21 第二部 消失した日常『!』
レミィの保護を頼んだ後、話が長くなった。
ライトはともかく、組織にいるやたらやかましいフィーアとかいう女に絡まれてかなりうっとおしい時間を過ごした。
屋敷へと帰り道、何故かもうすぐ屋敷に滞在して一か月になるなと、益体もない事を考えた。
一か月。
すぐ近くに仇がいるというのに、これほどの時間を無為に過ごした事は今までなかった。
自分は何をやっているのか。このままでいいのかと焦りが湧いてくる。
使用人の無実は分かった。
後はボードウィンを始末して、知りたい事を調べたらここを離れるだけだ。
それなのに……。
この場所を離れる事を惜しいと思う自分がいる。
いっそ、あいつらと関わる事がなければ良かったと思う。
馴れ馴れしい屋敷の使用人達も、最初は距離を置いていたくせに妙にこちらに親し気にしてくる少女などもいなければよかったのだ。
そうすれば、出会わずにすんだ。
そうすれば、こんな風に無為な時間を過ごすこともなかった。
そうであれば、アスウェルは己の在り方に迷う事も……。
そこまで考えた時、愕然とした。
「俺は、迷っているのか」
自分がこれからどうやって生きていくべきかを……。
足を止める。
たどりついた屋敷は、日が暮れている状況もあり、薄気味悪く見えた。
そういえば、あまり遅くなるようなら使用人に先に伝えて置いておかなければならないのだった。
言ってない。
門限がどうのとか小言を言われる、そう思いながら屋敷の玄関に向かうアスウェルだが……。
妙だった。
屋敷は不気味な程に静まり返っていて、明かりも灯っていない、人の気配もしない。
扉を押すと扉はあっけなく開く。
中へと入るが、帰って来たという気はしなかった。
帰って来る?
帰る場所なんてアスウェルにはなかったはずなのに。
いや、そんな事よりも他に大事な事があるだろう。
アスウェルは自分が混乱している事を自覚しながら歩を進める。
「……」
「……」
「……」
建物内に満ちるのは無言の空気のみ。
響くのは自分の足音だけ、それ以外には何も聞こえない。
「おい、誰かいないのか」
答える声はない。
明らかに異常事態だった。
アスウェルは、レミィの私室へと走った。
「入るぞ」
他の部屋と違って、レミィの部屋のドアは開け放たれていた。まるで慌てて飛び出したかのように。
内部には誰もいない。
どこへ向かったというのか。
次にアスウェルは……ボードウィンの私室へと向かった。
日が落ちて夜がやってくる。明かりのない建物は暗闇の中。
時が止まったかのような錯覚に陥る。
外からの虫の音や風の音もそよぐ木の葉の音なども、一切耳には届いてこない。
まるで、別の世界にでも来てしまったかのような感覚だ。
「ぅ……ぅ…ぉ……」
その中で、人のうめき声のような声を来た。
「誰かいるのか」
「……ぉ……ぅ」
苦しげにも聞こえる声、怪我でもしていて満足に喋れないのだろうか。
しかし……。
アスウェルは己の目を疑った。
暗闇の中から、ひきずるような音を響かせてこちらに向かってくる存在がいたからだ。
それは肌色のぶよぶよとした肉塊だった。
人の肌を粘土のように丸めて、柔らかい塊にしたらあんな感じになるだろうと、そんなように思える、物体。
肉塊からは、手足が出鱈目に生えていて、よく見れば、他に口らしきものなど顔のパーツらしきものが表面にくっついている。
「……っ」
これまでさんざん厳しい光景を見てきたアスウェル。
人の死体や、怪我を負った人間も見てきた。
だがそんな自分でもそれに対してだけは、平静ではいられなかった。
「何だ……何なんだ、これは」
人間の形に似た何か、得体のしれない物体。
それが、目の前で不気味に蠢いている。
それは手で足で時には、表面にある何かしらのパーツを使いながらこちらへ向かって来ようとしている。
「ぉ…ぉ…」
「……っ」
銃口を向けて引き金を引く。一度、二度。
鉛の銃弾が肌色の肉塊を貫き血しぶきが舞う。
一発二発では動きを止められなかったから、何発も撃った。
ようやく動きを止めたそれに注意深く近づき確認する。
気持ちの悪い物体、その手足に何か糸のようなものが絡まるのが見えた。
それは……よく見たものだった。
「レン……?」
使用人の中でもまとめ役のような存在であった女性の、髪色によく似ている……様な気がする。
まさか。
あり得ない。
そう思っていると、
背後から物音がして、同じような肉塊が湧きだしてきた。
アスウェル考えるのをやめて、勘に従っておそらく一番この屋敷で重要だろう部屋、ボードウィンの私室へと急いだ。
部屋の前にたどり着く。
だが、扉は固く閉ざされていて開けられなかった。
中からは人の声がする。
「いや……っ、やめてください……っ」
「レミィ!」
「あ、アスウェルさん! きゃ……っ!」
「待ってろ!」
銃で狙いをつけて、ノブを破壊する。
扉を開けるが、中に人影はない。
そんなはずはないのに。
「レミィ! どこにいる!」
声は聞こえない。
窓が己の存在を主張するように開け放たれていた。
(テキストメモ)状況を見るに、レミィが犯人に連れ去られたのは明らか。
(指示)事態は一刻も争う。早く追いかけた方が良いと伝える。
「https://kakuyomu.jp/works/1177354054881718998/episodes/1177354054882707492」
(指示)こんな時ほど冷静になるべきだ。部屋に不審な所はないか調べるように伝える。
「https://kakuyomu.jp/works/1177354054882786238/episodes/1177354054882800962」
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