『決戦! VS真・桃太郎』2/2
「グゥゥゥッ……ッ!!」
ダメージを受けたモモさんが、とうとう跪く。だが、僕たちを見るその瞳には、燃えきらずに残った狂気の灯火が浮いていた。
「まだだ……まだ、倒れん……! アハ、アハハ、アハハハハハッ」
「あれだけダメージを負って、まだ倒れてはくれませんか……っ」
「くっ、さすがに主役張ってただけはあるぜ……っ」
「こっちもだいぶヤバイわね……これ以上何かされたら対処しきれるか……」
「そうは、言ってられない……っ」
と強がってはみたものの、僕も剣を地に刺して支えにしないと、まともに立っていることすらも危うい状態だった。
全員が疲労とダメージに顔を歪めていた。それは僕も例外ではなく、激しい戦いにプラスして、ここまでほぼ休むことなく連戦を重ねてきたことがたたってか、まるで足が棒のようになって動こうとしてくれない。
あと少しでモモさんを止められる。だが体は戦闘の続行を拒否している。
「ハハ、ハ……君たちもだいぶキテるみたいだね? 実に惜しいところまでいったけど、ここまでかな?……それじゃ、これで終いにしようじゃないか」
鞘に収まった刀に手を添える。禍々しい力が柄をたどる様子がまじまじと見て取れた。これから繰り出そうとしている一撃は、すべてを葬り去るには十分すぎるほどのものだと肌で感じる。
「くそっ!」
タオが盾を構え、僕たちの前に立つ。
「タオ!?」
「ここで倒れるわけにゃいかねぇだろ! 余力もギリギリだが、へへ、上等だ――」
「待って」
大剣を引きずりながら、タオの前へと身を置く桜耶さん。
「わたしに、任せてくれないかしら」
桜耶さんの瞳をじっと見つめるタオ。やがて、なにかを察したらしく「わかった」と一言だけ言って首肯した。
「タオ!? 戦況はこっちが劣勢なのよ! もっと慎重に……」
「そんな悠長なこと言ってるヒマはないのは、お嬢が一番良くわかっているだろう?」
「うっ……」
「……嬢ちゃんの心意気にのっかってやろう。こういう土壇場のケンカを買って出られるやつが、案外結末をひっくり返してくれるってもんだ」
「無責任!」
「シェインも賛成です」
「ええっ、ウソ! エクスは!? あなたはどっち!」
「僕は……うん、僕もタオに乗っかってみようと思う」
「……まったく、仕方ないわね!」
ぽっ……と、桜耶さんの体が光った。レイナの両手が彼女の背中に当てられている。
「私もほとんど力を使い果たしてしまったわ。だからほんの気休め程度よ」
「……十分よ。ありがとう」
「フフッ……ククク、アッハハハ。桜耶くん。君がしくじったらその子たちの物語はなくなる。それを背負う覚悟はできているのかな?」
「……」無言で剣を構える桜耶さん
着物も体もぼろぼろだ。レイナが回復をしていたが、彼女から与えられた体力も微々たるものだろう。しかし、僕たちの前に立つその後姿には、もはやモモさんを追いかけていた頃の面影はない。
敵を倒す。ただその気迫だけが背中から伝わってきた。
「どうやら決意は硬いみたいだね。では最後の一騎打ちといこうか。桜耶くん」
二人の間の空気が、一瞬にして凍りついた。
読み間違えたが最後、停止した空気で身を切り裂かれる。――そんな錯覚。
わずかな身動きすらも許されていないような緊張感の中、固唾をのんで二人を見つめる。
風が吹いた。
静寂を打ち破ったのは、桜耶さんだった。
「わたしは……」
「……」
「わたしは。わたしはッ」
破れてきざぎざになってしまった着物の裾が、ふわりと浮いた。
「わたしは、あなたを超えるぅぅッ!」
地面を蹴り、花びらのように着物の布片を引きながら、地面を滑空するかのように飛び出した。
「……アハハ、アハハハハハ! 桜耶くん、その身に背負うすべてを賭けて来るがいいッ!」
右手に力を練り込み、攻撃に備えるモモさん。
「でぁぁあああああああ!」
「おおォォぉおおオオッ!」
ひときわ大きな金属の衝突音を響かせ、二人の影が交差する。
剣を突き刺し、一筋の爪痕を残しながら桜耶さんは静止する。
対するモモさんは、振り抜いたままの体勢でそこに佇んでいた。
「…………」
「…………ぐっ」
膝をついたのは桜耶さんだった。
「決したようだね、桜耶くん」
横に伸ばしていた手を下ろす。
「この勝負……ぼくの負けのようだ」
鍔の向こうに伸びている刀身が、半ばほどで折れていた。
弧を描いて空を舞っていた刃の片割れが桜耶さんの横に刺さると同時に、モモさんの体が前のめりに倒れる。刀創から漏れ出る血液が地面と体に圧迫され、放射状に飛び散った。
「……負けた、か。ぼくが」
指に血を絡めるように指先を滑らせる。
「こんなに真っ赤な血が、ぼくの体の中を流れていたのか」
うつ伏せから仰向けになり、空を見上げながら手を上げる。
空をさまよう手のひらの中に、なにかがひらりと舞い降りた。
「あぁ……これは……なんだろう。桜、かな? ははっ、綺麗だ――」
伸ばしたその手に舞い降りる、ひとひらの桜色。
それをモモさんは、たしかに握りしめた。
――――。
―――。
――。
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