Theory&Observation 唯一絶対性理論と瞑想
「先生。 それで、イワンが加わる件は大丈夫でした?」
「大丈夫よ~! 心配性やね~! ご両親にはうちからうまく言っといたから」
「真智、大丈夫……。 先生が墓穴掘らないようにボクがフォロー入れておいたから……」
「先生~、教え子にフォローされるなんて
本当に大丈夫なんですか~?」
あたしは目を細め、 人を食ったような笑顔で先生に言ってやったw
「だからな、先生はえ~と……、
とにかくあんたら、先生をからかうな! 」
「コツン! コツン!」
「先生、いた~い!」
「トホホ。 どうしてボクまで……」
あたし達は、その後学校に向かい、谷先生に部活の顧問になってもらい、『宇宙の真理を探す部』を発足させたの。
「先生、よくすぐに部室を準備できましたね!」
「あ~、この部屋な? ここは去年まで科学部が使ってたんやけどな、最後の部員が卒業して廃部になって、
そこを借りたわけや」
「そうだったんですか」
「ところで愛理栖? 宇宙の仕組みをなんたらって、具体的には何をするわけ?」
あたしはさっそく愛理栖に聞いてみたの。
「そこなんだけど、まずは宇宙のなりたちを理解してもらって、
宇宙の始まりが5次元レベルで『いつ』『どこで』起きたのかをみつけて欲しいの」
「なるほど!!・・・・・・わからん。
って冗談言ってる場合じゃないか。
それって具体的にどうやって?」
「私の頭の中には宇宙の仕組みの知識アカシックレコードが断片的に記録されているの。
断片的っていうのは、肝心な部分の記憶だけが無くなっているから。
きっと、相手の5次元人が確信に迫られないように妨害している為だと思うの。
だから、みんなには私の知識の無くなったところを思い出す手伝いをして欲しいの」
「うち思ったんやけどな、 まずは宇宙のなりたちについて愛理栖ちゃんが知っていることを黒板に書いてまとめていったらどうや?」
「そうですね! じゃあ、私が知っていることをあげていきますね」
そう言うと愛理栖は黒板に宇宙の知っている知識を書き始めたの。
「ちょっと待って! そのインフレーション理論って何?」
「宇宙がどうやって始まったかっていうことです」
「あたしはさ、宇宙は始まりとか無くて最初から存在しているものって思ってた」
「ボクも……」
「え~! みんな、そこから?
この宇宙には始まりの神話があるんです。
むか~し、むかし、
まだ物質が誕生する前の遥か太古の時代、
状態の不安定な高エネルギーが偽の真空として世界を満たしていました。
ある日、その高いエネルギーが突然変異のように相転移を起こしたのです。
この相転移はドミノ倒しのように次々に飛び火し、
正粒子と反粒子を同じ数だけ生みながら爆発的に広がるたった一つの『力』だけを持つ超高温のエネルギーが生まれたのです。
この超高温の高エネルギーは刹那の一瞬の間に指数関数的に膨張し、そして低エネルギー化へと向かいながら少しずつ冷えていきました。
また、その様に低エネルギー化へ向かう中で、たった一つだけだった『力』は3つの力(強い力・弱い力・電磁気力)に枝分かれしました。
こうして、『無の空間』と呼ばれる偽の真空の中から『宇宙の空間』と呼ばれる真の真空が広がっていったのです。
正粒子と反粒子の数がプラスマイナスゼロで相殺され均衡のとれた原始の宇宙はディラックの海と呼ばれます。
ディラックの海の中では、この正粒子と反粒子が対生成と対消滅を延々と繰り返していました。
気が遠くなる程の繰り返しの中で、あるとき反粒子の一つが、
対応する正粒子よりもわずかに早く寿命が尽きてしまいました。
実は、この反粒子のたった一つが無くなったということは
宇宙にとって大事件だったのです。
正粒子と反粒子のバランスが崩れたのです。
これにより、対生成と対消滅を繰り返すうちに
反粒子はどんどん減っていき
最後には反粒子は無くなってしまいました。
こうして、今でも膨張を続ける正粒子の宇宙が出来たのでした。
めでたしめでたし」
「あたし達そんな事今はじめて聞くよ。
先生は知ってました?」
「うちもはじめて聞いたで!
でも、その発想面白いな~!」
「興味を持ってもらえてなによりです。
それともう一つ、これは宇宙のなりたちにすごく関係があることなんですが、聞いて貰えますか?」
「へ~! どんな話?」
「私の頭の中には宇宙の仕組みの知識アカシックレコードが断片的に記録されているんです。
断片的っていうのは、肝心な部分の記憶だけが無くなっているから。
きっと、相手の5次元人が確信に迫られないように妨害している為だと思うの。
だから、みんなには私の知識の無くなったところを思い出す手伝いをして欲しいの」
「みえないかたち……」
あたしはこの言葉が無性にひっかかり、理由をずっと考えてみたの。
「『みえない』ことと『本当の姿』『錯覚』。 幾何学でいう5次元のことじゃないかね?」
「私もそうだと思います」
「つまり、宇宙のなりたちを5次元的に結びつけて考えるってことね」
「そういうことです。でも、5次元って何かわかりますか?」
「う~ん。 3次元は縦横奥行きで空間を表すことができるけど、4次元は時間を加えたもので、5次元はさらにもう一つの方向があるってこと?」
「そういうことです。でも、その方向は私達3次元人には見えません。それは4次元人や5次元人にしか見えない世界です。その世界では、私達が見慣れた物理法則や因果関係が通用しないこともあります。例えば、時間旅行や平行世界や超能力やテレポーテーションなどです。これらは5次元人にとっては当たり前のことですが、私達にとっては不思議な現象です」
「へ~! すごいね! でも、どうして私達3次元人が5次元人の存在や仕組みを知る必要があるの?」
「それはね……」
愛理栖は少し躊躇した後、続けた。
「それはね……わかりやすく例えると、
私達3次元人は実は5次元人から作られた実験体なんです。
この宇宙も5次元人が作った仮想空間で、
私達は彼らの観察対象なんです。
彼らは私達に自分達の姿や力を隠していますが、
時々干渉したり試したりします。
その時に起こる現象が超常現象や神秘的な体験などです。
私達はそれらを理解できませんが、彼らにとっては単なる科学的操作です」
「え~! そんなこと本当なの? 私達はただの実験体でしかないの?」
「本当です。私はその証拠を持っています。このペンダントです」
愛理栖は首にかけていたペンダントを取り出した。それは金色の五芒星の形をしたもので、中央には小さな水晶が埋め込まれていた。
「このペンダントは5次元を深く知る人達からの贈り物です。
私は幼い頃に彼らと出会いました。
彼らは私にこの宇宙の真実を教えてくれました。
そして、このペンダントをくれました。
このペンダントには彼らの高度に発達した科学文明の知識が記録されているんです。
私はこのペンダントがあることで初めて、
あなた達にこの姿をみせることができているんです」
「すごい……でも、どうしてあなただけが5次元人と出会えたの?」
「それは……」
「あ、もうこんな時間か!時間が経つの早いな~。
みんな続きは明日。うちは明日、授業終わってすぐには部室行けへんけど、あんた達は先に部室で話を進めといてや。
愛理栖ちゃんもそれでいいか?」
「大丈夫です。 じゃあみんなまた明日お願いします」
「オッケー」
こうして、あたし達の活動1日目は終わったのでした。
その翌日。
「ねえ愛理栖? 今日放課後部室行く前に紹介したい友達がいるんだけどいいかな?」
「真智がそんな事言うなんてめずらしいね。いいよ」
あたしは愛理栖と一緒にその友達の教室の前で出てくるまで待つことにした。
「ホームルーム長引いちゃって……。
真智ちゃん~、遅くなってごめんね~」
「…………」
愛理栖はそのとき、驚きのあまり言葉が出ないみたいだ。
「わかる。あたしも最初は驚いたから。この子は物静かでおとなしい性格だけど、身長が180センチもあるからね。
この子、武道やスポーツをやってるわけじゃないらしいんだけど、スポーツと喧嘩強いのよ~!」
「真智ちゃん、喧嘩が強いって言うのはひどいわ~」
「ごめんごめん」
「それに私~、身長の事気にしているんですから~」
「まあまあ、身長もだけど、出るとこ出てるし。
うらやましいな~」
「そんなことないよ~。こんなの重くて邪魔になるだけだし~。
ところで~、その子がこの前真智ちゃんと一緒に歩いてた人~?」
「そうだよ」
「ねえ、真智。 この子も私の事が見えるみたいだね」
「そうなのよ。昨日あたし達が学校の部室に向かって歩いている時に通りかかったんだって。
その時愛理栖のことが気になったらしいよ」
「そういうことなんだ。
え~と、私は真智の友達の愛理栖です。よろしくね♪」
「自己紹介が遅れてすみません~。
私は真智ちゃんの友達の宮崎四葉って言います~。四葉って呼んで下さい~。よろしくお願いします~」
「うん。私のことはちゃん付でいいよ。よろしくね♪」
「ところで、真智ちゃん~?
私が昨日あなた達をみかけた時ね~、
実はお父さんも一緒で~。お父さんにも愛理栖ちゃんが見えてて~、
是非会わせて欲しいって~?
私は断ったんだけどきかなくて~、ついて来てるの~」
「え?」
「ちょうどよかった。あんた達にお客さんや~」
「谷先生?」
「こんにちは。 学校まで来ちゃってごめんね」
「はぁ~、お父さん~……?」
「なんや、 四葉の父親か?」
「は、はい。
お父さん~、早く帰ってよ~!」
「ちょっと待って、お父さんは5次元人の愛理栖さんを少し取材したくて来ただけなんだ」
(小柄な父と身長の高い娘、一瞬父親のほうが子供に見えてしまうのはあたしだけ……かな?)
あたしは心の声でそう呟いた後、四葉ちゃんのお父さんに言ってあげたわ。
「愛理栖はみせものじゃないんです。
興味本位で広められたら困ります!」
「ごめんね真智さん。愛理栖さんの存在をスクープしようとかそういうわけじゃないんだ。
私は仕事で小説を書いているから、そのアイデアの参考にしたいだけなんだ」
「四葉のお父さん、小説家だったんか!」
「そうなんです~……父の小説はあんまり売れていないみたいですが~、
宮崎賢児って本名で小説を書いるらしくて~……」
「宮崎賢児? 聞いたことはあるな~。
確か、え~と 、そうや! ネガティブ小説家の宮崎賢児か!」
「ネガティブ小説家って言わないで下さいよ~!」
「すいませんな~。
ところでお父さんにちょっと質問なんですけど、出身はやっぱり宮崎県なんですか?」
「ほ~ら、やっぱりきたー!
毎度お馴染み名前からの出身地の決めつけ、これね。
僕の出身は岩手県ですよ~!
全国の宮崎けんホニャララさんに謝って~」
「アハハ、すみませ~ん。
ちなみに、どんな小説書いてるんですか?」
「あはは、よく聞いてくれました。
実は私は宣伝の為にと、自分の作品紹介のビラをいつも何枚か
持ち歩いているんです。
これです、どうぞ」
「ありがとうございます~。どれどれ、
『妻にも負けず』
《妻にも負けず、部下にも負けず、飼い猫からの屈辱にも負け~//~ない、そういう人に、私はなりたい……》
……。
おっちゃん。 周りの人にどんだけビビっとんねん!
ほな次いくな?
『クレームの多い銀河鉄道』
なになに、
《ジャパン児がカンパニーの人らと一緒に、
赤字経営の銀河鉄道で働き苦労する話》……って、
あちゃ~。宇宙を舞台にそっち頑張っちゃったか~。
おっちゃんの人生に今まで何があったか知らんけど、もっと夢持ちや。な?
え~と最後は
『風邪だまたサボろう』
…………。
「己はもう、
あ~、もう! うちツッコミ入れるのも疲れたわ~」
「アハハ、面目ない」
「アハハじゃな~い!」
おじさんに対するみんなのツッコミは息ぴったりw。
「ところで真智さん。そろそろ愛理栖さんに会わせてもらってもいいかな?」
「はい? 愛理栖は私のすぐ横にいますけど!」
「え?」
先生は不思議そうに首を傾げ、私とおじさんは互いに驚きを隠せず目を丸くしたの。
「愛理栖? どういうことかわかる?」
あたしは愛理栖に訊いてみたの。
「う~ん、はっきりとはわからないけど、
おじさんは昨日だけたまたま見えただけかもしれない」
「そんなことってあるんだ」
「そうね~。普通は縁の作用で見えているから、
それ以外の人には見えないはずなんだけどね」
この時の愛理栖は、どうにも腑に落ちないって顔をしてたわ。
「うそだろ~。 これじゃ僕から直接愛理栖ちゃんに5次元のこといろいろ聞けないじゃん。 がっかり……」
「お父さん、気が済んだでしょ。見えなかったんだから、
素直にあきらめて! 帰って原稿書かなきゃ締め切り間に合わないんでしょ!」
そう言うと、父親にだけは強気な態度をとる四葉ちゃんは賢児さんを追い返してくれた、ばんざーい!
「うちら随分時間潰したな~。みんなとりあえず部室行こか!」
谷先生がそう言い、みんなで部室に行くことになったの。
「ここがみんなが活動している部室なんだね~?」
「そうだよ。四葉ちゃんは※部活には入って無かったよね?」
あたしはさっそく訊いてみたの。
「うん~。私は性格が引っ込み思案だから、なかなか踏ん切りがつかなくて~」
※のちに文芸部と掛け持ちになります。
「じゃあさ、この部活に入らない?」
あたしと愛理栖が四葉ちゃんにそう聞いたのはほぼ同時だったかしら?
「ありがとう~。でも急には決められないし~。
そもそもこの部活はどんなことをしているんですか~?」
「宇宙の成り立ちを話し合ってるのよ」
愛理栖がすぐに返事をしてくれたの。
「宇宙の成り立ちか~ 面白そう~♪」
「実はね、あたし達はまだ昨日活動はじめたばかりでね……」
こうして、土曜日の活動は最初は思わぬ来客で時間とられちゃったけど、話し合いは順調に進んだの。
むしろ、問題は次の日休日だったのよ。
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↑【登場人物】
•
•
•谷先生
•イワン
•四葉
•四葉の父
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