八品目:プラチナロブスターのオーブン焼き(前編)

ペイルオ海岸

 ラッセン港の近くになる海岸で夏になると海水浴場として解放している人気の観光地である。本来ならば観光客で賑わってる海岸だが、今はもぬけの殻でオスカーと【夜明けの鴎】のリーダー、ヨハンだけが浜辺で突っ立っていた。


「悪いな、こんな所まで」

「……それは構わないが……どうしてペイルオ海岸に?」


 オスカーの質問にヨハンはどうしたものかと頭を掻いた。


「実はな……最近、ここら辺にプラチナロブスターが頻繁に目撃されているんだよ」


 プラチナロブスター。体長15センチほどのモンスターだが、長寿で何十年も生き続けると言われている。そのため最長50センチにもなる個体も存在する。

 主に浅瀬や岩礁付近に生息する食用モンスターである。白銀の殻は装飾品としても重宝されており、商人の間で高値で取引されている高級品の一つだ。

 そのため密漁者による乱獲が問題視されており、プラチナロブスターの捕獲や流通に制限が掛かるほどである。


「……プラチナロブスターか……こんな観光地で見つかるとはな」

「あぁ、数ヶ月前までは一匹も居なかったんだが、ここ数日で多数のプラチナロブスターが目撃されている」

「突然の大量発生か」

「あぁ、しかも悪質な観光客が無断でプラチナロブスターを捕まえようとしてな」

「それで閉鎖してるのか」


 オスカーは辺りを見回す。本来であれば観光シーズンで、観光客で賑わってるはずだが今は人一人もいない。


「そこで【孤高の鉄剣士アルーフ・リベリ】にはペイルオ海岸の調査を協力して貰いたくてな」

「……なぜ俺なんだ……?」

「俺とお前の仲だろ? 頼むぜ!!」


 ヨハンはオスカーの背中をバンバン叩くと、オスカーは項垂れだからため息をついた。


「はぁ、分かった……ただし、報酬とは別にプラチナロブスターを貰うぞ」

「あぁ、構わない!! それにプラチナロブスターは焼いても蒸しても美味いからな!!」

「…………そうか」


 二人は沿岸を沿って歩きながら周辺を探索する。確かに水面にキラキラと白く光るモノが見える。目を凝らしてみると無数のプラチナロブスターがうごめいていた。


「確かに……多いな……」


 ふと視線を岩礁の方に向けると、波打っている岩に違和感を覚えた。不思議に思い、足元に置いてあった石を拾い、違和感を覚えた岩に向かって投げる。

 投げた石が岩に当たると、岩が小刻みに震えた。


「っ!? 動いた……?」


 オスカーはバスタードソードを抜き、剣を構える。その様子を見ていたヨハンは慌ててオスカーに近づく。


「何事だッ!!」

「……あの岩が動いた………モンスターか?」

「岩のモンスターか……もしかしたら……」


 ヨハンはマスケット銃を構え、一発弾丸を放つ。放たれた弾丸が岩に着弾し、雷撃が爆ぜる。

 雷撃を受けた岩は大きく揺らぎ、岩が動き出した。岩の正体は巨大な亀だった。


「…………コイツは?」

「珍しいな、岩泥亀マッドタートルだ」

「……マッドタートル……?」

「あぁ、普段はこんな浅瀬にいるはずが無いんだが……そうか!」


 ヨハンはマッドタートルの足元を見ると白く輝く欠片が無数に水面に浮かんでいるのが見えた。


「マッドタートルは甲殻類のモンスターが好物なんだ」

「成る程……大量発生したプラチナロブスターに引き寄せられた。と言うことだ」

「こりゃ、思っていた以上に不味いことになるぞ」

「……他のモンスターもプラチナロブスターを求めて、この海岸に来る可能性があるな」

「あぁ、マッドタートルのような温厚なモンスターだが良いが」

「人を襲うような狂暴なモンスターなら尚更まずいことになる」


 二人は探索を続ける。歩き続けると、どんどんプラチナロブスターの数が増えていっているように思えた。

 しまいには砂浜を埋め尽くすほどのプラチナロブスターが群がっていた。


「な、なんだ……この数は……?」

「異常過ぎる」


 埋め尽くされたプラチナロブスターの先を見ると、そこには海藻の山があった。プラチナロブスター達はその海藻の山によじ登り、海藻を補食していた。


「この海藻が原因なのか」

「成る程な。海藻を求めて大量のプラチナロブスターが押し寄せてきたのか」

「……この海藻は何だ?」

「おそらく密漁し不法投棄された物だろう。……仕方ない、この海藻はウチの漁業組合で処理する」

「分かった……プラチナロブスターの大量発生の原因も判明したし……これで終わりか?」

「あぁ、そうだな。助かったぜ」


 二人が話していると突然、悲鳴のような雄叫びが海岸に響き渡った。


「何だ!?」

「……先程のマッドタートルがいた方角からだ」


 二人は慌てて駆け寄ると、そこには血塗れになって絶命しているマッドタートルがいた。横たわるマッドタートルの上に一体のワイバーンが立っていた。ワイバーンはマッドタートルの肉片と血を飛び散らせながら、マッドタートルの喉に食らいついていた。


「ワイバーンッ!?」

「…………」

「もしかして【孤高の鉄剣士】が戦ったという【悪角のリドルゥ】か?」

「…………いや………角がない。普通のワイバーンだ。だが……こんな海辺にワイバーンが……」

「兎に角、ワイバーンを処理するぞ」


 二人は武器を構え、戦闘の準備を整える。二人の存在に気がついたワイバーンは翼を翻し、二人に襲い掛かる。

 ヨハンはマスケット銃で牽制をかける。マスケット銃から放たれた銃弾は真っ直ぐワイバーンの方に向かう。ワイバーンは弾丸を避けながら、ヨハンに向かって爪を伸ばす。

 オスカーはバスタードソードを振るい、ワイバーンの爪を弾き返した。

 ワイバーンは尻尾を振り回し、追撃する。オスカーは剣で攻撃を受け止め、剣を振り上げる。振り上げられた剣がワイバーンの尻尾を切り裂いた。

 尻尾を切られたワイバーンは咆哮を上げながら空を旋回する。

 攻撃のタイミングを伺っているようだった。


「どうする? 【孤高の鉄剣士】?」

「ワイバーンの動きを止めてくれ、そうすれば俺が叩き落とす」

「分かった!!」


 空を旋回していたワイバーンは爪を前に出して攻撃を仕掛けてくる。オスカーは跳躍し、剣を構える。

 ヨハンもマスケット銃を構え、援護射撃を行う。ヨハンが放った弾丸はワイバーンの翼に被弾し、バランスを崩す。オスカーはその隙を逃さずに剣をワイバーンに叩きつけた。

 攻撃を食らったワイバーンはそのまま海面に叩き落とされた。


「【孤高の鉄剣士】!!」

「……後は任せた……」

「おう!!」


 ヨハンはマスケット銃を構え、銃口をワイバーンに向ける。そして、引き金を引く。放たれた弾丸はワイバーンの頭部に着弾し、雷撃が爆ぜた。

 雷撃を受けたワイバーンは痺れ、そのまま海に沈んだ。

 ワイバーンが飛び出してくるか様子を伺っているが、動かなくなったことを確認した。


「ふぅ……何とか倒したか」

「…………助かった……」


 二人は安堵しながら武器をしまった。


「ワイバーンが何故こんな所に」

「……【悪角のリドルゥ】の件もある……ギルドには俺の方から報告しておく」

「分かった」


 二人は海藻に群がるプラチナロブスターの方を見る。


「取り敢えず海藻やプラチナロブスターを片付けるか」

「……そうだな……」




 ペイルオ海岸の上空。

天高く、空を舞っている【悪角のリドルゥ】は先程の戦闘の様子を眺めていた。

 オスカーの戦闘の様子を一秒も見逃すことなく目に焼き付けていた。オスカーの動きを一つ一つ確実に覚えていく。

 次にオスカーと対峙した際に必ず殺すため、【悪角のリドルゥ】はオスカーの研究を行っていたのだ。

 オスカーがワイバーンを倒すと、【悪角のリドルゥ】は翼を羽ばたかせ雲の中に消えた。雲の中を移動すると甲高い鳴き声を上げ、他のワイバーン達を集結させる。

 次の作戦を実行させるために使役したワイバーンと共に次の目的地へ向かう。

 雲の中を飛行している中、【悪角のリドルゥ】は不気味な笑みを浮かべていた。

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