サナ この瞬間を

「君、 本当に愛理栖?」

僕は彼女があまりに不思議な格好をしていたのでに聞いてみた。


「はい。 私の本当の名前はアイリスです。

私はひかるさんのおかげで本当の名前を思い出すことができました。本当にありがとうございます」


「お、おめでとう!

やったじゃん」


「実は今日、ひかるさんとお別れを言うために枕元に立ちました」


「え? どういうこと?

お別れってどうして?」

僕は旅先で寝ている時に枕元で愛理栖の事情を聞いて知ってはいたが、 認めたくなかったので慌てて愛理栖に理由を尋ねた。


「私は今日、5次元という不思議な世界に生きる存在になりました。

私は間もなく今の姿を失ってしまいます」


「そんなの認めない! 認めたくない! 愛理栖は僕の友達だろ? ずっと一緒にいてくれよ!」


「ひかるさん、残念ですがそれはできないんです。

私にはこの力を使ってひかるさんのお母さんや身近な大切な人々を救うっていう役目がありますし。

それに……、

本当の私を知る自分探しは両親との思い出を知らない私にとって本当に大切なことでもあるんです。それに……」

愛理栖は言葉に詰まった。


「僕が思い出を失わないように、君は……」


「ひかるさん知ってたんですね」


「うん。

僕は嫌だよ!愛理栖と逢えなくなるなんて絶対嫌だ、昔の記憶なんていい。僕には愛理栖さえいれば、だから僕も行くよ!

愛理栖は僕が守るから。だから、辛い過去や未来が追ってこれないところまで、一緒にどこまでも行こう!」

僕は彼女の手をしっかりと握り、涙を堪えながら言った。


「嬉しい……」

愛理栖の目には涙が溢れていた。


「でも、本当にごめんなさい。

ひかるさんのお母さんや大切な人等との思い出を奪うなんて、私はしたくない」

 凛とした表情で僕の目を真っ直ぐに見つめる愛理栖。

そんな彼女の澄んだ瞳にはその強い覚悟が現れていた。


「ひかるさん?私は今日の夜中の12時まではこの姿を維持できます。

ひかるさんはいつか5次元の世界を見てみたいって言っていましたよね?

今から少しの時間ですがひかるさんに不思議な世界をご案内します。 今から私と一緒にデートしてもらえますか?」


僕は別れの悲しみで声が出ずただ首を縦に振って相づちを打つしか出来なかった。



君と二人の忘れられない日々

私の中で無邪気に笑う

君のその手に救われる程

私は胸が締め付けられる


だから私は行かなくちゃ

守るべき君の未来があるから

君の幸せを願いながら

新しい世界へと旅立つの


いつか、また会える日まで

君の笑顔を胸に秘めて

さよならじゃない、この瞬間

永遠に続く絆を信じて




君と過ごした日々

忘れたくない思い出たち

どんなに辛いことがあっても

君がいるから乗り越えられた


だから、君と一緒に行きたい

また一からの世界でも君の隣に

僕は守るよ、君を

二人で過去も未来も越えていこう


手を繋いで、未来へと進もう

君の笑顔を守りたい

君がいるから僕は強くなれる

永遠に続く愛を誓って



「心の準備はできましたか?

それでは今から不思議な世界へご案内します。 私がいいって言うまで手を離さないで下さいね」

愛理栖はそう言うと、

僕の手を引いて天井や空、太陽系や銀河系を瞬く間に突き抜けて上へ上へと遥か高く何処までも昇っていった。


  しばらくすると、 空さんと星空を観に行った時に僕が愛理栖から聞いた驚くべき光景が広がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る