バクティ 守りたいという気持ち

※前回のあらすじ※

不思議な夢から目覚めたひかる。

ひかるから5次元の話を聞いて愛理栖は困惑する。

二人は空に別れを告げ、再び旅立つ。

旅の途中、二人は偶然雲海に遭遇し、

その絶景に感動した。

※あらすじ 終※



愛理栖と目指してきたそこは、雑草が生い茂り

ただ売り地と書かれた看板が一枚ひっそりと建てられている

だけの閑散とした場所だった。


「愛理栖?」

僕は愛理栖が心配で声をかけたが、 屍のように返事は無かった。

彼女は母がかつて住んでいた今は何もない場所を

魂を抜かれたかのようにただ呆然と見つめていた。


僕はしばらく愛理栖に声をかけずに見守ることにした。


しばらくして僕はありすのおばさんに電話した。

「もしもし。 愛理栖のお、お姉さん今大丈夫ですか?」


「あー、 ひかるくんかぁ。 久しぶりじゃん。 ひかるくんから私に電話してくるなんて珍しいね? どうしたの?」

僕は愛理栖の母の家の現状をおばさんに説明した。


「あ~、 もしかして愛理栖の母親また引っ越したのかもしんないね。 また知り合いに聞いてみるよ。 またわかったら電話するから。 無駄足運ばせちゃってごめんねぇ」


「僕たちは大丈夫ですよ。 愛理栖のおねえさんにはお世話になっていますし。

わかりました。 僕たちは一度戻るんで、 よろしくお願いします」


僕たちの愛理栖の母探しは振り出しに戻ってしまった。

そして僕たちは一旦帰路につくことに決めた。

僕は少し時間がかかってでも安全な国道8号線を経由するルートで帰ることにした。



帰りの道沿いには、

まばゆい夏の陽光に負けじと元気よく育つ稲穂達の景色が続いていた。 それは僕に前向きな気持ちを思い出させてくれた。

僕がしっかりしなきゃ。


それからまたしばらく進むと、大きくてとても綺麗な川が目に入ってきた。

「愛理栖、窓の外見てみ? 左手に大きい川があるよね。

水の色、明るくてすごく綺麗だね」

僕は車を運転しながら、 落ち込んでおとなしくなっていた愛理栖を励ますために話をふった。

「…………」


「愛理栖元気ないね?まあ気持ちわはわかるんだけどね」


「…………」


「愛理栖さっきからちょっと無口すぎじゃない?」

僕は愛理栖の無口な反応を不思議に思った。


「……うぅっ」


「おい! 愛理栖どうした?」

僕は異変に気付き慌てて助手席の愛理栖のほうを向いた。

愛理栖はまるでストーブのように顔を真っ赤にし、

辛そうに息をしながら窓側にもたれかかっていた。


僕は車を路側帯に止め、 愛理栖のおでこに手を当ててみた。

「すごい熱じゃないか? 大丈夫か? しっかりしろ!」

僕は愛理栖を後部座席に寝かせた。

そしてカーナビで近くの病院を探し、 見つかるとすぐに車を病院に走らせた。

「愛理栖もう大丈夫だ。 もうすぐ病院に着くからな。

もう少しの辛抱だ。 頑張れよ!」

僕は愛理栖を励ましながら病院に向かった。




20分くらいかかっただろうか?

前方に海岸線が見えてきた。

小さな町があり、海沿いに道を少し進むと病院もすぐに見つかった。


病院に着き、 僕は愛理栖をおんぶし慌てて病院の中に入った。

僕は愛理栖を看護師の女性に託し、病院の控え室で待つことになった。

 

1分後……、

5分後……、

10分後……、


病院の中での待ち時間はわずかでも僕にはすごく長く感じられた。

僕は愛理栖の容態が気が気でなく、 心配で病院のロビーを落ち着きもなく行ったり来たりしていた。

そして時間をみる為にズボンのポケットに入れているスマホを取り出そうと左右のポケットに手を入れたとき、 僕は気付いた。


「あれ……?」

一緒に取り出した財布の重さが普段より軽いのだ。

僕はお金を払う時に小銭を減らさない癖がある。

財布の札束が一枚も無くても小銭入れの小銭で支払いに事足りる事も多いのだ。

それでついついお金を下すタイミングがいつもギリギリになってしまうのだ。

「無い? 小銭が500円くらいしかない!」

僕は焦った。 このままでは愛理栖の診察代と薬代を払うことができない。 僕は看護士の女性にATMの場所を聞いたが、

病院内では僕の持つネット銀行のキャッシュカードは使えず、

病院を出てコンビニに行かないと無いらしい。

愛理栖の事は心配だが仕方がない。 病院を出てお金を下してくるしかないか。

僕はお金を下してくるのを病院に待ってもらう為にもう一度看護士の女性に声をかけようとしたが……その時。



「おじさん困ってるんでしょ? この優しいうちが特別にお金貸してあげる! 感謝してよ」



おじさん? この高飛車な言葉もしかして僕に向けて言ってるのかな?

僕は疑問に思いつつも言葉の先を振り返った。



歳は愛理栖と同じくらいだろうか。

後ろで結んだハイビスカスの髪をなびかせて。


それはまるでウサギのような小動物を想わせる存在だった。



※今回のあらすじ※

愛理栖の母の家は更地だった。 高熱で倒れた彼女を病院へ運ぶひかる。 現金が無くて困っていると、 高飛車な女の子が声をかけてきた。



——————————————————————

↑【登場人物】

•ひかる

愛理栖ありす

•愛理栖のおばさん

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