絵の依頼を受けて、祭り期間中の異国を訪れた新人画家。画家の目で見るだけあって、世界は数えきれないほどの、繊細な色で溢れています。彼が出会った、赤が好きだという女性は、誰を喪ったのか。死者を弔う祭りは、生者のためでもある。絵を描くことの意味に、迷いながらも。それでも彼は、描き続けずにはいられないのでしょう。素晴らしい物語でした。
独特でどこかノスタルジックな世界観が、渡が乗っていた鉄道に私も一緒に乗せたのでしょうか。気づけば、一気に読了していました。 こんなにも色が世界を語る作品を読んだのは、初めてです。大自然や道具だけでなく、渡や朝顔、ムスビの想いまでもが、それぞれが持つ色で鮮やかに浮かび上がってくる。そして、渡の絶望すらしそうな絵に対する思いは、狂気というだけでなく祈りにもどこか似ているようにも思えて……心が震えました。 描くことは美しく尊いのだという思いがこみ上げた、素敵な作品でした。