3『正面突破!』1/2
日も暮れてあたりが暗くなったころ。待ち合わせしていた村の外へ行くと、そこにはすでに二人の姿があった。僕たちの姿を見つけたモモさんが、手を上げて迎えてくれた。
「やあ。準備の方はどうだい?」
「バッチリです」
シェインが答えながら手を振り返す。
「それは重畳。では早速出発しようか。解決は早いほうが断然いいからね」
「よっしゃ! 敵陣に殴り込みだ!」
「あんたはいつも楽しそうね……」
「こういうのは気分で引っ張らねーとな! ヤバイ状況だからって落ち込んでたらそれこそドン底だってものだ」
「ヤバイ状況? そんなに切羽詰まっている状況なのかい?」
タオの発言に、モモさんが食いつく。
「それについては道中で説明するわ。とりあえず先へ行きましょう」
レイナが先行して歩を進める。それに僕たちはついていく。
しばらくは誰も口を開かなかったが、いくらか歩いたところで、モモさんがレイナに話しかける。
「それで、今、状況はどういう形になっているのかな?」
「今回の想区に及ぼしている悪影響は、とんでもない速さで伝播しているわ。同一人物が同じ世界に複数いる状況が矛盾を生み出して、秩序と均衡を揺るがしている。主人公の氾濫が著しく世界のバランスを崩しているの」
「バランス?」
「そうよ」
モモさんたちと合流する前に僕たちに聞かせてくれた推測を、今度は二人に対して説明し始める。
「ふむ。偽物とはいえ、同じ人間が溢れかえっているっていうのは、なるほど確かに世間一般的に考えたら不可思議でありえないことだね」
「ええ。だけど、ただの偽物だっていうのなら、実はここまで早く状況が転がることはなかったかもしれないのよ。ヴィランを桃太郎に化けさせるなんてこと自体は、しょせんはただの偽物にすぎないだけ。偽物が世界構造に与える影響力なんて、微々たるものよ」
「……レイナくん、もしかして、あの桃太郎たちは本物、だと言いたいのかい?」
「そうとも言い切れないけど、それに近い存在ではあるわ。彼らからは確かな力を感じるのよ。熱いヒーローの魂。それと……混沌を帯びた冷たい魂の力」
「冷たい魂、ね……」
モモさんが、感慨深げにレイナの発言を繰り返した。
「そして、ひときわ強い混沌の気配が鬼ヶ島にいるわ。おそらく元凶ね。これを速やかに討伐しなければ……この想区はそう遠くない先に崩壊を迎えることになるわ」
「世界の……崩壊」
桜耶さんがつぶやく。暗くて表情はわからないが、突然の終末宣言に動揺しているのだろう。不安感と緊張、声色にそれは混じっている。
「とはいっても、今日中……遅くとも明日までに調律を終えられれば崩壊は免れるわ。多すぎるほどの時間はないけど、今日中に行動を起こせたことで十分な時間はとれた。あとは……」
「鬼ヶ島への道中を無事に抜けられれば……ってことだね」
話し込んでいるうちに、いつの間にか村と海を隔てる森林の入り口へと到着していた。まるで暗幕のように下りている暗闇の向こうからは、怒号と剣戟の音が絶え間なく漏れてくる。
「ここまでは奇跡的に敵と遭遇しなかったらスムーズに来れたけど、ここから先はそうもいかなそうね」
「うーん、できれば戦闘は控えたいですね。きりがなさそうですから」
「気を引き締めていくぞ、お前ら!」
「そんなこと言われなくてもわかっているわよ」
各々がヒーローとのコネクトを終える。
手にした剣を握り、これから行われるであろう戦闘への心構えを改めた。
「……よし、行こう」
大口を開けて僕らを待ち受ける闇へと足を踏み入れた。
***
「……剣豪さま」
「どうしたんだい、桜耶くん?」
「……本当に、行かれるのですか?」
「行かれるって、鬼ヶ島にかい?」
モモさんの質問に、桜耶さんは沈黙した。
「私たちはこの事態を収集するために旅をしてきたんだ」
「はい」
「だったら、私たちはこの事態を起こしている根本を倒さないといけない」
「……はい」
「桜耶くん」
俯く桜耶さんの頭を優しく撫でる。
「……頼りにしているよ」
「…………」
モモさんの期待に対する応答は、いつまで経っても桜耶さんの口から出ることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます