすじ※

ひかるは病院で出会った加多来奏に

妹の詩織のことを聞く。

詩織は免疫力に関わる遺伝子の難病で、学校にも通えない。ひかるは奏に詩織の病室に案内された。




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