Global Consciousness Project 他心通
一週間後だったかな?
イワンは久しぶりに学校に来た。
だけど……、
あたしと話すのが気まずかったのか、
イワンは休み時間に同じクラスの男子と他愛もない話をしてばかりだった。
窓際真ん中の席のあたしは、すぐ後ろの席のイワンの様子が心配で授業中居ても立ってもいられなかった。
だからあたしは授業中、思い付く限りの変顔をしてイワンに手鏡越しに見せてやった。
あたしはただそうやってイワンに笑って元気になって貰おうとしただけなのに……。
当のイワンは笑わない。
それどころか最悪だった、
あたしがイワンの方向にだけ集中して周りに気が付かないことをいいことに、担任の谷先生は他のクラスメイト全員をけしかけてイワンの周りに集まっていた。
そして、鏡に映ったあたしの変顔見てたのよ!
そしてあたしが気が付いたときには……。
「アハハ、ハハハ、ハハハ、ハハハ、ハハハ、ハハハ!!」
クラスメイトはみんな揃って大爆笑よ!
ったく~、失礼しちゃうわ!
あたしはそれでも、自分が笑われたことよりイワンのことで頭が一杯で、放課後になってからすぐに部室に行ってみた。
あたしが部室のドアを開けてみると、
そこにはイワンと、そのイワンを囲むように四葉ちゃんと顧問の谷先生が先にいた。
「イワン!!」
「真智……ちゃん!!
それに四葉ちゃんに谷先生も、一週間も心配かけてごめんなさい」
イワンはいつも小さな声で眠たそうに話す奴。だけど今日はあたし達に心配かけまいと慣れない
「イワン、心配したよ。もう……大丈夫なの?」
みんなはあえてイワンに両親の離婚のことは触れないように気を回して話してたんだけど、あたし達の予想に反してイワン自ら口を開いた。
「おばあちゃんが隣近所に話してたみたいだから、
たぶんみんなはもう知ってるとは思うけど、ボクの両親離婚するんだ。
それで、妹の晴美は父さんと京都に残るけど、
ボクは母さんと一緒に和歌山県の田舎に引っ越しすることになったんだ。
今まで、あの、いろいろありがとうね」
「両親の離婚はホンマ残念やな。
うちのほうこそ今まで本当にありがとうな。
次の学校でも友達作ってうまくやるんやで」
「谷先生、本当に迷惑かけてすみません。
どうか、残る妹をよろしくお願いします」
「それで、イワンはいつ引っ越すの?」
あたしは一番気になっていたことをきりだしてみた。
「家族の書類上の手続きとかいろいろあるみたいだから、
二三日でっていうことはないみたいだけど、
来週の日曜日までにはってお母さんが言ってたんだ」
「後すぐじゃない?」
「うん」
「あのね、イワン。 実はあたし達部員みんなからあんたに渡したいものがあるの。 受け取ってくれる?」
「え! どういうこと?」
イワンは目を丸くして本当にびっくりしているみたい。
「これよ。」
あたしは、部員を代表してイワンに一冊のアルバムを渡した。
「これは、何?」
「これはね、イワンが転校する和歌山の中学校の人に作ってもらったアルバムだよ。
ほら、それぞれの写真の下にそれぞれ、
同学年になる生徒からあんた宛にメッセージが書かれているでしょ?」
「え? どうして?」
「実はさ、あたし達部員もこの一週間、学校サボって谷先生同伴で和歌山の中学校に行ってきたんだ」
「えー!? どうして?どうして?」
「だって、あんたあっちで友達できるかあたし達本当に心配だったんだよ。
だからね、谷先生や両親、和歌山の中学校にお願いして一週間行かせてもらったの。
イワン、あんたは普段口数が少ないけど、実は相当型破りで面白い奴ってあっちの生徒達に吹き込んできたからね」
「ちょっと、真智ちゃん~!」
「だってイワンの性格ってある意味型破りじゃん!」
「まあまあ、二人とも~!
