十一品目:コカトリスの親子丼(前編)

ロムルス遺跡。

 センブロム王国の北西部にある遺跡で数千年前の陶芸品や財宝が眠るとされていて多くの冒険者が訪れている。しかし、遺跡の中は狂暴なアンデッドが巡回しており、並大抵の冒険者では歯が立たないため、冒険者ギルドがダンジョンとして、むやみに訪れないように警告している場所でもある。

 オスカーはそんなロムルス遺跡を一人で訪れていた。


一人ソロでの依頼は久しぶりに思えるな……。


 オスカーは腰のポーチから依頼書を取り出し、内容を再確認する。依頼書には『ロムルス遺跡のコカトリス一体の討伐』と記載されていた。

 ロムルス遺跡の中は薄暗く、松明で照らさないと足元が見えなかった。オスカーは松明で足元を照らしながら慎重に遺跡の階段を降りていく。階段を降りると、大きな広間に出た。周辺を警戒しながら広間を進むと部屋の奥でうめき声が聞こえてきた。

 オスカーはバスタードソードを抜き、構える。松明をうめき声が聞こえた方へ放り投げる。松明の光でうめき声の正体が判明した。三体の動く屍リビングデッドだった。


「ゾンビか……」


 リビングデッド達はオスカーに向かって、一斉に襲い掛かってくる。オスカーはバスタードソードを握り、剣を振るう。一体のリビングデッドを吹き飛ばし、二体のリビングデッドの攻撃をかわしていく。吹き飛ばしたリビングデッドも立ち上がり、再び襲い掛かってくる。


「……キリがないな……」


 オスカーはポーチから小さな瓶を取り出し、瓶の中の液体をバスタードソードに塗った。そして、放り投げた松明を拾い上げ、松明の炎をバスタードソードを近づける。バスタードソードに塗ったのは油で、その油が引火し、バスタードソードは炎を纏わせた。

 リビングデッド達はバスタードソードの炎に恐怖していた。オスカーは剣を振るい、リビングデッドを切り裂いた。傷口から炎が移り、リビングデッドの肉体が燃え上がる。炎上したリビングデッドは灰となり消え去った。

 その様子を見て、他のリビングデッド達は逃げ去ろうとしている。オスカーは逃亡を許さず、そのまま追撃する。リビングデッドの背を切り裂き、燃えさせる。最後の一体の背にも剣を突き刺し、とどめを刺した。リビングデッド達は燃え上がり、灰となった。

 他にモンスターがいないか確認しながらバスタードソードに纏った炎を消化しながら鞘に戻した。


ゾンビはそこまで脅威ではないが…………数が多いな。


 広間の奥に進むと、そこには藁や骨で作られた巣があった。オスカーは足音を立てずに慎重に巣に近づく。巣の中を覗き込むと、そこには三つの卵が置かれていた。


「これは……マズいな……」


 オスカーは速足で、この場を去ろうと考えたが、時既に遅かった。部屋の天井から視線を感じた。オスカーは天井を見つめると、そこには鋭い眼光がこちらを覗いていた。


「…………コカトリス……」


 コカトリス。雄鶏の姿だが尻尾から先は蛇になっており、蛇の顔と鶏の顔。二つの顔を持つ、双頭のモンスターである。全長は三メートル程。鋭い鉤で相手を切り裂き、蛇の部分で締め付ける。

 コカトリスは鋭い鉤爪で天井に張り付き、鶏の頭と蛇の頭をこちらに向けていた。オスカーが覗いた巣はコカトリスの巣だった。

 オスカー再びバスタードソードを抜き、構える。コカトリスは鉤爪を離して、地面に着地する。着地の衝撃で土煙が巻き上がり、コカトリスの姿が隠れた。土煙が晴れると同時にコカトリスの蛇の頭が襲い掛かって来た。コカトリスは尻尾を伸ばし、蛇の口を大きく開けた。

 オスカーはバスタードソードで蛇の攻撃を受け止めた。凄まじい勢いで襲い掛かってきており、攻撃を受け止めたオスカーは後退りする。


くっ……。


 オスカーは蛇の頭を蹴り上げ、バスタードソードを振るい、蛇の頭を切り裂こうとする。しかし、蛇の頭はしなやかに動き、オスカーの斬撃を回避する。コカトリスは飛び上がり、鋭い鉤爪でオスカーを突き刺そうとする。オスカーはバスタードソードで爪を弾き返す。しかし、コカトリスはそのまま体重で押し潰そうとする。オスカーは飛び込むように後ろへ回避する。

 コカトリスののしかかり攻撃を回避することができたが、その衝撃で吹き飛ばされる。吹き飛ばされて地面に激突するが、何とか体勢を整える。


「……はぁ……はぁ……この狭い場所では……コカトリスとの戦闘はキツイな……いや……これなら」


 オスカーは広間の支柱に視線を向ける。ポーチから衝撃弾を取り出し、支柱の隙間に衝撃弾を入れ込む。コカトリスは立ち上がり、オスカーに気が付くと勢いよく走り出した。オスカーはコカトリスの体当たりを回避すると、コカトリスは支柱に激突した。激突した衝撃が引き金となり、衝撃弾が爆ぜる。

