『醜い不遜の贅肉』2/2
「……よし、だいぶ数は削ったな」
「ぐっ……!」
「あとはお前だけなわけだが。……へっ、どうした? 威勢がいいのは取り巻きが多いときだけか?」
「なんだとぉぉぉおお? ブッコロス!」
大太刀を地面に向けて振り下ろすカオス・桃太郎。
「攻撃が来るぞ!」
「あんたが挑発するからでしょう!?」
皆が来る攻撃の回避に備える。……だが、待てども待てどもそれは来なかった。
しんと空間が沈黙を強いる中、唐突に、まるで鉄が砕けたかのような、激しく甲高い音が鳴り響いた。
「………………え? どうしてだ?」
カオス・桃太郎が、明らかな困惑の色を声に混ぜて、手元に視線を落とす。確かに腕は地面を向いていた。彼が渾身の力を込めて腕を下ろしたことは間違いない。そして手に握っているのは大太刀の柄。しかし、その先にあるはずの刀身がまるまると消えていた。いや、実際には、刀身は粉々になってカオス・桃太郎の足元に散らばっていた。
「……なんだ、これ」
「大振りな攻撃は隙を見せる」
さっきまで僕たちの近くにいたはずのモモさんが、いつの間にかカオス・桃太郎の背後へと回っていた。
事態を把握したカオス・桃太郎が振り向き、視界にモモさんを捉えると、財宝の詰まった大きな袋に手を入れ、新たな大太刀を引き抜いた。そんなものも入っているのか、あの中……。
「今度は不覚をとらない! 死ねぇィ!」
再び振り下ろされた大太刀。しかし結果は変わらず、またもや刀身を分断されてしまう。その様子を間近にして焦りを感じたらしいカオス・桃太郎は、手を袋に突っ込んでは、次々に得物を掴み三度四度五度……幾度も振り下ろされる刀そのすべてが、悲鳴のような衝突音を響かせてたちまちバラバラにされてしまった。
「な、な、な……!」
「もう終わりかい? それじゃ、今度はこっちの番かな」
ふっと、モモさんの姿が消えた。再び現れたのはカオス・桃太郎の背後。
「……?」
何が起きたのかわからないと言った様子で硬直しているカオス・桃太郎。確かに、一瞬金属同士の擦れ合うような音が聞こえたものの、彼の体になにかが起きたという様子はまったくなかった。
しかし、モモさんはまるで勝負は決したかのような面持ちで、こちらへと歩み寄ってくる。
「……フハハ、効かんなァ! そんな貧弱な刀で何ができるッ!」
「確かに。私一人の細い刃では君を倒せない。けどね――」
突然、カオス・桃太郎の纏っていた鎧が離散した。
「ッ、なに!? 鎧が……!」
「用が足りちゃうんだよ。この細い刀でね」
言い終わると同時に、カオス・桃太郎の周囲に土煙が上がる。もはや爆発音と間違うほどの轟音が岩の間に反響した。
風が塵埃を巻き上げる。視界がクリアになったことで、何が起きたのかがすぐにわかった。
「グっ……あァ…………」
「……」
カオス・桃太郎の前に静かに佇む桜耶さんの大剣が、地面をえぐり埋め込まれていた。頭上からの急降下。装備と体の自重を込めた彼女の渾身の一撃が、彼の体を縦一文字に切り裂いた。
そしてそれが決定打となったらしい。カオス・桃太郎の体は黒い霧に分解し、やがて姿を消した。
「ご苦労様、桜耶くん」
「……いいえ」
二人の間にわずかなやり取りが挟まり、それからモモさんは僕らの方へと向き直った。
「……ふぅ。とりあえず一段落ついたかな」
月明かりに照らされた彼女の顔は、とても柔和で優しげだ。
「少しは君たちの仕事の助けになったと思いたいけど」
まるで子供に対して向けるような笑顔。
「さて、これで決着だね。それじゃあ調律とやらをしてここを元に……」
「……それはまだできないわ」
レイナが、モモさんの方へと歩み寄る。
「できない?」
首をかしげて、モモさんは疑問を投げかけた。
「どうしてかな。もう戦いは終わったのだろう?」
「まだ戦いはまだ終わってないのよ。……いい加減に正体を明かしたらどうかしら?」
彼女の前で立ち止まると、弧を描くように、レイナは得物の片手剣を滑らせた。
「……これはどういうつもりかな、レイナくん?」
「あなたでしょう? この世界を混沌に陥れている黒幕は」
剣先はモモさんの顎の下でぴたりと止まっていた。
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