22 かりそめの平穏
あの後、窓から飛び降りて姿を探すも結局、アスウェルはレミィを見つける事は出来なかった。
アスウェル一人では、やれることに限界があると、現実がつきつける。
「太陽! 太陽ってば! もー、どこに行っちゃったのよ! ガイアスくんはいなくなっちゃうし、太陽も撒いてもいないのにどこかいっちゃうし! 私、一応お姫さまなのよ! 一人にしちゃだめじゃない! もーっ」
屋敷の周辺を探していたら、騒ぐ少女と出会った。
「あ、あなた。おおきな男性を見なかった?」
「ほかをあたれ」
「あ、ごめんなさい」
こちらが急いでいると見てか、相手は素直に引き下がる。
背後に遠くなっていく少女がこんなところで一人でいるのは心配ではあるが、ほかのつれが近くにいるなら大丈夫だろう。
「まったく、せっかくお仕事片付けて、みんなを手伝ってあげるためにきたのに、合流できなかったら意味ないじゃない!」
それからしばらく時間がすぎる。
帝国にある建物の地下ネクトで、アスウェルはレミィと再会した。
ある日、唐突にレミィは発見されたのだ。
少女はネクトの構成員によって禁忌の果実に関わる建物から救出されたらしい。
「アスウェルさんっ!」
ネクトに入ってライト達と共に行動をして数日、連中の活動拠点にいる時の事だった。
レミィは禁忌の果実の下からライトの手によって保護された。
「無理はしてはいけないよ。大丈夫かい」
「はい、あの……ありがとうございました」
自力で立てない状況の少女はライトによって車いすを押してもらっている。
「あ、ちょっと動かないで」
「ライトさん?」
ライトがレミィの頭を撫でた……のではなく寝癖を直したようだ。
「人目に出るんだからこれぐらいはちゃんとしておかないとね。たとえ、君のお兄さん代わりの人の前でもね」
「あ、すみません」
ずいぶんと仲が良いらしい。
そんなアスウェルに話しかけるのは組織の構成員であるフィーアだ。
深緑の珍しい髪に踊り子のような目立つ衣装を着た、二十代くらいの女。
「アスウェル、もしかして大事な妹を男に取られそうになって焼いてる兄貴とかー?」
黙れ。うるさい。
こいつは言わなくてもいい余計な事を一言も二事も行ってくる非常に有害な人間だった。
そんなやり取りをするのを見て、レミィが笑いを小さくこぼした。
「ふふ、アスウェルさん友達がいたんですね」
「やかましい女顔だけで十分だ」
ただでさえつきまとわれていて厄介なクルオがいるというのに。
「そういえば二人もいたんですね」
こんなふうに話していると、こんな日常も悪くないと最近は思えてくる。
少し前の自分だったらきっと、想像できなかっただろうが。
ここにあの使用人達がいれば……。
しかし、奴らはもうこの世にはいない。
屋敷はかけつけたライト達によって燃やされたからだ。
あんな化物となってしまった彼らを放っておく事ができないのは理解できる。
だが、他に方法はなかったのか。
レミィはその事を知っているのか、そうでなのか。
そんな風に、これまでと同じように禁忌の果実を追う生活に戻ったアスウェルだが。
変化はあった。
ネクトの拠点にいるときはレミィとフィーアがやかましく騒ぎ、賑やかになった。そして、やつらの拠点に乗り込むときは一人で行動せずにすみ、危険な事態に陥る事が少なくなった。
決まった場所を持たない組織は、噂を聞きつけては移動するというスタイルで活動している。
風の町で過去に巻き戻ってから、三か月が経過していた。
そんな今日、帝国の列車の駅の近くを歩いていると、あの女顔でやかましい友人、クルオと再会した。
「アスウェル、君はなぜここに……」
何故か、会う度にそんな事を言い続けられているような気がする。
「ちょうどいい。少し顔を貸せ」
ライトに言ったのとまったく同じような言葉で混乱しているクルオを組織へと案内する。
レミィの体調は良くなったが、まだ本調子というわけではない。
組織にも医者はいるが、クルオの意見を聞きたかった。
それと、環境が変わった事や屋敷から離された事でレミィがたまに不安がる事があるので、こいつに相手をさせれば少しは紛らわす事ができると思ったのだ。
馬鹿になった元友人をつけまわしているだけあって、人格が良いのは確かだからな。
「え? 君が僕を? これは夢か? いてて、夢じゃない」
クルオは自分の頬に手を伸ばして、引っ張る。
良い年して、レミィみたいな事をするな。
アイツもたまにそういう事をしている。
「アスウェル、復讐はもう諦めてくれたのか?」
「俺が復讐を諦めるなどあり得ない」
勘違いするなとそこだけは断言する。
「そんな。そんな事、君の妹だって望んでなんか」
「お前があいつのことを騙るな」
「……」
復讐を望んでいるなどと、アスウェルとて思っていない。だが、俺を説得するためでも妹の心情を勝手に語られるとイラついた。
大人しくなったクルオを連れて組織の拠点に戻る。
室内では、レミィとフィーアがアスウェル人形(屋敷にあった物ではなく、フィーア作)を巡って争っているところだった。
「だーめーでーすー。アスウェルさんは私のなんですから」
「良いじゃない、ちょっと貸してよ。だっこして頬ずりしてチュッとするだけだから、ね?」
「にゃ、ちゅ……ふぁぁ……」
クルオは目を白黒しながら訪ねる。
「えっと、これは……?」
知らん。
「あ、アスウェルさん。お帰りなさいです」
「あ、アスウェル、お帰り。早かったわね。てかだーれ、それ」
二人分の注目を受けたクルオは緊張した面持ちで自己紹介をする。
互いに名乗り合った後、クルオにレミィの状態を聞かせてやる。
見た目は貧弱でいまいち頼りないがこいつは、医療に携わる人間でもある。
「だから、昔から言ってるけど、僕は薬学に関して詳しい調剤士を目指しているのであって、医者じゃないんだぞ」
「アスウェルさんは昔からアスウェルさんだったんですね」
「クルオ、アンタも苦労したみたいねー」
「全く、その通りです。アスウェルと来たら、怪我ばっかりしてきてその度に僕に診ろと言ってきて……」
予想していた事だが、危機感がない者同士、慣れ合うのも早いようだった。
本来の仕事そっちのけで話し込む連中に、どう灸をすえてやろうかと考えていると、ライトが戻って来た。
「ただいま、大事な話があるんだけど、レミィはいるかい? おや……?」
室内に巡らせるライトの視線が一瞬細くなった気がした。
しかし、その視線もレミィを見つけると柔らかくなる。
常々思っている事だが、こいつはレミィの事をなぜか気に入っているようだ
「あ、ライトさんお帰りなさいです」
「ああ、お帰りお帰り」
「レミィはともかくフィーアは適当すぎやしないかい? それはともかく……」
少しばかり思案するような間が空いた後、ライトは言葉を口にする。
「レミィ、君のご両親が見つかったよ。良かった、これで普通の生活に戻れるよ」
「えっ……」
死んだはずの人間が生きていたと、そう言ったのだ。
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