 衝撃弾の影響で衝撃が膨張し、コカトリスと支柱を吹き飛ばした。コカトリスはバランスを崩し、倒れ込む。そして、支柱を失った広間は壁や天井に亀裂が入り、崩壊寸前だった。

 オスカーは天井が落盤する前に広間から避難する。コカトリスは起き上がり、オスカーに襲い掛かろうとするが天井が崩れ、瓦礫がコカトリスに直撃する。コカトリスは瓦礫で身動きが取れなくなり、そのまま瓦礫に飲み込まれていった。

 土煙が上がり、オスカーは土煙が収まるまで剣を構えて警戒している。土煙が晴れると瓦礫に埋もれ、身動きが取れなくなったコカトリスの姿だった。オスカーはコカトリスに近づき、コカトリスの首を跳ねた。コカトリスの首から鮮血が噴き出し、ピクリとも動かなくなった。

 オスカーは血を拭い、バスタードソードを鞘に戻した。周辺を確認し、他のモンスターがいないか見渡す。そして、瓦礫の隙間にあるものに気が付いた。瓦礫をよけると、そこには先程、見たコカトリスの卵が三つ転がっていた。運よく、卵は割れていなかったようだ。

 コカトリスの卵は滋養強壮に効き、一部の美食家に人気である。オスカーはコカトリスの卵を回収しつつ、コカトリスの解体を始めた。




 コカトリスの解体を終え、ロムルス遺跡から出ていった。麻袋の中にコカトリスの肉と卵を詰め、ギルドに戻ろうと歩き出すと、茂みの中から無数の冒険者達が出てきた。

 その中にはSランクの冒険者パーティー【三賢者】もいた。【三賢者】のリーダー、ネスコ・トリシュがオスカーに気が付き、こちらに近づいた。


「オスカーさん」

「お前は……【三賢者】のネスコ・トリシュ」

「お久しぶりです。どうして、ここに?」

「…………俺はロムルス遺跡での依頼を終えた所だ……そちらは?」

「シューナ村付近でワイバーンの群れが目撃されたようです」


 ネスコの言葉にオスカーは驚愕した。


「ワイバーンの群れ…………【悪角のリドルゥ】か……」

「えぇ、私たちはギルドからの依頼で偵察部隊としてシューナ村に向かっています」


 ネスコの後ろを見ると冒険者ギルドとは別に冒険者ギルドや魔法研究局の職員の姿があった。見るからに戦闘を行うような選出ではなかった。


「……調査に特化した部隊ということか……俺も同行しようか」

「いえ、ギルドマスターの命で、【孤高の鉄剣士アルーフ・リベリ】は直ぐに帰還するように。と伝令を受けています」

「……あぁ……分かった……気を付けろよ」


 オスカーはネストと挨拶を交わし、ギルドへと戻った。




 オスカーはコカトリス討伐後、冒険者ギルド【翼竜の鉤爪】を訪れていた。コカトリスの報酬処理の間、オスカーは応接室に案内され、リリアナと話をしていた。

 

「帰って来たか……【孤高の鉄剣士】よ」

「【三賢者】のネスコ・トリシュから話は聞いている……ワイバーンの群れの目撃情報があったようだな」

「あぁ……じゃが、問題は別じゃ。レオン達、【白き狼騎士ベオウルフ】からの報告じゃと【悪角のリドルゥ】はドラゴンを倒し、捕食したそうじゃ」

「……な……なんだと……?」


 【悪角のリドルゥ】という言葉に背筋が凍る。


「ワイバーンが……ドラゴンを……」

「奇しくもアンタと同じ、竜殺しの称号を得たのじゃ」

「俺は竜殺しでない…………今後、その話はするな」

「すまぬ。要らぬ、話じゃったな」


 リリアナは依頼書をテーブルに置き、頭を下げた。


「なぜ、【悪角のリドルゥ】がドラゴンを食っているかは不明じゃが、脅威なのか変わらん。【竜葬の王剣ドラゴ・カリバーン】に帰還命令を出した」

「…………【竜葬の王剣】がか……」


 竜葬の王剣。現在の【翼竜の鉤爪】の中で、最古のSランク冒険者パーティーであり、最強のパーティーである。


「あのオヤジが戻ってくるのか」

「あぁ、【翼竜の鉤爪】の総力を持って【悪角のリドルゥ】を討つ予定じゃ。既に王国や魔法研究局にも協力要請を打診しておる」


 リリアナは拳を強く握り、オスカーを見つめる。


「【孤高の鉄剣士】よ……アンタにも【悪角のリドルゥ】の討伐に加わって貰いたい」

「…………俺が?」


 リリアナは再度、頭を下げると立ち上がりオスカーの肩を叩いた。


「今すぐ、返答せんでもよい。よく考えてほしい」


 リリアナはそう言い残すと、応接室から出ていってしまった。一人残されたオスカーはため息をつきながら立ち上がった。


「……【悪角のリドルゥ】か……」

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