第5話 おっちょこちょいのサンタさん

十二月二十六日。

サンタ村の平サンタ、クロスはサンタ長から大目玉を喰らっていた。

二十五日に子供へ贈ったプレゼントの内容を間違えたのだ。


それも、あろうことか足が不自由で入院している洋介くんにサッカーボールをプレゼントした。

その代りに、洋介くんが欲しがっていた足マッサージ機がサッカー少年の銀太くんに贈られたのだ。


「クロス、君は一体、何を考えているのかね?プレゼントの間違いは今までもあった。しかしだね、足の不自由な子供にサッカーボールをプレゼントするなど、前代未聞だよ。プレゼントされた子供がどれほど傷つくことか…。子供達に夢を与えるサンタクロースが、子供を傷つけてどうするんだ!」

「申し訳ありません…この一言に尽きます。」

クロスは、自分のおっちょこちょいさに嫌気がさしていた。


同じ頃、洋介くんはプレゼントされたサッカーボールを見て途方に暮れていた。


「僕、足が動かないのにどうやって使えばいいんだろう…。」


朝起きてサンタさんからのプレゼントがあった時には、すごく嬉しかった。

夢のようだと思った。


そりゃあ、僕もみんなと同じように走り回ってサッカーをしたい。

でも、この足は一生動かないんだ。


洋介くんの目から涙がこぼれ落ちた。


また同じ頃、銀太くんもプレゼントのマッサージ機を見てがっかりしていた。

「何これ?どうやって使うの?」

僕は、新品のサッカーボールが欲しかったのに。


すると、お母さんは喜んで言った。

「いいじゃない、それ。入院中のおばあちゃんの足をマッサージできるし、喜ぶわよ。これから、お見舞いに行きましょう。」


おばあちゃんが気持ちよさそうにマッサージ機で足を揉みほぐしている時、銀太くんはつまらなさそうに病室を出た。

老人病棟の隣の小児病棟を散歩する。


その時、病室の壁にボールを打ち当てる音が聞こえた。

銀太くんは、その病室に入ってみた。


「あ、僕の欲しかったサッカーボール。」


ボールを手にすると、男の子と目が合った。


「これ、いらないの?」

「うん、いらない。」

「じゃあ、貰ってもいい?」

「あげるよ、そんなもの。」


やった。

銀太くんは喜んだ。


しかし、男の子の様子が気になった。


事情を聞いてみる。

その男の子、洋介くんは一生足が動かない。

サッカーボールをプレゼントされても、サッカーなんてできない。

それで、自分にくれると言う。


銀太くんは、サッカーボールを洋介くんに返した。

「足が動かないなんて、諦めるの?」

「だって、お医者さんもそう言ったんだ。一生動かないって。」

「でも、洋介くん、サッカーやりたいんだよね?」

「うん…。」

「足を動かすことができるように、僕と一緒に頑張ろうよ!そんで、僕とサッカーしよ!」

「一緒に…頑張ってくれるの?」

「うん。僕達、今日から友達だよ!」


洋介くんは、感激した。

友達…。

銀太くんは、確かにそう言ってくれている。

僕が本当に欲しかったのは、友達なんだ。

洋介くんの目から、今度は嬉し涙がこぼれた。


「どうして泣いてるの?」

銀太くんは聞く。


「生まれて初めて友達ができて、嬉しくて…。」


銀太くんは、びっくりした。

学校に行ったら沢山の友達に会える。

そんな日常が当たり前だと思っていた。

こんな子がいたなんて…。


「洋介くん。これから僕と一緒に頑張って歩けるようになろう。そして、友達も沢山つくろう!」

「うん…ありがとう。」

洋介くんは、朝、プレゼントがあった時よりも、ずっと、ずっと嬉しかった。


翌年のクリスマス前。

サンタ村へ洋介くんから手紙が届き、クロスは呼び出された。

クロスは、苦情の手紙だと思いハラハラしたが、サンタ長は大変上機嫌だった。

手紙を読んでみた。


『サンタクロース様


僕は去年、サッカーボールを貰いました。

僕は足が動かないのにどうして?悲しくなりました。

でも、そのおかげで銀太くんと友達になれたんです。

銀太くんは、毎日マッサージ機で僕の足をほぐしたり、足の曲げ伸ばしをしたり、リハビリに付き合ってくれて。

それで今日、ほんの少しだけど足が動いたんです。

お医者さんは奇跡だって言いました。

でも、僕は足が動いたことよりも何よりも、銀太くんというかけがえのない友達ができて、本当に幸せです。

サンタさん、本当に、素敵な贈り物をありがとうございました。


洋介』


「君のおっちょこちょいも、たまには役に立つんだねぇ。」

サンタ長は、ニコニコして言った。

クロスも、本当に幸せな気分になった。


今年も、子供たちに夢を運ぶ仕事を頑張ろう。そう思った。


外を見ると、今年の初雪がパラパラと降っていた。

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