真智ちゃんはイワンくんの事~、
まるでお笑い芸人みたいに面白い奴だ~って
大袈裟に盛ってたけど~大丈夫ですか~、
イワンくん~?」
「何ちゃっかり転校先でのボクのハードル勝手に上げちゃってくれてんの?
そんなの無茶苦茶だよ~!
でも、そういうお節介ってホント真智ちゃんらしいな、アハハ」
イワンはその時、泣きながら笑っていた。
「そうよ!だからあんた!
向こうでガッカリされないように
しっかりやんなさいよ!」
みんなの気持ちを代表しそう伝え終えたあたしはイワンの背中を強く叩き渇を入れた。
「みんな、ボクの為に、本当に、本当にありがとう。
ボクはさ、父さんや晴美、みんなと別れて独りぼっちになるのが本当に寂しくて、本当に不安でどうしようも無かったんだ。
う、うえ~ん!」
「ちょっとイワン、まだお別れまで何日かあるでしょ!
今泣かないの!」
「うん、ごめん。
・・・
あれ?手紙?」
「あ、気付いた?
それみんなの前じゃ恥ずかしいから、
あたしがアルバムの最後のページにさりげなく貼り付いておいたのに。
それを今指摘しちゃうなんて、全くあんたって救いようがなく空気が読めずデリカシー皆無な男よね」
「真智、顔赤いいぞ~!」
「ちょ、谷先生ー!?」
「え~? もしかしてラブレターとか~!?」
「えー? 四葉ちゃんまで何言ってんの!
断じて違うわよ!
誰がこんなナヨナヨしたイワンなんかに」
顔をお湯が沸いたヤカンのようにしてあたしは否定した。
他の部員全員へのあたしの必死の説得が実り、イワンが和歌山に行った後に手紙を読んでもらう事になった。
そして、
イワンとのお別れの日まではあっという間だった。
そう言えば、あたし達部員は駅までイワンを見送りに行ったんだっけ。
そして、駅前でイワンにお別れの挨拶をしたんだけど、
あたしはこれだけじゃまだ何かもの足りないと感じていた。
イワンはその時車両の窓側の席に座っていた。
出発まで窓を開けてぼ~と外の景色を眺めている。
「イワン~~!
しっかりやんなさいよ~~!
あんたは一人じゃない、いつでもあたし達みんな一緒なんだからね~~!」
あたしは駅の改札口のすぐ外から身をのりだすと、
声を張り上げそう叫んだ。
あたしは結局鉄道員の人に注意されてしまったけど、
でも、そのことでイワンはあたしに気付いてくれたらしく、
窓から手を激しくふってくれた。
イワンは声が張れないから、代わりに滑稽で阿保そうな自作のジェスチャーで返してくれたけど、ま~本人は真剣そうだったし、さようならって意味だってだいたい伝わってきた。
列車の中
「真智ちゃん……。
あ!手紙。和歌山に行ってからって言われてたけど、
内容気になるし、読んじゃおうかな。
どれどれ……」
『拝啓 イワンへ。
和歌山での生活はどう?少しは落ち着いた?
あたしね、イワンは本当は芯の強い子なんだってことわかってるから。
あんたが犬に取られたあたしの人形を必死に探してくれたこと、
あたし今でもすごく感動してるのよ。
あたしはね、誰にも評価されなくても、相手の為に地味な努力を続けることができるあんたのその強さが好き。
だから、自信を持ちなさい。
あ、好きって言うのはくれぐれも友達でってことで、
別にあんたの事が異性として好きってわけじゃないんだからね。
そ、そこは勘違いしないでよね。
最後に、最後って言うのは響きが嫌ね。
とにかく、健康に気をつけて上手くやるのよ。わかった?
それともう一つだけ。京都と和歌山ってそんなに離れてないんだし、部員みんなで抜き打ちで遊びにいくときあるから。
その時はあたし達を丁重にもてなすのよ。
じゃね~♪』
「アハハ、真智ちゃんらしいやww
何故だろう。グスン。
今ボク、なぜだか涙が止まらないよ」
ボクはしっかりやるよ、真智ちゃん、
そしてみんな……!
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