『応供』 僕は例え死んで生まれ変わっても絶対……、君を忘れたりしない!
(な、何か来る!!)
僕は左側から物凄いスピードで僕目掛け向かってくる何者かの気配を感じ 急いで振り向いた。
『バ~ン!』
しかし、振り向いた時は既に遅く、
僕はそのまま右側へ大きく突き飛ばされてしまった。
「え!?」
『ぐぅががぁぶりぃっっ!!!』
「・・・・・・・・・・・・」
人間の身体を守る為の防御反応からだろうか?
『ドクン、……、ドクン、……』
僕がまだ生きていることを教えてくれた物。
それは、まるで大音量でスローモーション再生しているようにゆっくりと大きな音で聞こえてくる心臓の鼓動だった。
理由は僕にだってわからない。
まったく僕の意に反していたのだから。
こんな命に関わる大変な状況にも関わらず、僕の意識は自分にも信じられないくらい落ち着いている。
そして、僕は今まさに目の前で起こっているその瞬間をまるで他人事のようにただ淡々と観察していた。
結局、僕から牙獣を引き離したのは、
毒の矢……
では無かった。
その何者かが突然僕の目の前に立ちはだかり、
サーベルタイガーの牙を真正面から受け止めた
のだ。
そして、その何者かは
僕が『自分だけを守る為に』放った毒の矢を背中で受け止めていた。
『ドバァァッ~~!!』
血しぶきの激しい音がする。
僕が助けようと前に進もうとすると、
血だらけのその何者かは物凄い見幕で僕を睨み付け、
首の動きで幼い少女と一緒に逃げるように
伝えてきた。
僕は託された幼い少女を抱きながらも
その場を離れられずにいた。
いや、離れられる訳が無かった。
その時、僕の後の方から、ボス率いる仲間達が僕達を迎えに走ってきてくれた。
ボスは、僕と僕の目の前の光景を見ると、
すぐに僕が引き返すよう強引に手を掴んできた。
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!ぜってぇ~嫌だ!
こんなのってねぇ~じゃねぇ~か!
残して帰れる訳ねぇ~じゃね~か!
男としてさ~!人間としてさ~!」
僕はまるで、幼い男の子がお母さんに泣きながら駄々をこねるように泣きわめきながら
見捨てて帰ることを否定していた。
もちろん、もう手遅れなのは解かっている。僕の身代りになったその
なおもぐちゃぐちゃにされ、内臓をえぐり食べられている。
そして、辺り一面には既に大きな血の海が出来あがっていた。
「イ、イヴ!!」
彼女の身体がサーベルタイガーに食べ続けられる時間に比例して、元の身体は原形をますます保てなくなっていた。
イヴの身体はどんどん人間のそれでは無くなっていく。
僕がイヴと呼んでいた生命という
僕は、昔インターネットでたまたま観た
チベットの鳥葬の儀式を思い出し、
それと重ね合わせた。
人間は普通に生活していたら動物に食べられるなんてまずあり得ない。
僕は今まで、それが常識なんだと勝手に解釈していた。
しかし、たった今僕はその考えを改めた。
人間だって動物のエサになりうる自然界の一部なんだ……と。
「離せ~!」
帰る事を拒み続けていた僕は、
仲間達の手で無理やり、住居地まで連れて帰られた。
まもなく厳しい冬になろうかという時期ということもあり、
新しい定住場所には狩の動物が全く居なかった。
もうあの時から数日は経っただろうか、肉を我慢していた僕達は
久しぶりに肉にありつけた。
しかし、食べられる肉は、骨に僅かに残る部分だけだった。
僕はそれでも、肉を食べれることが嬉しかった。
でも、まわりの仲間が肉を食べる姿はみな、
元気が無いように感じ僕はそれが不思議でひっかかっていた。
僕は肉を食べながら、その肉をかすめ取った後の骨付肉の骨の形を無意識に見る。
すると、その骨が人の指の骨に似ている様な気がした。
僕には大きな不安がよぎり、
ボスの寝場所に事情を訊ねに走った。
ボスは不在だったが、僕はその場所である骨をみつけた。
そこには、鋭い牙の後が付いた頭蓋骨が置かれていた。
僕はすぐにひっかかっていた3つの意味が全て理解できた。
動物が一匹も狩れないのに肉が食べられた意味が。
肉を食べる仲間達が誰一人嬉しそうじゃなかった意味が。
鋭い牙の後が残った頭蓋骨が、ボスの寝場所に
白いアルビノの彼女は仲間の心を動かしたんだ。
価値観を変えたんだ。
それなのにっ!くそっ!!
僕はイヴの本当の気持ちを理解せず、
命を守ってあげられなかった自分が、
心から大切にすると誓ったはずなのに
人として当たり前の弔い方さえしてあげられなかった自分が、
憎くて憎くて許せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます