biological Morality 慈悲
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回想〜
あれは確か5年前だったかな。
あたしとあいつは小学校からの幼馴染で、
SFの話しとかで趣味があったから
よく二人で遊んだりしていたの。
あの日あたしは、お父さんにお人形さんを買ってもらって
つい嬉しくて、近くの神社であいつにお人形さんを見せびらかしてたのよね。
あいつはその頃から感情表現が乏しかったから、
あの時も話しててあたしちょっと冷めちゃったわ。
あたしが人形で遊びだしてしばらくたった頃にね、その場に大きな犬が吠えながらあたしの現れたの!
その犬は私が手に持っている人形を狙っているらしくて、
私めがけて襲いかかってきたの。
そして人形を加え私の手を払い除けると、
私達を威嚇して距離をとったわ。
私ね、も~恐くて恐くて一歩も動けないの!
あたしは側にいるはずの男子のあいつを探したけど、あいつどこにもいないの!
『ポカーン・・・・・・』
あたしそのとき、死んだふりをしながら
イワンの判決を死刑か無期懲役か考えていたんだけど、
しばらくして、あいつが強そうな大人の男を連れて戻ってきたんだ。
大人の人が結局犬を追い払ってくれたんだけど。
『真智ちゃん……ごめん』
『ふん、知らない!』
あたしはあいつの態度に失望しちゃった!
次の日から、あたしは暫くあいつと一緒に学校から帰る事なくなったの!
二三日経った頃だったかな?
『そろそろ許してあげるか』
あたしはあいつに一緒に帰ろうって誘ったけど、昨日に続き今日も断りやがった!
『ごめん……、ボクは用があるから真智ちゃん先帰ってて』
『またそれ~? イワンあんたそれ本気で言ってんの? マジ最悪。 わかったわ。
あんたなんかもう二度と誘わないっ!』
あたしは怒りの方が強かったはずなんだけど、どうしてかその後涙が止まらなかったわ。
あいつと帰らなくなってから一週間くらいたったころだったかしら。
『真智~。何してるの~? お客さんよ、出なさい!』
『は~い! 出ま~す』
夕方も過ぎて辺りは暗くなっていた時間にあたし宛のお客さんが来たの。
「こんな時間にいったい誰なの~?」
あたしが玄関を開けたらそこには……!
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「ごめんくださ~い!
あたし達は、あたしのクラスメートで親友の家に来ていた。
よく手入れされた順和風の広い庭。 庭を通った先の玄関では、
縦に無数に連なる細い縦枠の内側に磨りガラスをあしらった引き戸がその存在を主張していたわ。
しばらくすると、物静かで女性も羨む程の可憐な姿の男の娘が引き戸を開けて出てきたんだけどこいつが……。
「真智ちゃん……?それに、先生ともう一人知らない方。
み、みなさんどうしたんですか……?」
「君にも私が視えるのね。はじめまして。
私は愛理栖。歳は君とそんなに変わらないよ。
よろしくね♪」
「は、はじめまして。ボ、ボクは秀流。よろしく……」
二人の挨拶が済んだところで、あたしはさっそく話をきりだしたの。
「イワン、 実は話があって来たの」
「イワンって?」
首を傾げる愛理栖にすぐに紹介したわ。
「ごめんね、愛理栖は知らないよね。
イワンって言うのは秀流のあだ名。
この子ね、男の子なのに声が小さくて
普段あんまり話さないおとなしい子なの。
だからあたし達はみんな秀流のことを『言わん』、
そう呼んでるって訳」
「そうだったんだね。ごめんなさい、話続けて」
「そうそう、イワン?
あなたも月に行ってみたいって言ってたよね?」
「うん……」
「愛理栖ちゃんを手伝ったら、あたしら月に連れて行って貰えるんだって~!
凄くない?」
「愛理栖さんそれ、本当ですか?」
「うん♪ 但し私を手伝ってそれが上手くいったらだけどね♪」
ウインクしながらイワンを老楽する愛理栖恐るべし。
「ね? 言ったでしょ! だからイワンも協力してよ」
「あ、でも……、ボクの親、勉強しなさいって厳しいから
長い時間家を空けるなんて出来ないよ……。
だから…………」
イワンはうつむき加減で指遊びをしながら、とりとめもなくそう呟いていたの。
「あたしイワンを責めるわけじゃないよー!
ただ、どっちなのかだけ教えて?」
「ご、ごめんね。 僕は参加できない……」
「え~! それ困るな~! どうしようか」
髪をくしゃくしゃにしながら頭をかかえるあたし。
「ねえ真智? 私は先生からイワンくんのご両親に上手く説明して貰えればいいんじゃないかって思うんだけど、ダメかな?」
「愛理栖、それいい! 」
あたしは愛理栖に即答し、そして先生にお願いしたの。
「まったく、仕方ないねぇ」
先生はしぶしぶ応じてくれたわ。
「真智はおしゃべりだから、愛理栖ちゃんと二人で外で待っとき。
「えー! なんでー? どうしてですかー?」
「そうさねぇ~。 あんたはいつも人の話に入りたがる癖があるから要注意や!
ちゃうか~?」
先生はあたしの背後から顔を覗かせると、人を食ったようなニヤリとした口調でそう言ったの。
「アハハ、 ばれちゃいました~? てへぺろ」
「てへぺろ、やな~い! 流行った時代ちゃうやん!
そら~!、どや~? これでもか~」
「アハハハハ、ハーハー、
先生~降参!苦し~。 もうやめて~!」
あたしは先生からこちょこちょの刑にされ、
あたしの笑いが収まった時には、先生は既にイワンを連れて家に入っていったみたい。
「あたし達二人になっちゃったね。
ねえ愛理栖。 一つ話してもいい?」
「いいよ。どうしたの?」
「さっきはあたし、宇宙に行く事しか興味無いみたいに言っちゃったじゃん。
だけどね、実は愛理栖の言う5次元っていうのにもすご~く興味があるの!
あたし達の目に視えていない世界が実は身近に広がっているって考えると、なんだかすごく素敵なことに思えてわくわくするの。
その謎にあたしよろこんで協力するね」
「ありがとう、 真智」
「それで聞きたいんだけど、 愛理栖のいう5次元って具体的にはどんな世界なの?」
愛理栖はまるで別人のように敬語で、そして死んだ魚のような目で淡々と話しだした。
「この5次元宇宙は『四相』と言って、ビッグバン・インフレーション・エントロピー・ビッグリップという順に誕生と消滅を繰り返す仕組みになっています。
宇宙が急激に膨張して物質やエネルギーが生成される時代が『ビッグバン』で、 それが冷却して星や惑星が形成される時代が『インフレーション』です。
そして、徐々に物質やエネルギーが散逸して無秩序になって行くまさに今の時代は「エントロピー」と呼ばれています。
四相の最後、 全ての存在が高エネルギー状態になって引き裂かれてしまった時代は『ビッグリップ』と呼ばれ、
それを終えると、再び宇宙の夜明けから四相の繰り返しに入るんです。
それぞれの『相』はあなた達人間の感覚では約43億年にあたり、
このブレーン宇宙が生まれたのが約140億年前ですから、
今は『エントロピー』の終わりに入っているんです。」
「困ったことに、いつ『ビッグリップ』がやって来てもおかしく無い
『宇宙の終焉』と呼ばれる時代に私達は生きているんです。
「ちょっと気になったんだけど。 エントロピーによる衰退っていうのは、もしかして……?」
「そうです。 真智さんのご両親がいなくなったのも
それと関係があるんです。
隣の宇宙の5次元人が、存在維持の為に私達の宇宙を侵略し始める時期と『エントロピー』による衰退は重なるんです」
「じゃあ……、あたし達の未来には希望は無いの?」
「希望は残されています。
5次元の構造の中に隠された秘密があるはずなんです」
「秘密?」
「先ほど私は『宇宙の夜明け』と言いましたよね?
この5次元宇宙の誕生のきっかけを知ることが秘密になります」
「誕生のきっかけを知ってどうなるの?」
「宇宙の始まりと終わりは常に表裏一体ですから……。
誕生を突き止める事によって『エントロピー』を食い止める事ができるはずなんです。
それに、私達の宇宙を侵略している隣の宇宙の5次元人の正体や目的もわかるかもしれません」
「でも、そんな秘密をどうやって探すの?」
「私は5次元の特別な力を持っています。
その力を使って、5次元宇宙の歴史や法則を探ることができます。
ただし、その力は危険でもあります。
使いすぎると、自分や他人に悪影響を及ぼす可能性があります。
だから、私は仲間を集めて協力しながら、慎重に秘密を解明していく必要があるんです」
「二人ともごめ~ん。 待たせたね!」
先生の声だ。
あたしは愛理栖に続きを聞こうと思ったんだけど、
ちょうどイワンと先生が戻ってきたのでまた今度質問することにした。
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〜回想 続き〜
あたしが玄関を開けたらそこには……、『あいつ』がいたの!
『どうしたのイワン? こんな遅くに。 それにその体、
ぼろぼろじゃない』
『真智、ごめんね。あちこち探し回ってやっとみつけたんだ。
これ……』
『これは……私の大切なお人形!
でも、どうして? それに、犬に噛まれた後とか縫ってあるし!』
『ボクの母さんが縫ってくれたんだ。
あの時、真智を置いて逃げたりしてごめんね。
一人で本当に怖かったでしょ?』
『バカ!』
『ごめん……』
『イワンのバカ!』
『本当にごめんね』
『ううん、あたしはね、今本当に嬉しいんだよ。
確かに犬に狙われた時に一人にされた時はがっかりしたよ。
でもね、イワンがあたしの事を大事に思ってくれているってわかったから、それが今は本当に嬉しいの』
あたしのこの気持ちは、とても言葉だけじゃ抑えされず、
前が見えない程の涙として溢れ続けていたわ。
『真智、ありがとう』
『あたしのほうこそありがとう。
あ~!でもそんなぼろぼろな体は減点よ。
いくらあたしの為でも、もう二度とあたしを心配させるような危険な行動はしないこと、いい?』
『わかったよ。ありがとう、真智』
普段は何考えているかわからないイワンだけど、
その出来事以来、あたしにとってあいつは間違いなく特別な存在になった。
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↑【登場人物】
•
•
•谷先生
•イワン
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