農協おくりびと (10)返答次第では・・・ 

叔父が、祐三の顔をゆっくりと覗き込む。

 

 「なぁに。俺はあえて事を荒立てようという気など、毛頭ない。

 だが、お前さんの返答次第では公にする。

 怒るだろうなぁ。事実を知ったら清ちゃんが。

 お前さんが若い娘にたっぷりと、ちょっかい出したと知れば・・・」


 祐三の手から、曲がったキュウリが滑り落ちていく。


 「わ、わかった。よ、・・・要求は、な、なんだ。さっさと条件を言え。

 無条件降伏する。

 なんでもきくから、好きなだけ額を提示してくれ」


 制服姿で訪ねて来ているちひろを見て、祐三がすべてを察した。

知り合いの農家が農協職員を連れ、わざわざ仕事場を訪ねてくるのはこの時期の、

共済の推進以外に、用は無いからだ。


 「ほぉ。いい覚悟だ。なぁに、たいした額じゃ無い。

 3000万の生命保険と、2000万の火災保険に入ってくれればそれで十分だ。

 あとでこいつが共済の契約書を持ってやってくる。

 そいつに気持ちよくさらさらとサインしてくれれば、万事が丸く収まる」


 「分かった、了解した。それだけでいいのなら、気持ちよくサインする。

 だが約束だけは守ってくれよ。間違っても女房にバラさないでくれ。

 武士の約束だ。絶対に言わねぇとおめえさんも約束してくれ」


 「おう。武士に2言はねぇ。約束する。

 この口が裂けても、清ちゃんに告げ口なんかするもんか。

 それから、もうひとつついでだ。別の頼みごとが有る」


 「な、なんだよ。まだ別件が有るのかよ。

 しょうがねぇなぁ、身から出た錆びだ。

 新人とはいえ、5000万の契約だけじゃ共済のノルマには届かねぇだろう。

 あといくら不足なんだ。

 誰を呼べばいい。2人目の犠牲者は?」


 「2人目の協力者と言え。それじゃまるで、俺がお前さんを脅迫しているみたいだ。

 トマト農家の高橋の奴も、ちひろの尻を触ったはずだ。

 あいつにも2000万の共済に入れと、お前さんから言っておいてくれ。

 2人あわせて7000万。それが今回のセクハラの代金だ。

 若い娘の身体をぞんぶんに堪能したんだ。安いもんじゃねぇか。

 以上で交渉は成立だ。

 忙しいのに、邪魔をしたな祐三。

 俺も忙しいから今日はこれで帰る。あとで一杯やろうや。

 ちひろに触った連中の、全員を集めてよ。あっはっは」


 「おう。呑み会の件も了解した。

 ネエチャン。明日、契約書を持ってこい。その場でサインをしてやるからよ。

 で、いつ呑む。明後日か、四明後日(しあさって)か?」


 「そうだな。四明後日の夜でいいだろう。

 有機キュウリ全員に声をかけておけ。

 集合場所はそうだな、ちひろに触った例のカラオケ居酒屋でいいだろう」


 「了解した。じゃネエチャンも来いよ、またたっぷりと呑ませてやるから」


 「はい。よろこんで(来年のノルマのためにも、喜んで)」とちひろが、

ニコリとほほ笑む。


 


(11)へつづく

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農協おくりびと 6話から 10話まで 落合順平 @vkd58788

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